2VCOと内蔵ディレイがそれぞれ特徴の超小型アナログ・シンセ2機

KORGMonotron Duo/Monotron Delay
ハードウェアの小型化が進む一方で、スマートフォン用の音楽制作アプリが出現するなど、制作環境のミニチュア化は加速している。KORGはKaossilatorやMonotronといった低価格&超小型シンセ、そしてiMS-20やiKaossilatorなどのAPPLE iPad用アプリで、この潮流をリードしてきたメーカーだ。特に"手のひらサイズ/単四電池駆動"というモバイル性に富んだスペックを持ちながら、1万円をはるかに切る価格を実現した1VCOのアナログ・シンセMonotronは、多くのミュージシャンに受け入れられた。そんなMonotronに、この度兄弟機が登場。Monotron DuoとMonotron Delayだ。それぞれMonotronと同じサイズで、用意されるツマミの数も同一ながら、その内容は各機独自のパラメーターを調整できるものとなっている。機能をチェックしつつ、それぞれの得意分野を見ていこう。

周波数変調で過激な音作りが可能
音階をアサインできるコントローラー


まずは、2基のオシレーターを搭載するMonotron Duoから(写真①)。本機はVCO1/2の発振音をミックスできるだけでなく、同社アナログ・シンセの名機Mono/Polyにも採用されたクロス・モジュレーション機能"X-MOD"を実装している。この機能では、VCO2でVCO1を周波数変調(=FM)することで、複雑な倍音を伴った金属的なサウンドを作ることができる。また正確な変調が行えるFM音源とは異なり、わずかなピッチの違いで響きが大きく変わるため、バイオレントな音色も生成可能。音を出しながらVCO2のピッチを変えていくと、クレイジーな音色変化を得られるので、飛び道具的な音が欲しい際に有効。

▼写真① Monotron DuoはMonotronシリーズで唯一、オシレーターを2基搭載。フロント・パネルでは各オシレーターのピッチを変えられるほか、"X-MOD INT."でクロス・モジュレーションのかかり具合をコントロール可能。フィルター・セクションのVCFでは、カットオフ周波数とレゾナンスを調整できる


トップ・パネルに配置されているツマミはVCO1/2の"PITCH"(音の高さ)、X-MODの"INT."(モジュレーションの深さ)、VCFの"CUTOFF"(カットオフ周波数)、VCFのPEAK(レゾナンス)となっている。LFOは搭載されていないが、2基のオシレーターとX-MODで十分に過激なサウンドを作れる。またツマミ群の左に位置するスイッチでは電源のON/OFFのほか、"VCO1を使う""VCO1/2をミックスする"といった2種類のモードを選択可能。2オシレーターをミックスする際は、各発振音のピッチをわずかにズラすことでコーラスのかかった響きが得られるほか、違う音程にすれば和音も作れる。またオクターブ違いで重ねることによって、豊かな倍音の生成も可能だ。ちなみに"せっかくだし、X-MODをONするときもオシレーターを2つ使おう"と思う人がいるかもしれないが、2基のオシレーターから音を出すより、VCO2を純粋なモジュレーション用ツールとして使った方が、VCO1に対する変調の効果を聴き取りやすい。そのほか、Monotron Duoは鍵盤が描かれた独自のリボン・コントローラーを装備。同様のコントローラーはMonotronにも備えられているが、本機には出音に正確な音程を付るための機能が採用されている。鍵盤に音階をアサインできるのだ。しかもリア・パネルの赤いボタンで、クロマチック(半音階=通常のピアノと同じ音の並び)/メジャー/マイナーといった3種類のスケールを切り替えられる。指ではなくタッチ・ペンなどでプレイすれば、鍵盤ごとの音の高さをより正確に弾き分けることができるだろう。もちろんスケールの割り当てを解除し、リボン・コントローラー本来の連続的な音程変化を得ることも可能だ。

音の荒れ具合も気持ち良いディレイ
三角波/矩形波を選べるLFO


一方、Monotron Delayはその名の通り、Monotronをベースにディレイ・エフェクトを追加した1VCO機(写真②)。トップ・パネルのツマミでフィルターのカットオフ周波数を調整できるほかLFOを搭載し、シンセらしい効果音作りに力を発揮する。そのほかのツマミにはLFOの"RATE"(周波数)、"INT."(モジュレーションの深さ)、ディレイの"TIME" "FEEDBACK"を用意。トップ・パネルのスイッチでは電源をON/OFFできるほか、LFO波形を三角波/矩形波から選べる。

▼写真② Monotron DelayはLFOを搭載しており、トップ・パネルの"RATE"でその周波数を、"INT."でオシレーターに対するモジュレーションのかかり具合を調 整できる。内蔵ディレイは、タイムとフィードバックをコントロール可能。また、トップ・パネルのペイントやリボン・コントローラーの白鍵部分には蛍光塗料 が施されており、ブラック・ライトで鮮やかに光る


LFOの波形は、アナログ・シンセの音作りに思いのほか大きな影響をもたらす。例えば三角波のLFOでオシレーターをモジュレーションすると、音の高さを正確に設定しづらくなるが、周波数を高い帯域から低い帯域へと滑らかに変化させることができるため、パトカーのサイレン音やUFOの飛行イメージ音などを再現しやすい。一方矩形波のLFOでモジュレーションすると、特定の2つの周波数を行き来するサウンドが得られる。それはちょうど、異なる高さの音を往復する救急車のサイレンのような響きである。リア・パネルには驚くべき機能を搭載。右側の半固定ノブをドライバーで回すと、LFOの三角波をノコギリ波のソウ・アップ/ダウンに切り替えられるのだ。さらに矩形波のデューティ比を変えることもでき、音色に変化を付けられる。リボン・コントローラーには独自のものを採用しており、出音を4オクターブの音域で変化させることができる。劇的なピッチ・シフトが可能だ。その反面、これだけコンパクトなコントローラーに4オクターブ分の音が詰め込まれているので、鍵盤のイラストと実際の出音が一致しない上、音程を付けた演奏が難しい。しかし本機はディレイやLFOを特徴にしていることもあり、メロディを正確に弾くための機種というよりは飛び道具としての性格が強い。なので、リボン・コントローラーについて、音の高さを正確に表現することよりも音域の広さを優先した判断は素晴らしいと言える。ディレイのサウンドは"荒れ具合"も含めて気持ち良く、フィードバックの量を増やすことでディレイ音が徐々にひずみ、消えることなく鳴り続ける。またフィードバックが重なる中でディレイ・タイムを調整すると、音にうねりを加えられる。LFOの"RATE"でもフィードバックの音を変化させることができ、ディレイの"TIME"と併用すれば、より複雑なフィードバックの構築を楽しめる。

MS-10/MS-20譲りのVCFを搭載
各機は単体のフィルターとして使用可能


さてMonotron Duo/Delayは、いずれも同社アナログ・シンセの名機MS-10/MS-20と同等の回路を持ったフィルターを1基備えている。Monotron Duoではレゾナンスを調整できるため、より強烈なサウンド作りが可能。一方MonotronDelayでは、最初から多少レゾナンスのかかった設定になっているようだ。アナログ・シンセらしいかかりの良いフィルター・サウンドが、カットオフ周波数を調整するだけでも実現できる。また両機共に外部入力(AUXイン)を備え、MonotronDuoは単体のフィルターとして、Monotron Delayはフィルター/ディレイとしても扱える。


Monotron Duoでは、2オシレーターによる太いサウンドや幅広い音色を得ることができる。また、しっかりとした音程を持つフレーズの演奏にも向くだろう。一方、Monotron DelayはDJプレイ時の効果音やとにかく過激なサウンドが欲しい人にオススメ。両方の機能を兼ね備えた最高級機も発売してほしいが、そうなると大型化する上、価格も高くなってしまうだろう。手軽さが最大の魅力となるMonotronシリーズ。4,935円という低価格なのだから、機能的にも十分だ。

▼両機のリア・パネルは同様の設計。左からヘッドフォン端子、AUXイン(いずれもステレオ・ミ ニ)、そして内蔵スピーカーとヘッドフォン端子の出力音量を調整するためのボリューム・ノブが並ぶ。異なる点は右側に備えられたパーツ。写真上の Monotron Duoはリボン・コントロール鍵盤のスケールを切り替えるスイッチを備えており、写真下のMonotron DelayにはLFOの波形を変更するための半固定ノブが装備されている




サウンド&レコーディング・マガジン 2012年2月号より)
KORG
Monotron Duo/Monotron Delay
共に4,935円
Monotron Duo▪シンセ構成/2VCO(クロス・モジュレーション可能)、1VCF▪スイッチ/STANDBY/VCO1/VCO1+2▪ツマミ/VCO1 PITCH、X-MOD INT.、VCO2 PITCH、VCF CUTOFF、VCF PEAK Monotron Delay▪シンセ構成/1VCO、1VCF、1LFO▪スイッチ/STANDBY/LFO波形切り替え(三角波/矩形波)▪ツマミ/LFO RATE、LFO INT.、VCF CUTOFF、DELAY TIME、DELAY FEED BACK 共通の仕様▪コントローラー/リボン・コントロール鍵盤▪入力/AUXイン(ステレオ・ミニ)▪出力/ヘッドフォン端子(ステレオ・ミニ)▪電 源/単四電池×2(最大8時間)▪外形寸法/120(W)×28(H)×72(D)mm(ツマミの高さを含む)▪重量/95g