卓上型スプリング・リバーブ+アナログ・マルチモード・フィルター

VERMONARetroverb Lancet
ドイツのブランドVERMONAから発売されているデスクトップ・タイプのLancetシリーズ。アナログ・モノシンセ・モジュールのMono Lancet、アナログ・バスドラム・モジュールのKick Lancet、アナログ・マルチモード・フィルターのFilter Lancetに続いて、スプリング・リバーブを搭載したRetroverb Lancetが登場。以前あったラック・サイズのRetroverbの機能を基に、Lancetシリーズとして小型化したものとも言えます。

重厚な筐体で安定感抜群の操作性
スプリングはACCUTRONICS製


本機は本物のスプリング・リバーブに、Filter Lancetと同じ機能のフィルター・モジュールを組み合わせたものです。実際にパネルをFilter Lancetと見比べてみると、中心部のフィルター・セクションはLFO波形の三角波がEGになり、VCAのモジュレーション・ソースに外部CVが追加されるなど若干の変更はあるものの、ほぼ同じ構成と言えます。その左側にSPRINGと書かれたスプリング・リバーブ・セクションが設けられた上、3つのスプリングを内蔵しているので、ほかのLancetシリーズの横幅より、本機は少し大きめのサイズになっています。重厚な金属製の筐体は高級感があり、持ってみるとややズッシリきます。ちょっとやそっとでは動かないので、ツマミやスイッチを動かす際の安定感が素晴らしいです。まずキモであるスプリング・リバーブ。DAW世代のために軽く説明しましょう。かつて大型で薄い鉄板の端で鳴らした音を反対側から拾うことで、鉄板の共鳴音を得るプレートというリバーブ・システムがあり、鉄板の代わりに複数本のスプリングを利用したのがスプリング・リバーブです。プレートに比べると小さく収まり、スプリング独特のうねりによるリバーブ音はデジタル・リバーブやプラグインなどでは再現が難しく、実際にスプリングを揺らすことで得られる躍動感が根強く支持されています。ギター・アンプやHAMMONDオルガンなどに内蔵されたものもあり、ベンチャーズのギターでのベチャベチャ鳴るリバーブ音をはじめ、ダブやレゲエなどでもロング・ディレイとともにドープな空間作りに重宝されています。本機にはスプリング・リバーブの代表格とも言えるACCUTRONICS製のものを搭載しています(サイズから察するにTYPE8でしょうか?)。

CRASHボタンでスプリングが揺らせる
独特の粗さと深みのある音が秀逸


操作はシンプルで、TONEノブを左に回していくと低域が強調されて高域が減衰し、右に回すと高域が強調され低域が減衰します。SPRINGスイッチではリバーブをVCFとVCAの前(PRE)と後(POST)のどちらにルーティングするかを設定します。POSTではVCFとVCAで加工された音に対してリバーブをかけますが、PREではリバーブ音に対してVCFやVCAでの加工が施されるので、リバーブ音のディケイ・タイムがコントロール可能。また、けってスプリングを揺らすことでガシャーンと鳴らす手法がありますが、CRASHボタンを押すことで安全に同じ効果が得られます。インプット・セクションにはGAINとディストーション用のDRIVEノブ、アウトプット・セクションにはドライ/ウェット音のバランスを取るMIXとVOLUMEノブ、それにBYPASSスイッチを用意。VCF(フィルター)は24dBのハイパスとローパス、12dBのバンドパスの3種類で、カットオフとレゾナンス・ノブ、モジュレーション・ソース・セレクターとその強さを調整するINTノブ、LFOに対するINTノブ、フィルターのON/OFFスイッチがあり、強力なフィルタリングと多彩なモジュレーションが可能。またBALLSというノブを上げると高域と低域が強調され、より力強い音になります。VCAにはLFO INTとモジュレーション・ソース・セレクター、モジュレーションのON/OFFスイッチがあり、下段にはLFOやEG(エンベロープ)を設定するセクションがあります。これらフィルターやモジュレーション群はかなり強力でエグイ音作りが可能で、その威力は既にFliter Lancetで証明済みですが、本機ではさらにスプリング・リバーブによる独特の粗さと深みがあるリバーブ音が秀逸ですね。個人的にはTONEを右寄りに設定するのが気持ち良かったです。DAWで外部エフェクターとして使用する際は、インサートにして本機でドライ/ウェット音のバランスを取るよりも、センド/リターンで接続し、本機のゲインやフィルターで積極的な加工をした後のリバーブ音を戻して原音にミックスすると、かなり面白い効果が出せると思いました。そのほか面白かった設定は、リバーブをPOSTにして、フィルターをハイパスにして軽く絞り、BALLSは右いっぱいに振り切って、LFOをHIの設定で2時くらいのスピードにしてリズム・ループを鳴らし、EGのディケイや各LFO INTをいじるとかなりドープでアガりました。レゲエ/ダブにもいいでしょうが、アンダーグラウンドなミニマル・テクノ作りにも威力を発揮しますね。ほかにもペダルやCV入力もあるため、外部機器などから本機フィルターの操作などが可能。Retroverb Lancetはあなたの音作りに特別な何かを加味してくれることでしょう。

▼リア・パネル。左からライン・アウト(フォーン)、バイパス・イン(フォーン)、トリガー・イン(フォーン)、クラッシュ・イン(フォーン)、ペダル/CVイン(フォーン)、ライン・イン(フォーン/Hi-Z入力)、オーバー・キル(フォーン)、電源アダプター




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年2月号より)
VERMONA
Retroverb Lancet
オープン・プライス (市場予想価格/ 60,000円前後)
▪最大入力レベル/−32dBu▪最大出力レベル/20dBu▪周波数特性/20Hz〜20kHz▪外形寸法/260(W)×80(H)×143(D)mm▪重量/1.35kg