
2基のマイク入力と1系統のMIDI入出力
さらにはUSB/MIDI端子まで装備
IO DockはiPad/iPad2対応のオーディオ/MIDIインターフェース。トップ・パネルに向かって右側のスロットからiPadを差し込むと、Dockコネクターを介してIO Dockとドッキングできる仕様だ(iPad2には付属のiPad2マウント用トレイを使用)。なおiPadがジャストで入るよう設計されているため、ボディにケースなどを着けている場合は、取り外してマウントする必要がある。本機には、さまざまな入出力端子が並んでいる。iPadを本機とドッキングし、IO Dock、iPadの順に電源を入れるだけで、それらを使えるようになるのだ。ちなみにIO DockからはiPadに電源供給される上、充電も可能。音楽制作にiPadを用いる場合、長時間電源を入れっぱなしにすることも多いと思うので、付属のACアダプターから電源を得られるのはうれしい。さて、以下にIODockの端子群とそれぞれの機能を見ていこう。
●マイク/ライン・イン×2(XLR/TRSフォーン・コンボ)
マイクや電子楽器を接続し、オーディオの入力が行える。計2基が用意されており、それぞれにゲイン調整用のツマミを装備。"INPUT 2"に備えられたインピーダンス切り替えスイッチを使えば、エレキギターやベースを直接本機に接続できる。また、いずれの入力にもファンタム電源を供給できるため、コンデンサー・マイクも使用可能。
●ライン・アウトL/R(TRSフォーン)
オーディオをステレオでライン出力できる。"DIRECT"というスイッチが用意されており、これをONにするとIO Dockへ入力した音がiPad/iPad2を介さず、直接モニター可能だ。
●フット・スイッチ・イン(フォーン)
フット・スイッチを接続できる。iPadアプリによっては、指定した機能をアサイン可能。
●ビデオ・アウト(RCAピン)
iPad/iPad2に収められた映像コンテンツを、外部の液晶モニターなどに出力できる。
●MIDI IN/OUT
iPadと外部のMIDI機器を接続することができ、両者の間でMIDI信号のやり取りを可能にする。MIDIコントローラーでiPadアプリの音源を鳴らしたり、音源モジュールのサウンドをiPadアプリのシーケンサーで鳴らすことができる。
●USB/MIDI端子
iPadとパソコンをUSB接続することができ、DAWソフトなどとMIDI信号の送受信を可能にする。MIDI鍵盤でiPadアプリの音源を演奏し、その内容をDAWソフトに録音するなど、MIDI IN/OUTとの併用も可能だ。
●ヘッドフォン端子(ステレオ・フォーン)
ヘッドフォンを接続することができる。レベル調整用のボリューム・ツマミを装備。
▼リア・パネルには左からライン・アウトL/R(TRSフォーン)、ダイレクト・スイッチ、マイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)×2(それぞれにゲイン・コントロール調整ツマミを装備)、入力インピーダンス切り替えスイッチ、ファンタム電源スイッチ、フット・スイッチ・イン(フォーン)、ビデオ・アウト(RCAピン)、DCイン、電源スイッチが備えられる

▼トップ・パネルに向かって右側のサイド・パネルには左からメイン・ボリューム、ヘッドフォン・ボリュームをそれぞれ調整するためのツマミ、ヘッドフォン端子(ステレオ・フォーン)を用意

▼トップ・パネルに向かって左側のサイド・パネルには、右からMIDI IN/OUTとUSB/MIDI端子(USB1.1/2.0に対応)が備えられている

入出力共にフラットな音質
ライン・アウトのレベルも必要十分
IO Dockの使用感を紹介していこう。最初に入力をテスト。IO DockからiPad用のAPPLE Garage Bandにボーカルやギターを録ってみた。まず、コンデンサー・マイクで収めた歌声は内蔵マイクプリによる色付けが少なく、フラットな音質。ダイナミック・マイクでも収音してみたが、ゲインをそれなりに稼げるため、十分使える録り音を得られた。次にインピーダンス切り替えスイッチを"MIC/LINE"から"GUITAR"に切り替え、ギターを録音。FENDER Stratocasterなど、パッシブ方式のシングル・コイル・ピックアップを備えたギターは出力が低く、インピーダンスは高いのだが、それでも十分な音量でレコーディングできた。Garage Bandの内蔵エフェクトで激しくひずませるとノイズが目立ったものの、プリセットのノイズ・ゲートをかければ特に問題無かった。次に、ライン・アウトの音質を確認。自らミックスした曲を以下の方法で比較試聴してみた。①Pro Toolsで普通に再生し、試聴②iPadで再生し、ヘッドフォン端子から出力。AVID 003 Rack経由でPro Toolsに録音し、試聴③iPadで再生し、IO Dockのライン・アウトから出力。003 Rack経由でPro Toolsに録り、試聴まず、IO Dockのライン・アウトは十分な出力音量を備えていることが分かった。iPadのヘッドフォン端子に、ステレオ・ミニ/フォーンの変換ケーブルを接続しライン出力する方法(②)だと、幾らiPad内で音量を上げても入力レベルが十分に大きくならない。受け側でゲインを上げれば良い話だが、そうするとノイズが増える。その点IO Dockのライン・アウトなら必要十分な音量で出力でき、端子形状がTRSフォーンなので電源やアンプに起因するノイズが少ない。ライブ時にiPadからPAへ信号を送る際には最適の仕様だろう。音質は実にフラット。聴き比べの結果を述べると、iPadのヘッドフォン端子から得た音(②)はPro Toolsで普通に再生した2ミックスの音(①)より高域が落ちていたり、左右の広がりが狭くなったりしていた。しかし、IO Dockのライン・アウトから出力した音(③)はPro Toolsで再生した音(①)と比べても、それほどそん色が無い。
iPadアプリをDAWの音源として使える
Core Audioに準拠したアプリに対応
さらにMIDI回りもテスト。まずはMIDIキーボードからGarage Bandを鳴らしてみた。うん、問題無く使える。Garage Band内のバーチャル・ピアノもガジェット感があって楽しいけれど、鍵盤を弾ける人なら、やはりMIDIキーボードを使った方が楽器として扱いやすいだろう。また、iPadアプリをDAWソフトの外部音源として使ってみようと、KORG iMS-20 For iPadをPro Toolsから鳴らしてみた。Pro ToolsからシーケンスのMIDIデータをUSB/MIDI端子経由で送信し、iMS-20 For iPadのパラメーターをマルチタッチで編集していると、iPadが普通に音源、いや、それ以上に楽器のように思えてきた。iPadのタッチ・パネルは操作性が良好なだけに、DAWソフトの外部音源としても非常に扱いやすい。あなたにお気に入りのiPadアプリがあり、それをライブで使いたい、あるいは自分のDAWソフトと組み合わせて鳴らしたいということであれば、IO Dockは間違い無くお勧めのツールだ。コスト・パフォーマンス面から言うと、IO Dockの価値は使用するアプリが音楽制作やライブで有用なのかどうかで変わってくると言える。また、本機はiOSのCore Audioに対応しており、これに準拠したほとんどのアプリで問題無く使える。しかし中にはiPad本体のスピーカーで使用することに重きを置いたアプリもあるようで、こういったアプリのサウンドをIO Dockのヘッドフォン端子から聴くと、低域がブーミーに聴こえることもあった。
オーディオI/OやMIDIインターフェースが発展したことで、パソコンは立派な音楽制作ツールへと生まれ変わり、世に出回るソフトの質や量も増大した。これと同じく、iPadのソフト・ベンダーにとって楽器/音響機器向けの入出力が備えられたIO Dockの登場は朗報だろう。価格もリーズナブルだし、iPadとセットでも手に入れやすそうだ。iPadは操作性に優れたツールなので、今後IO Dockとの併用を前提とした音楽制作用アプリが開発されても良いのではないかと思う。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年12月号より)
撮影/川村容一