録音機能やDSPエフェクトを搭載したマルチ用途のキュー・ボックス

MOVEKMymix
最近のPA現場にはデジタル接続の機器やラインアレイといったスピーカー、モニター用イヤホンなどが登場し、以前にも増して仕事がしやすくなった印象です。もちろん筆者もその流れに乗っている1人。いやはや、数十年前ではイヤホンでモニターできるという便利な時代がやって来るとは想像もつきませんでしたよ。さて、本稿ではライブから録音まで、幅広い用途で活用できそうなキュー・ボックス、MOVEK Mymixをご紹介します。キュー・ボックスとは、卓やDAWシステムからの多チャンネルの出力をネットワーク経由で受信できる演奏者向けのモニター・システム。ミキサーを内蔵しているので、プレイヤーが手元で任意の音量バランスを作り、ヘッドフォンやイヤホンでモニターすることが可能です。"マスター機"と呼ばれる親機があって初めて機能するキュー・ボックス。Mymixも、別売のマスター機MOVEK IEX-16L(105,000円/写真①②)とともに使う形です。本機は筆者がその名を初めて聞くブランドの製品。"新しい発想" が期待できそうでチェックが楽しみです!

100Mbpsのイーサーネットで接続
最大16chのミックスが可能


MymixはCAT5ケーブルでのイーサーネット接続に対応した16chキュー・ボックス。DAWなどからの信号を入力し、キュー・ボックスへ分配するマスター機MOVEK IEX-16Lと、ここから出力される信号を複数のキュー・ボックスで受け取るためのネットワーク・ハブとともに使用します。データ転送速度は100Mbpsで、AD/DA変換は24ビットで行われます。ボディ・サイズは134(W)×171(H)×60(D)mm/重量500gとコンパクトに設計されており、大型ディスプレイを備えるフロント・パネルに数個のボタンとジョグ・ダイアルのみを配置したシンプルな作り。リア・パネルにはマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)×2やライン・アウトL/R(TRSフォーン)、LANポート(RJ45)、電源コネクターといった端子群が装備されており、ネットワーク経由での電源供給にも対応しています。IEX-16Lについても触れておきましょう。このマスター機はライン・イン(D-Sub25ピン)×2を備えており、最大16chのアナログ入力が可能です。フロント・パネルのLEDで入力の有無を監視できるのも安心ですね。なお、IEX-16Lに8chのADATイン(オプティカル)×2を追加したIEX-16L-A(126,000円)もラインナップされています。操作方法については、従来のキュー・ボックスとほとんど同じ。Mymixのディスプレイには入力されているソースがチャンネルごとに表示され、ジョグ・ダイアルを使って任意のものを選択、個々の音量を調整する流れです。しかも、各チャンネルでは内蔵の4バンドEQや空間系エフェクトのセンド、パンなどをコントロール可能。もちろんミュート/ソロ機能も実装しております。DSPエフェクトを搭載していることで"キュー・ボックス以外の仕事"もやってくれるわけですね。例えば、"モニターする音にリバーブがかかっていた方が、気持ち良く演奏できる"という人は任意のチャンネルだけでなく、マスターにエフェクトをかけることもできます。またドラマーの方には、自分の演奏が空間でどのように鳴っているのかをモニターしたい人が多いのではないでしょうか? その場合は、好きな位置に立てたマイクをMymixのマイク/ライン・インに接続することで、PAエンジニアにお願いすることなく、自分のプレイをモニター可能です。

入力をパラのままSDカードへ録音可能
スピーカーでのモニターにも対応


MymixにはSD/SDHCカード・スロットが装備されており、何とレコーダーとしても使用可能。最大16chの入力を、パラのまま24ビット/48kHzのWAVで録音できます。シンプルな16tr MTRを所有しているような感覚ですね。録音結果は本機単体でプレイバックすることができ、リハーサル時の録音をさまざまなシチュエーションで再生可能。その際に"PLAY ALONG"モードをONにすると、録音結果とマイク/ライン・インからの入力を同時にモニターでき、リハ音源を聴きながら自宅などで歌や楽器の練習が行えます。なお、Mymixはヘッドフォン端子にステレオ・ミニを採用。筆者の回りにも、最近ステージ用のインナー・イア型イヤホンを使っているミュージシャンが増えてきました。こうした需要を見越しての端子形状なのでしょう。さて、今回のテストは有名ギタリスト/ベーシスト/キーボーディストによる3ピース・バンドのライブにて敢行。各プレイヤー向けにウェッジ・モニターとMymixを1台ずつ準備し、サウンド・チェックをスタート。モニターは各自に持参してもらったイヤホンで行います。ステージから卓にライン・レベルで入力されるステレオ信号は、打ち込みのリズム・トラック、上モノのトラック、サンプラーによる音ネタ、キーボード×2。このほかコーラス×2やボコーダー、ギターとベースのライン出力といったモノラル信号がありますので、ステージでは合計15台ものDIを使うことになりました。生音のみによる演奏の場合、ギターならギター・アンプ、ドラムならドラム・セットという風にプレイヤーが音の出どころをつかみやすいのですが、ライン接続の楽器が多いときは、ある音色がどの楽器から出力されているかがプレイヤー本人以外には分かりにくいでしょう。ならばということで、今回は全チャンネルをMymixに立ち上げ、演奏者各自にミックスしてもらうことにします。Mymixでプレイヤー個々のモニター・バランスを最初に設定しておけば、やはり外音作りに専念できますね。しかも本機にはヘッドフォン端子のほか、ライン・アウトも装備されているため出力機器の選択肢が幅広いのも魅力。プレイヤーの思いのままに作ったミックスをスピーカーからモニターすることも可能です。次に、同じような編成でワイアレスのモニター用イヤホンを使っているバンドでもテスト。演奏者の手元にMymixを置き、ライン・アウトをそのままワイアレス・システムの送信機に接続するだけでセッティングは終了しました。キュー・ボックスを使うとイメージのバランスや音質を作り込めるので、特に注文の細かいミュージシャンに対しては効率的でしょう。

音に自然な奥行きを与える内蔵リバーブ
ステージの鳴りを素直に収める録音機能


今回はチェックとして、筆者もミュージシャンとともにMymixを使ってみました。ステージ上の音をイヤホンやヘッドフォンでモニターすると、どうしてもデッドに聴こえます。そこで、本機の内蔵エフェクトから"Large Room"というリバーブを選び、マスターにうっすらとかけてみました。するとマイクやラインのダイレクト音が和らぎ、部屋鳴りのように自然な奥行き感が加わったのです。エフェクトの質も非常に優秀だと思いました。さらに録音機能もテスト。フロント・パネルの"REC"ボタンを押すだけで新しいセッション・ファイルが作成され、入力された信号が個別のトラックへ録音されていきます。そして再び"REC"ボタンを押すことでレコーディングは終了。ステージにいるときは感性が刺激されているものですから、"何だか良いアドリブができそう! 録っておきたいな〜"という気持ちになることもあるでしょう。そんなとき、シンプルな操作で自分のプレイを録音できるこの機能は役立ちますね。録り音を聴いてみたところ、ステージ上のリアルなサウンドがそのまま収められている印象。ある程度高い演奏力を持つバンドなら、普通にマルチ録音の音源としても使えそうな音質です。今回録った音源については、製品としてミックスしたいと思わせるほどのクオリティでした。保存されたセッション・ファイルはWAVなので、パソコンに移せば皆さんが使い慣れたDAWソフトで編集可能。また、Mymixにはあらかじめマッチングの図られたフリー・ソフト、Mymix Waveが用意されています。本ソフトを使えば、DAWソフトから24ビット/48kHzのWAVをMymixのセッションに取り込み、プレイバック/モニターできます。


スピーカーやイヤホン、ヘッドフォンなどにさまざまなモデルが登場する昨今は、モニター用機器のバリエーションが極めて広がっています。Mymixはユーザー任意の出力用機器に接続できる上、ライブ/録音いずれの場合でもミュージシャンとエンジニアのコミュニケーションを効率化する、良きアシスタントになってくれるでしょう。

▼写真① 合計16chのアナログ入力に対応するMymixのマスター機、IEX-16L(別売)のフロント・パネル。各チャンネルの入力の有無を緑色のLEDで確認できる。右側に備えられた"CONFIG"端子には1台のMymixを直接つなげて使用可能。"NETWORK" 端子ではネットワーク・ハブを介して複数のMymixを扱える



▼写真② IEX-16L(別売)のリア・パネルには、左から電源コネクターと16ch分のライン・イン(D-Sub25ピン)が配置されている



▼リア・パネルには、左から電源コネクターやLAN端子(RJ-45)、ライン・アウトL/R(TRSフォーン)、マイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)×2を装備。ちなみに、サイド・パネルにはヘッドフォン端子(ステレオ・ミニ)やマイク/ライン・インのゲイン調整用ツマミ×2が備えられている




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年12月号より)
MOVEK
Mymix
79,800円
▪ネットワーク・タイプ/イーサーネット(データ転送速度:100Mbps)▪量子化ビット数/24ビット▪サンプリング周波数/48kHz▪周波数特性/20Hz〜20kHz▪外形寸法/134(W)×171(H)×60(D)mm▪重量/500g