DSPによる音質補正機能と保護回路を持つPA用パワード・スピーカー

YAMAHADXR15
YAMAHAのPA用2ウェイ・パワード・スピーカーDXRは、フランスのメーカーNEXOとのコラボ製品であるDSRの進化版と言えるシリーズ。DSRが持つ先進的なDSP処理を継承しながら、ライブ・ハウスなど中小規模の現場向けに考え抜かれた機能を備えています。今回は、ウーファー口径によって8/10/12/15インチの4種類をラインナップするDXRシリーズの中で、ライブ・ハウスや簡易PAシステムなどで幅広く使える15インチ型=DXR15をレビューします。

環境に応じて出音の音質を自動調整
軽量かつさまざまな設置方法に対応


DXRシリーズはDSRシリーズから3つの大きな特徴を受け継いでいます。まずは音圧の高さ。内蔵のクラスDアンプは低域950W/高域150Wという高い出力(ピーク)を持つ上、最大SPLは133dBを実現。また、さまざまな環境で迫力のある音を提供する機能として、出力レベルをリアルタイムに調整するプロセッサー=D-CONTOURを搭載しています。D-CONTOURには"FOH/MAIN" "MONITOR"といった2種類のモードが用意されています。スピーカーをフライングしたりスタンドへ設置したとき、低域に不足を感じることがありませんか? こういったときにスイッチを"FOH/MAIN"にすると、50〜100Hz辺りを持ち上げてくれるのです。"MONITOR"はウェッジ・モニターとして使う際に選ぶモード。床面からの反射が引き起こす低域への影響を、50〜100Hz辺りをカットすることで補正します。2つ目の特徴は高音質。DXRシリーズはバイアンプ駆動となりますが、気になるのはクロスオーバー特性です。DXRシリーズには独自のチューニングを施したフィルターが搭載されているため、クロスオーバー周波数(2.1kHz)の振幅/位相特性を改善してくれます。そして、3つ目の特徴は高い信頼性。電源/アンプ/スピーカーの3セクションにDSPによる保護回路を搭載し、各コンポーネントを通る信号を監視することで精度の高いプロテクションを実現しています。上述3点に加え、DXRシリーズでは"モノとしての扱いやすさ" が大きな特徴となっています。例えばDXR15は重量22.5kgですが、DSRシリーズの15インチ型=DSR115は28kg。つまり6kg近くも軽いのです。エンクロージャー側面のハンドルも握りやすく、筆者のように現場で働く女子でも無理なく運べると思います。また、さまざまな設置方法に対応しています。特に、左右対称に設計されている点はウェッジ・モニターとして使う際に便利でしょう。2台用意すれば、ステレオ・ミックスのモニターとしても使えます。背面には入出力を装備。マイク/ライン・イン(XLR)×1とライン・インL/R(TRSフォーン)×1系統、ライン・アウトL/R(RCAピン)×1系統にはそれぞれレベル調整用のツマミが用意され、各入力をミックスして出力できます。そして便利の極みが、同じく背面に備えられたFRONT LEDDISABLEスイッチ。これを押すと、フロント・パネルのLEDを消灯できます。プラネタリウムなどの現場でも、ワンタッチでLEDをOFFにできます。

チューニングの必要性を感じないほどに
楽器やマイクの音を忠実に再現


今回は、普段から15インチの2ウェイ・パワード・スピーカーを使用しているキャパシティ50人程度のライブ・ハウスでテスト。ペアのDXR15をスタンドに設置し、ステレオで使いました。まずリファレンスCDをかけてみたところ、とてもクリアな音質という印象! スタジオ用のモニター・スピーカーのように音源の再現能力が高く、チューニングの必要性が感じられないくらいです。テストに参加してくれたのは、アコースティック・ギター弾き語りのアーティスト。普段使っているコンデンサー・マイクや、SHURE SM57/SM58などのダイナミック・マイクで収音してみました。すると驚いたことに、DXR15はマイクそれぞれのキャラクターを見事に再現してくれたのです!次にD-CONTOUR機能の"FOH/MAIN"をONにし、それまで使っていたグライコをフラットにしました。D-CONTOURによる音質補正は実によくできています。卓のパライコを使いほんの少し調整しただけで、十分に会場にマッチした鳴りになってくれました。さらにD-CONTOURを"MONITOR"に切り替え、ウェッジ・モニターとしても使用。こちらもグライコをフラットにして試しましたが、全くフィードバックを起こしませんでした。スゴい! 環境によりますが、よほど特殊なマイクでない限り、入力された音をフラットな状態で出力できそうです。最後にバンド演奏でもテスト。楽器の音を忠実に出力する上、パワー感も十分! 出音に無理はなく、全帯域の分離が良い印象です。昨今のニーズに合わせたサウンドといった感じです。まさに"2010年代型ハイパワー&高音質"と言うべき、素晴らしいスピーカーだと実感しました。

▼リア・パネルには左上からマイク/ライン・イン(XLR)、スルー・アウト(XLR)、ライン・インL/R(TRSフォーン)×1系統、ライン・イン(RCAピン)×1系統、リンク・アウト(XLR)といった端子群が並ぶ。リンク・アウトを除く端子には、それぞれ入出力レベルを調整するツマミが備えられている。パネル右側にはDSPセクションが用意され、上からD-CONTOURスイッチやハイパス・フィルター・スイッチ(100/120Hz)を装備




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年4月号より)
YAMAHA
DXR15
102,900円
▪周波数特性/49Hz〜20kHz▪最大音圧レベル/133dB SPL▪アンプ出力/1,100W(低域950W/高域150W)▪クロスオーバー周波数/2.1kHz▪外形寸法/445(W)×700(H)×380(D)mm▪重量/22.5kg