マイク/DI入力をミックスした信号を出力できる多機能プリアンプ

JR SOUNDHA202D
アウトボードなどのレコーディング機器は、海外メーカーの製品が占めていると言っていいでしょう。そんな中、今回試すのは、日本のブランドJR SOUNDが作るマイクプリ。資料などを見たところ、2chのマイクプリと2chのプリアンプ付きDIを備えた製品とのこと。日本のブランドらしく、機能的にも考え抜かれた製品になっているようです。ちなみにJR SOUNDの製品は、実は私も以前所有していたことがあるブランドです。早速試してみましょう。

1台にマイクプリとDIを2chずつ装備
ファンタム電源の電圧は可変


本機は、前述の通り2chのマイクプリと2chのプリアンプ付きDIを備えた製品。それらが1Uに収まり、見た目もなかなか良いです。入力部はマイク入力、DI入力共に独立して4ch分あり、出力は2chになります。つまり、ch1のマイク入力とch1のDI入力は同じch1の出力から出ます。これは本機の最大の特徴でもあるのですが、出力に流れる信号を"マイク""DI""マイクとDIのミックス"からスイッチで選択可能。後にも触れるMix機能は特に便利です。マイクプリ部の入力端子はリア・パネル、ツマミやスイッチ類はフロント・パネルにあります。一般的なGAIN/PAD/PHASEが装備され、周波数を変えられるローカット・フィルターも備えています。さまざまな状況で録音する際には、特に周波数可変のローカットは便利。またファンタム電源も付いており、電圧が12/24/48Vから選べます。録音やPAの現場では48Vが一般的ですが、例えば放送の現場ではビデオ・カメラとの関係で一部の機器では電圧が違う場合があります。この辺は、放送局などでも使えるように幅広く対応させたのでしょう。DI部は、入力端子はフロント・パネルにフォーンで用意され、これもGAIN/PAD(3タイプから選択可能)、さらにインピーダンス切り替えスイッチが備わっています。インピーダンスは10MΩ/10kΩ、PADは0/−10/−20dBで切り替えられるので、パッシブのギター/ベースやアコギなどから、ラインもののキーボードや音源まで幅広く対応します。もちろんレベル・メーターも付いていますが、これは出力用なので、マイク入力とDI入力をミックスした場合はミックスされた信号の表示になります。また、リア・パネルの出力部にはグラウンド・リフトも装備し、環境によるノイズ対策もされているのは良いですね。

中域寄りな丸みのあるサウンド
多様なアイディアが試せるMix機能


ここからは、音について試してみることにしましょう。まずはマイクプリの音質ですが、さまざまな用途で試した結果、"中域を中心とした音"というのが総じての印象です。高域はちょっと丸くてぎすぎすした感じは無く、低域はちゃんと伸びていました。SSL、NEVE、APIなどと比べてみましたが、特にどれに近いという感じは無く、それぞれの中間点的な印象です。特にテレビやラジオへのノリは良さそうだなと思いました。ちょっと高域寄りな最近のマイクの嫌な印象が薄れる感じがしますが、レンジが狭いわけではありません。次にマイク入力/DI入力のMix機能を試してみました。今回はアコギ内蔵ピックアップからのライン信号と、コンデンサー・マイクでの収音の両方をミックスしてみます。この方法は、最近の録音ではたびたび使う手法なのです。出力セレクト・スイッチを"Mix"にし、音を混ぜます。バランスは、それぞれのGAINの調整で行います。既述の通り、メーターが最終出力の表示なのでレベルの監視もしやすいです。通常は、マイク/DIのそれぞれをミキサーに入れて混ぜると思いますが、本機は1台だけでそれができるのです。後で迷うことなく、決めうちで録るのは録音本来の姿と言えるでしょう。ほかの使い方としては、例えばドラム・トラックなどの音源をDIに入力してそれをラジカセのスピーカーから出力し、もう一方のチャンネルにダイナミック・マイクを接続して、ラジカセのスピーカーから出ている音をマイクで録って空気感を持たせるような使い方もできそうです。とにかく用途はアイディアの数だけありそう。また、DIの方の音色はこれもマイクプリと同様の印象で、レンジ的にはまとまっていると思います。マイクプリでもそうですが、低域のふくよかさを殺していない点は良いところでしょう。説明書要らずのシンプルさながら、さまざまな用途や現場で使ってほしいという意図が分かります。海外のマイクプリと比べると音質の個性は薄いですが、基本は押さえられています。DI入力にプリアンプが備わっているのもうれしいところ。日本人らしくよく考えられた仕様だと思いました。 201111_HA202D_rear.jpg▲リア・パネル。左からINPUT 2(XLR)、INPUT 1(XLR)、OUTPUT 2(XLR)、THRU1(フォーン)、LIFT/GND切り替えスイッチ、OUTPUT 2(XLR)、THRU2(フォーン)、LIFT/GND切り替えスイッチ、AC IN撮影/川村容一
JR SOUND
HA202D
210,000円
⃝DI部 ▪周波数特性/20Hz〜20kHz▪入力インピーダンス/10MΩ/10kΩ▪PAD/0/−10dB/−20dB▪ゲイン/0〜40dB連続可変マイクプリ部▪周波数特性/20Hz〜20kHz▪入力インピーダンス/600Ω▪PAD/−20dB▪ローカット・フィルター/20〜200Hz連続可変▪ファンタム電源/12/24/48V▪ゲイン/16〜70dB(12段切り替え)▪外形寸法/482(W)×44(H)×156(D)mm▪重量/5.3kg