ミックス時に重宝するモニター・コントローラー搭載型のオーディオI/O

M-AUDIOFast Track C600
約1年前に本誌にてオーディオI/Oの進化は止まらないと書いたのですが、今のトレンドは"モニター・コンソール一体型"という、ありそうでなかった仕様です。その特徴はプロ・スタジオ・クラスのミキサーのみに付いていた"モニター・スピーカー切り替え機能"を搭載していること。ミックス時に重宝するこの機能に、ようやくメーカーが着目し始めたのでしょう。今回紹介するM-AUDIO Fast Track C600は、その点でも先陣を切った製品のひとつと言えます。同じカテゴリーに属する他社製品と、どう差別化を図っているのでしょうか? 早速見ていきましょう。

6イン/8アウトの豊富な入出力
3つのスピーカー切り替えスイッチを搭載


冒頭でお伝えした通り、本機の重要なポイントは "モニター・スピーカーの切り替え機能"です。我々エンジニアがミキシングをするときに注意すべきは"どんなスピーカー環境でもバランスや音質が良いミックスを作る"こと。なので、ミックス中にさまざまなスピーカーを使ってチェックします。そのためプロ・ユースのスタジオ・ミキサーにはモニター・モジュールがあり、最低2〜3個のスピーカーを切り替えています。従来のオーディオI/Oだと、このスピーカーの切り替えは難しいものでしたが、Fast Track C600は音楽制作を潤滑に行うために、モニター・コントロールの操作性を重視し、ボタン機能を配置した画期的な製品なのです。Fast Track C600はUSB2.0接続で、24ビット/96kHz対応のインターフェースです(Wind
ows/Mac対応)。アナログ入力を4つ、モニター・スピーカーおよびライン・アウトとして使えるアナログ出力を6つ、S/P DIFデジタルの入出力で合計6イン/8アウトの入出力を持っています。4つのアナログ入力はマイク/ライン・コンボ入力で、4つをすべてマイク入力として使用可能、48Vファンタム電源供給でコンデンサー・マイクもばっちり使えます。ヘッドフォン出力は2系統で、後述の付属ソフトを用いて、2つのバランスを作って出力することが可能です。入力1/2は切り替えスイッチによって、フロントのハイインピーダンス対応入力(フォーン)とリアのマイク入力(XLR)を選択します。その他にMIDI IN/OUTを備えているのも個人的に良いと思います。後述しますが、本機は録音主体のエンジニアよりも、音楽制作が目的の作曲家をターゲットにしているので、MIDIの配慮はそのためだと思います。加えてDSPを搭載するため、ダイレクト・モニターでモニター・リバーブをCPUに負荷をかけずにかけられます。次に外観を見ていきましょう、全体の印象はスタジオ機材っぽいゴテゴテした感じがなく、北欧などの高級オーディオ・メーカーをほうふつさせるルックスです。トップ・パネルの左側は入力セクションで、4つのマイク入力のゲイン調整ノブ、PADスイッチ、入力レベル・メーターが整然と配置され、レベルの具合や調整も分かりやすいです。そして2chごとにファンタム電源のON/OFFボタンが付いています。パネルの右側が出力セクションで、右手中央に配置されたモニター・ボリュームは、実際に触ってみると回転具合もスムーズでいい感じです。その上に今回の注目ポイントである、スピーカー切り替えボタンが3つ並んでいます。またダイアルの右側には"Multiボタン"が配置されますが、これが今回の第2の目玉機能です、その下にはおなじみのDAWトランスポート・ボタンが配置され、これも後述しますが"Multiボタン"も含めて、そのすべてがカスタマイズ可能で、非常に効率的な音楽制作をサポートします。

録音/再生ともに使いやすい
位相感に優れた中立的なサウンド


続いて肝心の音質評価をしていきましょう。同じ音楽ファイルをDAWに立ち上げて、AVID 192 I/Oと24ビット/48kHzで出音を比較しました。Fast Track C600の音質は一言で言えば素直で扱いやすい印象です。最近のオーディオI/Oは出音が派手だったり、逆にアナログ感を付け加えたりと、サウンドに個性を持たせた製品が多い中、本機はとても中立的なので、音作りがしやすいと思います。加えて音の立ち上がり感や位相感も、同価格帯モデルと比較すると本機は1ランク上の感じがします。192 I/Oと比べても、値段の差を考慮しても満足のいくクオリティだと思います。ヘッドフォンの音質も同様で、音量も十分にあり、リハスタやライブに持ち込んでも音量不足になることはないでしょう。録音の音質はNEUMANN U87 AIで録音したボーカルとギターをファイルで書き出し、同じ再生条件で他製品とマイクプリの比較をしました。低域が十分にあり、高域の抜けも不自然にカリカリしている感が無く、トラックにしっかりと存在する音です。前面の入力2に接続したエレキギターの音質も音ヤセすることもなく、ちゃんとアタックを拾っていました。結論としては録音/再生ともに扱いやすい素直な音だと思います。3つのステレオ出力に対応したスピーカー切り替えボタンがあるだけでも、エンジニア的には十分本機を購入する価値がありますが(後述)、より音楽制作のワークフローを効率化するべく、トランスポート・ボタンと"Multi"というフィジカル・コントローラー機能を持たせているのも心憎いところです。

録音作業を効率化するMulti機能
付属ソフトによる多彩なモニター環境


次にDAWと本機のコントロール・ソフトであるC600 Controlを説明しつつ、その点も紹介していきましょう。C600 ControlはM-AUDIOではおなじみのダイレクト・モニターを作るソフトです(画面①)。まずは先述の"Multi"の設定画面について(画面②)。Multiを一回押すごとに指定したキー操作を登録でき、これを8回まで作れます。例えば1=録音スタート、2=録音ストップ、3=テイクを登録/新しいテイクの作成、4=曲の最初に巻き戻す......という一連の動作を、Multiを押していけば繰り返してくれるので、ギターで両手がふさがっていてもMultiを押すだけでサクサクと録音できます。もちろんカスタマイズして自分の好きな動作を割り当てることもできるので、非常に便利です。さらにトランスポート・ボタンも同様にキー操作のカスタマイズが可能で、例えばABLETON Liveのように"早送り/巻き戻し"機能が無い場合は、別のキー操作をアサインでき、多様なDAWにも対応します。 201201_FastTrackC600_01.jpg▲画面① C600 Controlのインターフェース画面。6イン/8アウトのミキサー画面に加えて、下部でDSPによるエフェクト操作も容易にコントロールできる 201201_FastTrackC600_02.jpg▲画面② Multiの設定画面。Muitiボタンを押す順番にさまざまな機能を割り当てることができる。最大で8回分までのアサインが可能だ C600 Controlのその他の機能は、標準的なオーディオI/Oのコントロール・ソフトと同じです。4つのステレオ出力に対応した4つのミキサー画面があり、特筆すべきはヘッドフォン2がAnalog 3-4出力に振り分けてあるので、ヘッドフォン1-2とは違うバランスが作れるという点です。そのため、ヘッドホン2だけにクリックを返すというような設定も可能です。加えて本機のエフェクトはCPU負荷のないDSPタイプなので、内蔵のモニター・リバーブを使えば、ボーカリストに気持ちの良いダイレクト・モニター・バランスを作ることもできます。ミキサー設定で全部のAnalog出力をDAWからの出力だけにすれば、単純なスピーカー切り替えスイッチとして使えるほか、5.1chのマルチチャンネル・オーディオとしても使えます。ボリューム・ダイアルはすべてのアウトに連動しているので、重宝すること間違いなしです。最後に付属のAVID Pro Tools SE Softwareをインストールして使ってみました。Pro Toolsを象徴するミキサー画面が省かれたGUIには少し違和感を覚えましたが、24トラック仕様は必要にして十分です。エフェクトやプラグイン・インストゥルメントも豊富にそろっているのに加えて、5GB程度のループ音源も付属するという気前の良さ。前述のミキサー画面が無くてもアレンジ画面でも同様の作業はできるので、心配は要りません。それでも......と思う人はPro Tools MPにアップグレードをお勧めしますが、まずPro Tools SEを試してからでも遅くないと思います。締めの言葉でまとめたいのですが、あと一点。本機はACアダプター使用が基本ですがUSBバス電源でも動作します。その際はマイク入力が2つのみになりますが、USB駆動は何かと助かるものです。ということで、音楽制作とミキシングに"超"重宝すること確実なFast Track C600は、"買い"だと思います。 201201_FastTrackC600_front.jpg▲フロント・パネル。左側にはエレキギターなどのハイインピーダンスに対応するHi-Z端子を2系統装備。右側にはヘッドフォン出力を2つ備える201201_FastTrackC600_rear.jpg▲リア・パネル。左からACアダプター・イン、USB端子、MIDI IN/OUT、S/P DIF入出力(コアキシャル)、ライン出力×6(TRSフォーン)、マイク/ライン入力×4(XLR/TRSフォーン・コンボ)撮影/川村容一(フロント・パネル)
M-AUDIO
Fast Track C600
オープン・プライス (市場予想価格/36,750円)
▪外形寸法/330(W)×61(H)×129(D)mm▪重量/950g

▪Mac/Max OS 10.5.8/10.6.3、INTEL製プロセッサー、1GHz以上のRAM、USB2.0端子 ▪Windows/Windows Vista(32/64ビット)/7(32/64ビット)、INTEL Pentium 4プロセッサー2.0GHz以上、1GHz以上のRAM、USB2.0端子