12AX7真空管×2本を搭載しMS録音にも対応する2chマイクプリ

ARTPro MPA II Reference Series
ARTと言えば、マイクプリのPro MPA、TubeMPなど、真空管による個性的で音楽的な温かさをもたらしてきた米国のブランド。そんな同社からリリースされ、定評のあった2ch仕様の真空管マイクプリ、Pro MPA IIに限定モデルが登場。良質な製品をリリースしてきた同社だけに、本機に対する期待も多いに高まります。

真空管のプレート・ボルテージの選択や
入力インピーダンス切り替えに対応


まずは、通常モデル(Pro MPA Ⅱ)とは異なる外観部分から。光沢のあるブラック・ボディが落ち着いたつや消しの黒に変更され、中央に位置するVUメーターも青いバック・ライト仕様に。さらにビンテージ・タイプのノブ、青白く発光するファンクション・スイッチを採用するなど、高級感漂うデザインとなっています。正面パネルに並んでいるツマミ類に変更は無く、左からGAIN、INPUT IMPEDANCE(150〜3,000Ω)、OUTPUTLEVEL、左下にはフォーンのINSTRUMENT入力(Hi-Z)とLOW CUT FILTERを装備。VUメーター下のファンクション・スイッチは左からGAIN(+20dB/Normal)、ファンタム電源スイッチ(+48V/OFF)、真空管プレートの電圧が選択できるPLATE VOLTAGEスイッチ(High/Normal)、PHASEスイッチ(Invert/Normal)と並びます。さらに通常モデルと異なる点として、本機にはマッチングの取れた2本の12AX7真空管を搭載。そのほかはPro MPA Ⅱと同様で、中央には、MSマイキングに対応するデコード・スイッチ、右側(ch2)のOUTPUT LEVEL隣にはステレオ/デュアル・オペレーションの選択が可能な切り替えスイッチ。入力端子は先述したフロント・パネルにあるほか、リア・パネルにXLRがそれぞれ用意され、出力はXLRとTRSフォーンを装備。この2種類の出力端子は同時使用も可能です。さらに、うれしいことに入出力端子部は金メッキ仕様。また、出力レベルは+4dBu/−10dBVの切り替えが行え、その際メーターは、それぞれの出力に合わせて切り替わります。

広大なヘッド・ルームによるクリーンな音
自然な広がりと中抜けの良いMS録音


では、NEUMANN U87をつないで実際に音を聴きながらチェックしてみます。まずは入力インピーダンス可変機能。先述したように150Ω~3,000Ωの間で入力インピーダンスを変えることができ、入力ソースに合わせてマッチング/ミスマッチングさせることで、音色のニュアンスが変化します。ざっくり表現すると、ローインピーダンス受けは重心が低めで温かみと存在感のある音色。ハイインピーダンス受けでは音にスピード感が増し、歯切れと抜けの良い音色といった感じです。当然、インピーダンスの違うリボン・マイクからダイナミック/コンデンサー・マイクまで対応します。フロント・パネルのINSTRUMENT入力(Hi-Z)は1MΩの固定となります。次に真空管のプレート電圧の選択機能を見ていきます。HighとNormalの2種類が設定可能で、Highモードでは、高電圧(300V)により周波数特性が100kHz以上と幅広いレンジが得られるため、ヘッド・ルームが広くひずみの少ないクリーンなサウンドになります。逆にNormalモードでは入力が大きくなるにつれ倍音が多くなる、いわゆる真空管特有の温かみが加わり、クラシカルなクランチ・サウンドといった印象。特にギターなどで使えそうですね。インプット/アウトプットのレベル・コントロールと、プレート電圧選択モードによってはひずみ具合、帯域の膨らみ方、つぶれ具合などが変わるので、楽器/ジャンル/フレーズなどに合わせてサウンドを調整していけます。Pro MPA Ⅱシリーズで最大の目玉と言える機能が、MSデコーダーでしょう。これは、MID(単一指向)とSIDE(双指向)のマイク2本を使い、MSマイキングで収音した信号をステレオにデコードするもので、音の広がり具合が自然で中抜け感が少なく、L/Rの広がり具合も操作できる機能です。さらに、2本のマイクは同機種である必要がないため、さまざまな組み合わせが考えられます。また、本機のハイパス・フィルターは10Hz~200Hzと、かなり積極的な使い方が可能なので、一方のマイクだけ強めに使うこともできます。さらなる使い方として、インピーダンス可変機能、プレート電圧、MSデコーダー機能の組み合わせで、例えば"MIDマイクをローインピーダンス受け、SIDEマイクをNormalモードでひずませて、ハイパス・フィルターでさらに調整......"などと、かなりアイディアは広がります。ステレオ録音をする際、L/Rの音のつぶれ方や膨らみ具合、広がり具合を上手にコントロールすることは非常に難しいです。MS方式の素晴らしい点はL/Rの2本のマイクの組み合わせなので、広がり具合、ひずみ具合がとても簡単にそろいます。クリーンなサウンドから、温かみのある個性的なステレオ音場まで、組み合わせはアイディア次第!本機はプラグインでは表現できない音色、音場のコントロールをかなり楽しめました。特にMSデコード機能では、より積極的なステレオ録音の可能性を広げることができるでしょう。

▼リア・パネル。左からch2のINPUT(XLR)、OUTPUT(XLR&TRSフォーン)、OPERATING LEVEL CONTROL、ch1のINPUT(XLR)、OUTPUT(XLR&TRSフォーン)




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年4月号より)
ART
Pro MPA II Reference Series
52,500円
▪周波数特性/15Hz〜48kHz(+0、-1dB)@Normalプレート・ボルテージ、15Hz〜120kHz(+0、-1dB)@Highプレート・ボルテージ▪ゲイン/+75dB▪THD+N/0.005%以下▪ダイナミック・レンジ/110dB▪外形寸法/482(W)×88(H)×222(D)mm▪重量/4.7kg