新機能のチャンネル・ストリップとシンセを加えて操作性を高めたDAW

CAKEWALKSonar X1 Production Suite
Windows専用のDAW、CAKEWALK Sonarシリーズは、2010年にGUIを大幅に一新し、"Sona r X1"として生まれ変わりました。長年の愛用者である筆者も、前回のバージョン・アップでは見た目の操作感が変わったため、少々戸惑いましたが、使ううちに作業効率を考えた構造であると実感できるようになりました。X1を使って1年程度がたちましたが、"そろそろX2かな?"と思いきや、今回は"Suite"という名称で、X1の方向性をより洗練させたアップデートのようです。それでは実際にどの辺りが新しくなったのか、詳しく解説していこうと思います。

ループ・コンストラクション・ビューや
ブラウジング機能を強化したDAW部


まず本製品の概要を詳しく説明すると、Sonar X1の最新バージョンであるSonar X1c Producerに加えて、同DAW内のProChannelへの追加モジュールとしてSoftube Saturation Knob、PC4K S-Type Expander/Gateなどを含めた拡張機能であるSonar X1 Expanded、さらにプラグイン・シンセZ3TA+ 2を含むのが本品=Sonar X1 Production Suiteです。単体での販売とともに、Sonar X1 ProducerからSonar X1 Production Suiteへのアップグレード版Sonar X1 Production Suite Kit(オープン・プライス/予想市場価格11,000円前後)も発売されます。名称がやや複雑ですが、ここではSonar X1 Production Suite全体の詳細について紹介していきましょう。冒頭で触れたように昨年のSonar X1へのバージョン・アップで、思い切ったGUIのリニューアルがありましたが、今回も幾つかの刷新点があります。まずはオーディオ・ループ編集機能"ループ・コンストラクション・ビュー"の画面がX1cから一新されたこと(画面①)。スレッショルド・ボルドが数字からスライダーに変わり、良いポイントを検出しやすくなりました。加えてブラウザー機能も強化されています。X1 Expandedをインストールすれば、挿入済みプラグイン・シンセをシンセラック内で置き換えたり、本機で作成したデータをドラッグ&ドロップで、ブラウザーへのインポートも可能。特に後者は、既存の音源をサンプリングして編集したライブラリーを、クリップビューで編集した後、すぐにブラウザーに送れるので、個人的にも非常に助かります。201201_SonarX1ProductionSuite_01.jpg▲画面① ループ・コンストラクション・ビューの画面。スレッショルド・ボルド(画面左上)が数値ではなくスライダー式になったことで、より感覚的な操作が可能となった 

ProChannelにサチュレーターと
エキスパンダー/ゲートを新たに追加


続いて拡張機能であるSonar X1 Expandedについてですが、Sonar X1へのバージョン・アップ時の目玉だったチャンネル・ストリップのProChannelは、任意のワン・トラック分のコンソールのパラメーターを表示するインスペクターに内蔵され、EQやコンプなどの音作りの必須機能が集結したものでした。今回はそこに新たなチューブ・サチュレーターのSoftube Saturation Knob(画面②)と、エキスパンダー/ゲート機能のPC4K S-Type Expander/Gate(画面③)が追加。前者は見た目もシンプルなチューブ・サチュレーターで、ビンテージ機材のシミュレートで有名なSOFTUBE製らしく、角の丸い太めの音が得られます。DAWを用いた楽曲制作はクリアで角があるサウンドになりがちなので、この手の汚し系サウンドは重宝するでしょう。強めにかけると結構バリっとひずむので、ボーカルやドラムにひずみ感を演出するときにも使えそうです。 201201_SonarX1ProductionSuite_02.jpg▲画面② Softube Saturation Knobの画面。ワン・ノブと3キャラクターのセレクター(KEEP HIGH/NEUTRAL/KEEP LOW)という構成 201201_SonarX1ProductionSuite_03.jpg▲画面③ PC4K EXP/GATEの画面。1980年代のラージ・コンソールを再現したモデル。サイド・チェイン接続もできるため、多彩な音色作りをサポートする 後者は1980年代のラージ・コンソールを再現したというエキスパンダー/ゲート機能です。エキスパンダーなのでノイズのカットや、強弱をはっきりさせたサウンドが作れます。サイド・チェイン入力もできるので、ドラムのキックでベースのダッキングも容易にできます。私は以前よりUltrafunk Sonitusのゲートを愛用していますが、そろそろ新しいゲートが欲しいな......と思っていたところなので、この追加機能はうれしかったです。またこれらはプラグインではなくチャンネル・ストリップに内蔵されるため、使いたいときにすぐに立ち上げられる利点があります。そのため楽器を多く使う大所帯のバンドや、ボーカル・トラックが多い楽曲のミックス作業をより快適に行えるでしょう。このように、さらに充実したProChannelですが、モジュールが増えた分、画面が見づらくなるのでは......と思いきや、各機能を折り畳んで縮小表示したり、必要に応じての追加/削除も可能になったので、モニター画面が比較的小さいノート・パソコンでも十分に本機を扱えます。各モジュールの表示/非表示やパラメーターなどを丸ごとプリセットで保存できるので、ひな形を作っておけば、作業効率もアップします。

GUIで拡張性を増したFX Chains 2.0
フィルター機能などを追加したZ3TA+ 2


次にFX Chainsですが、これはもともと複数のエフェクターを組み合わせて1つのエフェクトとして扱う機能で、今回アップデートされたFX Chains 2.0は新たにGUI機能が加わり、エフェクトをドラッグ&ドロップして、その中から操作したいパラメーターのツマミやボタンを作成することが可能です(画面④)。また背景やボタン・ツマミのデザインのカスタマイズもでき、より自分好みのエフェクターを作る気分に浸れます。 201201_SonarX1ProductionSuite_04.jpg▲画面④ FX Chains 2.0には新たにGUI機能を搭載。好みのエフェクトをドラッグ&ドロップして、必要なパラメーターのみを取捨選択することが可能 また楽譜作成ソフトで読み込めるMusicXMLファイルのエクスポートが可能になったり、SoundCloudにSonarからの直接アップができたりと、他ソフトやWeb系のクラウド・サービスとの連携が進んでいる点も、今回のアップデートで注目したいところです。ちなみにSoundCloudはTwitterやFacebookのようなソーシャル・ネットワーク・サービスとの相性も良いので、ブログへの埋め込みにも最適です。SonarからSoundCloudへのアップロード用画面で、ほとんどの項目を記入できるので、以前からSoundCloud使って楽曲を発表している私から見ても"これは使える!"と思いました。さて、プラグインの追加はアップデートのお楽しみのひとつですが、今回はウェーブ・シェイピング・シンセであるZ3TA+の最新バージョン、Z3TA+ 2が追加されています(画面⑤)。以前よりバンドルされていたZ3ta+は、ダブステップやドラムンベースなどの音楽制作時に重宝するシンセサイザーでしたが、今回はユーザー・インターフェースを一新し、表示やツマミが大きくなって視認性も向上しました。プリセットも相変わらず充実しているので、ダンス・ミュージックの制作に大活躍しそうです。最近流行のウォブル・ベースもLFOのパラメーターを操作することで得られるほか、近年のヒップホップで聴けるエレクトロ系プリセットも豊富で、最先端のトレンドを意識したサウンド・メイクも可能です。個人的にはZ3TA+のリニューアルが、今回のアップデートで一番の目玉でした。 201201_SonarX1ProductionSuite_05.jpg▲画面⑤ Z3TA+ 2の画面。こちらもGUIをリニューアルし、新たなフィルターを搭載。前モデルのZ3TA+に収録されたプリセットに加えて、1,000種を用意。即戦力としてトラック・メイクに生かせるソフト・シンセだ前回が大胆なリニューアルだっただけに、今回のアップデートはちょうどいいあんばいだと思います。とは言え、ProChannelに追加されたサチュレーションとエキスパンダー/ゲート、Z3TA+ 2の追加だけでもかなり充実したアップデートと言えるでしょう。前者はプロフェッショナルなサウンド作りに不可欠ですし、後者のZ3TA+ 2はプリセットを何個か聴くだけでも、クオリティの高さに気づいてもらえると思います。個人的にはZ3TA+ 2を使えるだけでも、わくわくしています。まだまだ紹介できなかった細かい改善点もあり、全体的に使いやすさがアップしている印象です。X1ユーザーもぜひアップデートして、新たなX1シリーズに慣れ親しんでほしいですね。
CAKEWALK
Sonar X1 Production Suite
オープン・プライス (予想市場価格/ 80,000円前後)
▪Windows/Windows 7 SP1以降(32/64ビット)/Vista SP 2以降(32/64ビット)/XP Home SP3&Professional SP3以降、2.6GHz以上のINTEL製Coreプロセッサー、2GB以上のRAM、50GB以上のハード・ディスク空き容量、Windows対応のオーディオI/O(ASIOドライバーを推奨)