完全アナログ回路が用いられたドイツ製キック専用音源モジュール

VERMONAKick Lancet
"ダンス・ミュージックはキックが命"。そう言っても過言ではないくらい、今のダンス・ミュージックのクリエイターは、いかにかっこいいキックを作り出すかに時間を費やしている。そんな現状から生まれてきたのが、今回紹介するVERMONA Kick Lancetのようなキック・ドラム専門の音源モジュールだ。これは同社の小型アナログ・シンセMono Lancetの姉妹品で、同社のアナログ・ドラム・モジュールDRM-1 MK3のキック・チャンネルを基にしたマシンだ。アナログ・シンセ同様の原理で発音するが、"キック・ジェネレーター"と言った方がいいかもしれない。

外部からトリガーさせる
完全アナログ回路


Kick Lancetのサイズはお弁当箱くらいと小さく、専用のAC電源アダプターで動作する。音源部分は完全アナログ回路で、シーケンサーなどの機能は全く内蔵していない。MIDI、あるいはオーディオ信号などのトリガーによって発音する仕組みだ。オーディオ出力もフォーン端子が1つあるだけで非常にシンプル。後で説明するが、つまみは多くても初心者にも操作しやすいだろう。まずは外部機器との接続だが、多くの人がコンピューターなどで、ホスト・アプリケーションのDAWからコントロールする使い方を考えると思う。そのとき一番手っ取り早いのは、本機とコンピューターとをMIDIで接続する方法だ。デフォルトではMIDIのノート・ナンバー36(C3)で発音するようになっていて、設定の変更も可能だ。また、フット・スイッチのほかに外部から入力するアナログ信号でのトリガーにも対応している。これを生かして、生ドラムのキックでトリガーしたり、別のリズム・マシンのキック音を差し替えたりできる。MIDIの場合と同様ダイナミクスを付けて発音させることができ、トリガーの反応もいい。さらに+5VのGate信号の入力にも対応するので、アナログのステップ・シーケンサーなどから発音させることもできる。細かい設定の幾つかに設定スイッチは無いが、MIDIコントロール・チェンジ信号で変更できるように設計されている。

キックに特化したパラメーター群にて
TR-909のようなサウンドを生成可能


さて、実際の音作りについてパラメーターを1つ1つ見ていこう。音を聴くためにいちいちMIDI信号を送ったりするのが面倒くさい場合は、パネル下段左の"TRIG"スイッチを押すことでいつでも発音させることができる。音作り時にはこれで発音させる方が便利かもしれない。このスイッチを長押しすれば"オートマチック・モード"に入り、4つ打ち状態になる。まずはトップ・パネル上段に並ぶSOURCEセクションから。最初にSOURCEセクション一番左にある"DECAY"を回して余韻部分の長さを決めてみる。キックは余韻の長さでグルーブがかなり変化してしまうので、最も重要なつまみのひとつだ。その隣の"PITCH"でピッチを変更できるが低くし過ぎない方がヌケがいいだろう。続く"BEND"と"TIME"はピッチの下がり具合を調整するためのもので、ROLAND TR-909のような"グンッ!"という勢いのあるキック音を作るには欠かせない。"FM FRQ"と"FM INT"はキックのシンプルなトーンにやや複雑な倍音を付加してくれるもので、上げ過ぎると金属的な感じになる。トップ・パネル下段のMIXERセクションは、上段のSOURCEセクションで作ったキック音においしいエッセンスを加えてくれるパラメーターが並んでいる。"ATTACK"と"NOISE"はそのアタック部分にアクセントを加えてよりアタッキーなニュアンスを出してくれるもの。より"見える"キックが作れる。オシレーターの波形を調整する"WAVE"に続いて用意されるのが、"BALLS"。説明書には"特定の周波数を強調し音をファットにする"と書かれている。どういう原理を使っているかは不明だが、実際に聴いた感じではEQ的な調整で音を立たせているように思えた。全体的なサウンドはやはりTR-909のような質感に似ている。SN比も良く、太いベースとミックスしても前に出てくるような芯のあるファットな音だ。あくまでアナログ回路で作り出しているので生ドラムのキックっぽい質感は出ないが、音作りの幅は広いためヒップホップからテクノ、ハウス、あるいはダブステップのようなジャンルにも最高だ。サンプルと比べてもやはり存在感が違う気がする。まさに"そこで鳴っています"というような質感。ライブで使ったときの違いは歴然だろう。重心がどんどん下がっている傾向にある現在のダンス・ミュージックに今求められているのは、"スネア専用機"ではなく、やはり本機のような"キック専用機"であるということを感じさせてくれたマシンだ。201111_vermona_rear.jpg▲リア・パネル。左から、アナログ出力(フォーン)、MIDI THRU/IN、外部トリガー入力×3(フォーン)、電源スイッチ、ACアダプター
VERMONA
Kick Lancet
オープン・プライス (市場予想価格/ 36,000円前後)
▪同時発音数/1▪発音方式/アナログ▪LFO/1▪外形寸法/210(W)×45(H)×145(D)mm▪重量/600g