45GBの素材付属&多彩なシンセサイズが可能なソフト・サンプラー

MOTUMach Five 3
前バージョンのリリースからおよそ4年、首を長くして待っていたユーザーもさぞ多いのではないかと思いますが、ようやくGUIも一新され、MOTUのソフト・サンプラーMach Five 3がリリースされました(VST/RTAS/Audio Units/スタンドアローン対応)。以前から定評のあるUVIエンジンも第3世代となり、比較的軽めに動作するソフト・サンプラーとして知られているところですが、今回の新バージョンはUVI本家のサンプル・プレイバッカーULTIMATE SOUND BANK UVI Workstationをもはるかにしのぐ機能てんこ盛りの仕様に、レビューするワタクシも心して掛からねば......と、ふんどしを締め直している次第です。では、早速チェックしてみましょう!

ジャンルを網羅した大容量ライブラリー
読み込み素材は32ビット/192kHz対応


Mach Fiveは、2003年にMOTUから発売されたソフト・サンプラーで、2007年にバージョン2、そして今回がバージョン3と、ほぼ4年おきに着実に進化してきました。GUIの第一印象は多少の取っつきにくさは否めませんが、慣れてくると使い勝手が良いと定評がありました。そして、今回アップグレードされた内容を見ると、その価格からは計り知れないほどの内容が盛り込まれています。後述しますが、GUIもかなり洗練されて、取っつきにくさも無くなっています。概要を見ていきますと、Mach Five 3の心臓部である音色重視のUVIエンジンは第3世代のUVI Engine XTとなり、さらにCPU効率とクオリティが高められました。テスト環境はAPPLE iMac(Mid 2011、Core i5 2.7GHz)ですが、大容量のライブラリーを読み込んで鳴らしつつCPUの使用量を見ていても、ホントにこれだけ?って思えるほどです。大容量のライブラリーもディスク・ストリーミングを使用して再生しますので、多少のヘッダー読み込み時間さえ我慢すれば、あとは軽々と再生できます。しかも最高で32ビット/192kHzまでのオーディオも扱えますから、HD(ハイディフィニション)オーディオ・クオリティのサンプラーとしても機能するのが今どきですね!付属するライブラリーは、"Universal Loops & Instruments""MachFive Biosphere"などの基本となる楽器のほかに、スクリプト・テクノロジーをふんだんに使用した"Jbass""The Upright"や"Telematic"などの撥弦楽器、イタリアFAZIOLIのピアノをサンプルした"F Grand 278"、1979年製のRHODES Mark II Suitcaseを摸した"Mark79"といった特化音源に加えて、"Star Drums""Percussiv"などのリズム音源、そしてSFX系にはULTIMATE SOUND BANKの"XTreme FX"など、ほぼすべてのジャンルを計7枚のDVD-ROM(総量は45GB)で提供します(画面①)。 201201_Mach_Five_3_01.jpg▲画面① ライブラリーには専用画面が用意されたスクリプト音源もある。上はacoustic sa
mplesによるスクリプト音源"Telematic"、右は"Pervussiv congas"を呼び出したところ
 技術面では、IRCAM(イルカム)テクノロジーによるグラニュラー・シンセシスとリアルタイム・タイム・ストレッチ、ピッチ・シフト機能も装備されています。さらにシンセシスについては、後述するようにかなり実用的な機能が最初から用意されていますから、筆者としては、サンプラーというよりも、完全に1つのシンセサイザーとして魅力のあるソフト・シンセであると申し上げた方が的確な気が致します。1から音色を作り上げるシンセとしての実力も、過小評価してはならないということです。特にマニュアルを読むことなく直感的に扱っても、比較的簡単に音色を作成でき得る数少ないソフト・シンセの1つだと感じました。一方で、Mach Five 3のモジュレーション・アーキテクチャーは1つのオブジェクトに対して2基のフィルター、8基のLFO、6基のエンベロープ・ジェネレーター(!)を使用することができ、加えてスクリプトでいろいろな動作を組み立てられますから、相当複雑な音色も作ることが可能でしょう。無論、この辺りになると、モジュラー・シンセの知識についてもかなり精通してないといけないでしょうが......。サンプル、オシレーター、レイヤー、パート、エフェクトなどの数には制限が無いので、アナログ系波形を10基以上のオシレーターで鳴らせば、相当分厚いサウンドが作れそうですね!

柔軟性を増して使いやすくなったGUI
単体シンセ並みのシンセサイズも可能


それでは具体的にMach Five 3を使いながら説明していきましょう。まず全体のウィンドウですが、以前のような固定のウィンドウ・サイズではなく、某社の製品よろしく、フレキシブルなサイズ変更が可能となりました。デフォルトでも固定で4段階用意されていますが、右下の角のリサイザーで思いのままの大きさで作業できます。ですので、フル・スクリーンの編集も可能です。メイン・ウィンドウは基本は2カラムになっていて、左のカラムには、パートの一覧のほかにツリー表示、リスト表示、そしてブラウザーといった感じでタブが並んでいます。右のカラムは、インフォメーション、エディット、エフェクト、イベントとなっています。先ほど述べたように、直感的に扱えるように洗練されたデザインです。中でも、ツリー表示やリスト表示時のエディットは独特で、今までに無い操作法でプログラム内の構成がエディットできるのが、個人的には秀逸なデザインに感じられ、用途によっては便利だなと思いました。さて、実際の作業としては、読み込むパートをチョイスし、ネームのところで右クリック、"Load Program"からブラウザーを表示してインストゥルメントを読み込む......といった手順ですが、中には、Info表示において特殊なGUIを持った音色もあります。これはスクリプトを含む音色を読み込んだ場合ですが、このとき"i"と書かれたボタンをクリックすると、この楽器の説明付きで表示されるのは気が利いてます。多くのソフト・シンセもそうですが、膨大な数のライブラリーから目的の音にたどり着くのは、意外と時間の掛かる作業です。Mach Five 3では洗練されたマルチカラム・ブラウザーから直接たどっていくことももちろんできますが、キーワード検索で関連付けられたサウンドを見付けることも可能です。そうやって好みのサウンドを探して読み込んで使うのが基本となりますが、Mach Five 3では、12種類もある多彩なシンセ・エンジンを使用して普通のシンセサイザーとして使うのも面白いと思います。加算、減算、FMなど従来の方式もいいですが、僕が気に入ったのはウェーブテーブルで、MiniMやXpand、CZ、CP、面白いところではFarfis Organ、Solinaなど、思わずニヤリとしてしまいそうな名称の波形がずらりと並んでいます。そしてこのウェーブテーブル・モジュールでは、1つのオシレーター内で最大8ユニゾンのデチューンで使えますから、普通のパッドくらいならたった1つのオシレーターだけでも簡単に作れます(画面②)。そして、いろんな方式のオシレーターを幾つでも掛け合わせて音を作れるわけですから、そのバリエーションは計り知れません。まさに"サンプラーはもちろんのこと、シンセサイザー音源としても最高峰の域に達しています"といううたい文句にもうなずけます。 201201_Mach_Five_3_02.jpg▲画面② ウェーブテーブルによる音色作り。有名シンセと思われるサンプル波形がずらり。ちなみに、フィルターもOBERHEIM Xpanderとおぼしきものが存在する そうやって作り上げたサウンドに、操作性の良いアルペジエイターやスクリプト・プロセッサー(スクリプト・エンジンによるMIDI処理)などを組み込めば、演奏面、表現面でも今までに無い面白い効果が得られそうです。

視覚的に行えるマッピング画面
レイヤー切り替えのルールも多彩


一方、サンプラーとしての機能に目を向けると、マッピング編集機能はほかと比べても見やすく秀逸です。Mach Five 3のマッピング・エディターは、キー・グループのマッピングを視覚的に表示して、直観的にとらえることを助けます(画面③)。デスクトップなどに置いてあるフォルダーから、複数のサンプル・ファイルをドラッグ&ドロップで追加して新たなライブラリーを作るときなどにも、ルール付けられたファイル名から適切なレイヤー・マッピングを自動で行う機能を備えていますので、例えば何かの楽器をマルチサンプリングしてライブラリー化するときでも、クロマチックで鳴らして録音した後に、それらを1つずつのサンプル・ファイルにトリミングした後に書き出し、ルールに従ってファイル・ネームを設定すれば、Mach Five 3が自動的にマッピングしてくれるというわけです。 201201_Mach_Five_3_03.jpg▲画面③ マッピング・エディターでサンプルのキー・アサインをしているところ。視覚的にサンプルのアサイン範囲が確認でき、アンプ・エンベロープなどのパラメーター調節や、サンプル・レイヤーも当然可能また、レイヤー・ルール・エディター機能を使えば、1つの鍵盤内のレイヤー切り替えのルールなどをキー・スイッチ、ピッチ・ベンド、ノート範囲やスピード、レガートなどの違いで設定することができ、スクリプトを使うよりも複雑な音色チェンジを含むインストゥルメントを簡単に構築することが可能になっています。その他のトピックとしては、内蔵ミキサーが進化して、今やDAWのそれに勝るとも劣りません(画面④)。パートごとのエフェクト・インサート(無制限)や、AUXも4系統あります。内蔵エフェクトもリバーブやディレイからアンプ・シミュレーターまで47種類と十分です。
ユニバーサル・サンプル・ライブラリー・サポート機能もMach Five 3になってさらに進化しました。Kontaktフォーマットに関してはVer.4まで対応となりましたし、従来通りSymphonic Instrument、Ethno、Electrik Keys、BPMなどほかのMOTU音源やUVI Soundcardシリーズもライブラリーに加えることができます。 201201_Mach_Five_3_04.jpg▲画面④ ミキサー画面。インサートは無制限、センドで使えるAUXは4系統。40種類用意されたエフェクターの音色も本格的なものばかりだ限られた誌面では、Mach Five 3の機能をすべてお伝えすることはかないませんが、ジックリと向き合って音作りができるタイプのソフトであることは分かっていただけたかと存じます。筆者の手元に来た時点ではまだ日本語マニュアルがありませんでしたが、それでも多くの操作が直感的に使えてしまうほどのソフトでした。 
MOTU
Mach Five 3
オープン・プライス (市場予想価格/ 49,800円前後)
▪Mac/Mac OS X 10.5.8以降(10.7/64ビット対応)、INTEL Core Duo 1.83GHz以上(Core 2 Duo 2GHz以上推奨、PPC環境非対応)▪Windows/Vista SP2以降(7/64ビット対応)、INTEL Core Duo 1.83GHz以上(Core 2 Duo 2GHz以上推奨)▪共通/2GB以上のRAM(4GB以上推奨)、45GB以上の空き容量を持つHFS+形式のハード・ディスク、USBポート、iLokキー(別売)、DVDドライブ(インストールに必要)、インターネット接続環境とiLokアカウント(製品オーソライズに必要)