ネイティブ対応を果たしたマスタリング用DAWソフトの新バージョン

PRISM MEDIA PRODUCTSSadie 6 Mastering
今回紹介するのは、業務用のDAWソフトと言っても良いSadie 6です。これまでターンキー・システム(音声処理用のDSPユニットと専用PC筐体で構成されている機器)で展開されてきた製品ですが、今回ソフトウェアがVer.6にアップデートされたことで初めてネイティブ環境で使用できるようになり、ターンキー・システムを導入しなくても、比較的安価に汎用PCで使用可能となっています。 もともとSadieはイギリスで生まれた製品で、1990年代初頭に初号機が発売されました。2008年にPRISM SOUNDブランドで有名なPRISMMEDIA PRODUCTSの傘下になってからは、PRISM SOUNDと共同で開発が行われているようになっています。Sadie 6はソフトウェアとプラグインの構成によって"ラジオ向け" "ポスプロ向け""マスタリング向け" "音楽制作向け"と用途ごとにパッケージが用意されていますが、今回は弊社ユニバーサル ミュージックのマスタリング・スタジオでも使用しているSadie 6 Masteringの説明をしていきます。

汎用オーディオI/Oで使用可能
CPU負荷の軽さも魅力


Sadie 6はWindows用ソフトで、32ビットのXP/Vista/7上で動作します。冒頭でも述べたように、従来はターンキー・システムのみでの販売でしたが、今回からネイティブ対応となり、ソフトウェア単体での購入も可能になりました。汎用WindowsマシンとASIO/WDM対応のオーディオI/Oとの組み合わせでシステムを構築することができます。もちろんターンキー・システムも販売は継続されているので、用途に応じて選択が可能です。なおターンキー・システムを併用する場合、セットアップ・ウィンドウのメニューからDSPハードウェアを使うのか、ネイティブで使うのかを立ち上げ時に選べるように設定できます。 ネイティブ環境での使用に関しては、意外とCPUへの負荷が軽いので、それほど高性能なPCでなくとも軽い動作をしてくれます(これが本ソフトの売りでもあるそうです)。一方、大量にメモリーを消費するサード・パーティ製のプラグイン(後述)使用時には4GBでは足りないケースも考えられますので、現在開発が進められているという64ビットOS版の完成を期待したいところです。Ver.6解説の前に、Sadie自体の説明を少ししましょう。Sadieでは、作業の大本となる画面をプロジェクトと呼び、デフォルトではその中に"EDL(Playlist)""Mixer""Clipstore""Transport""Project"といった基本的なウィンドウが並びます(メイン画面)。マスタリング時は他のソフトと同様、録音→編集→微調整→曲間決め→PQ/各種データ入力→試聴盤作成/マスター作成(DDP対応)という流れが基本となります。 まずは"EDL(Playlist)"というエディット画面上にオーディオを録音していきます。録音されたオーディオ・ファイルはClipと呼ばれ、"Clipstore"ウィンドウの中に数字/アルファベット順で格納されていきます。"Clipstore"には直接録音されたオーディオのほかに、既存のオーディオ・ファイルをインポートすることもできます。読み込み可能なオーディオ・ファイルは、主なものとしてはWAV/BWF/AIFF/SDIIなどをサポート。サンプル・レートは使用するハードウェアにも依存しますが、最大で24ビット/192kHzに対応しています。これらClipをプロジェクトに並べて作業を行っていきます。Clipの波形の編集はすべて"EDL(Playlist)"画面上で行うことができます。曲頭やお尻のトリミング、フェード書き、波形の移動、ボリューム・レベルの微調整など別ウィンドウを開くことも無く、視覚的に可能(画面①)。この辺は割とスタンダードな使い勝手だと思います。また、波形の色は変更ができないのですが、各色には意味があって、ユーザーが把握しやすいのはもちろん、何か分からないことやトラブルがあったときにサポートとの会話の中で波形の色でどんな状態にあるかを共通言語として理解できるので便利ではあります。濃い緑色の波形が通常の状態です。 弊社では現在、CDマスターをDDPファイルで納品することが100%と言ってよいほどになりました。自社でマスタリングする作品はもちろんですが、弊社はレコード・レーベルという関係上、外部スタジオや海外からのマスターも納品します。その際にはすべてのDDP音源をノイズの有無やエラー・チェックなどのために検聴するのですが、DDPイメージを何の変換もせずに直接プロジェクトにマウントできるのはSadieの特長でもあります。もちろん同様の機能を持ったソフトはほかにもありますが、決して多くはありません。検聴するという側面からは理論的にも精神衛生的にもこの"変更を加えない"という機能は助かっています。また、DDPファイルを作成した際にMD5でチェックしてくれるのと同時に、チェック・サムとMD5アプリケーションそのものをフォルダー内に作成してくれるのも珍しい機能です(画面②)。fade01-thumb-600xauto-62812▲画面① Clipの波形はトリミング、フェード・イン/アウト、ボリュームの調整などの編集が可能。プロジェクト上部の"EDL(Playlist)"画面だけでこれらの作業が行えるddp with md5-thumb-600xauto-62833▲画面② DDPの書き出し時にできるフォルダーには、D D Pデータ関連のファイルに加えて、M D5チェック・サム・ファイルや、そのチェック・サムと本データの比較確認時に使うM D5アプリケーションも保存される

定評ある高音質設計はそのまま
IZOTOPE製プラグインも同梱


弊社はSadieが比較的熟成されたVer.5から導入したので、それまでにあったかもしれない不具合などはあまり経験していません。そして昨年秋口にアップデートとなったVer.6もVer.5を踏襲した作りになっており、基本的な使用方法に戸惑うことはありませんでした。Ver.5からアップデートした際、設定が引き継げるのでセットアップの手間も省けます。もちろん上位互換なのでVer.5で作成したプロジェクトもVer.6で使用できます。なお、Ver.5とVer.6は同時使用できないため、アップデート時には注意が必要です。最初に気付いた変更点は、全体的なG U Iが変更され、カラーリングが落ち着いた色合いになったことです。アイコンが変更された個所もあり最初は若干戸惑いましたが、配置は変わっていないので慣れれば全く問題無いです。配色のカスタマイズはできませんが、明るさの変更は段階的にできます。 音質面ではどうか?というと、ほとんど変わらないのではないかという印象です。今回のバージョン・アップが主にネイティブ対応に重きを置いているためか、内部的な演算処理などの変更は無さそうな感じです。弊社がマスタリング用にSadieを導入したのは、音質面が大きかったという経緯もあるので、音質が変わらないという点は良い意味で安心できます。 今回のバージョン・アップで一番助かっているのは、実はCDライティングの際にさまざまなドライブに対応したのに加え、"一度イメージ・ファイル化してから焼く"という仕様になったことです。今までは"プロジェクトから直接CDを焼く"という仕様だったので、例えば10枚、20枚とCDを焼かなければいけない場合、何枚か焼くごとに不具合が起こるケースがありました。しかしイメージ・ファイルからライティングするようになったため安定度が格段に上がっています。また新機能として、"Quick Locators"がロケーター部に加わりました。これは既存のロケート・ポイント間をワンクリックで簡単にループ・ポイントとして設定できる機能です。ループ・ポイントはロケーターL/Rで囲わなければ設定できませんでしたが、この機能をONにするとワンクリックで設定済みのロケート・ポイントの間をそのままループ・ポイントとして使用できます。_ さらにP R I S M S O U N D製のS N S(ディザ)が使用できるようになりました。ディザ機能はもともとHiDither96というプラグインが付いていますし、音色変化の好みもあるので一概にコレが良いとは言えませんが、選択肢が増えたことはありがたいです。また、Sadie純正のプラグインに加えて、VST/DX形式をサポートしているので、WAVESなどポピュラーなサード・パーティ製のプラグイン・エフェクトも使用可能。Ver.6からは新たにI Z O T O P E製のV S Tプラグインも数種類あらかじめバンドルされています。ディレイ、コーラス&フランジャー、リバーブ、マルチバンド・コンプ、パラメトリックEQ、ピッチ・シフトなど、Sadie用にカスタマイズされたバージョンです(画面③)。個人的に、マスタリングの際には、取り込んだ音に対して後から音色を変更することはあまり無いのですが、これもまた選択肢が増えてありがたいことです。izotope plugin-thumb-600xauto-62821▲画面③ 今回から標準付属するI Z O T O P E製V S Tプラグインは、画面のSimple Mastering(左)やMultiband Compressor(右)など9種類。さらにサード・パーティ製VST/DXプラグインの使用にも対応したレストレーション系プラグインとしては、サード・パーティ製なので別途購入となりますが、Sadie用にカスタマイズされたCEDARプラグインを使用することができます。DeNoise96、DeClick96、Retouch、Dethump96、DeCrackle96といったラインナップです。ちょくちょく使うので割と重宝しています。今回紹介したSadie 6 Masteringのほかにも、音楽制作やポストプロダクション用パッケージもあるので、ネイティブ対応したSadieに興味のある方はDAWの選択肢に入れられるかもしれません。また細かい部分で使い勝手が向上しているので、既にターンキー・システムを導入しているスタジオも余裕があればVer.6へアップデートをすると良いかと思います。
PRISM MEDIA PRODUCTS
Sadie 6 Mastering
オープン・プライス (市場予想価格/600,000円前後)
Windows /Windows XP/Vista/7( すべて32ビット版、7のStarter/Home Basicはサポート外)、2GB以上のRAM