T-Painの楽曲をモデルとする3つのソフトを同梱した音楽制作ツール

IZOTOPEThe T-Pain Effect
T-Painは、ピッチ補正ソフトのANTARES Auto-Tuneを本来の目的からかけ離れた方法で使うことによって、数々の世界的ヒットを生み出してきたシンガー兼ラッパーです。そんな"シング・ラップ"とも呼ばれるT-Pain公認の音楽制作ソフトウェア・バンドル、The T-Pain Effectがこの度IZOTOPEから発表されました。ガジェット感の漂う操作画面やリーズナブルな価格など、親しみやすい要素満載の本製品。その内容とは、一体どのようなものなのでしょうか?

プリセット曲を基にトラックを作る方式
最大2trのボーカル録音が可能


The T-Pain Effectには3つの音楽制作ソフトが同梱されています。その内容はシンプルな仕様のDAWソフト"The T-Pain Engine"、T-Painの代名詞とも言えるAuto-Tuneのケロリが簡単に作り出せるプラグイン・エフェクト"The T-Pain Effect"、APPLE iOSアプリとして大ヒットしたリズム・マシンiDrumのプラグイン・バージョン"iDrum:T-Pain Edition"となっています。まずはThe T-Pain Engineを立ち上げます。このDAWソフトでは、プリセットの楽曲を編集することでトラック制作が行えます。また、ボーカル向けのモノラル・トラックが2tr用意されているので歌録りも可能。画面左側に位置する"CHOOSE A TRACK"セクションには"BEAT""VOCAL 1""VOCAL 2"といった3つのタブが配置されており、いずれかを選択することで編集したいトラックにアクセスできます(画面①)。 201111_TheTPainEffect_01.jpg▲画面① The T-Pain Engineの"CHOOSE A TRACK"セクションでは"BEAT"=プリセット楽曲、"VOCAL 1""VOCAL 2"=2trのボーカル・トラックなど、編集したいトラックを選択できる。また、"LOADED BEAT"セクションにはロードしているプリセットの名称を表示可能 まずは"BEAT"タブをセレクトします。すると、その下に位置する"LOADED BEAT"セクションがプリセットの楽曲を読み込める状態になります。楽曲は計53種類用意されていますが、その内容はレゲエ的なものからサウスっぽいゴリゴリのヒップホップ、そしてT-Painのおはこであるメロディアスでアップ・テンポなR&Bまでバリエーション豊か。クリアかつクリスピーな音使いはいかにもT-Painらしく、感心してしまいました。画面中央には、オーディオ編集セクションを配置(画面②)。プリセットの楽曲をロード/エディットするためのステレオ・トラックが配置されるほか、ボーカルを録音/編集できるモノラル・トラックが2tr用意されています。前述の"LOADED BEAT"セクションでプリセット楽曲を読み込むと、ステレオ・トラックにイントロや平歌、サビといったブロック単位に分かれた状態で表示されます。各ブロックは元の位置から自由に動かせるため、高品位なトラックを短時間で作成できそうです。 201111_TheTPainEffect_02.jpg▲画面② オーディオ編集画面には3系統のトラックを表示。それぞれ、プリセット楽曲(上段)、ボーカル(中/下段)となる。プリセットは"Intro"(イントロ)や"Chorus"(サビ)などブロックに分かれていて、順番の入れ替えが可能 ボーカル向けトラックには、外部から音声を録音することができます。オーディオI/Oからはもちろん、パソコンに標準搭載されているマイク・インからも音声入力できるので、気軽にレコーディングが楽しめると思います。またボーカルの録音結果について、"全体的にはOKだけど、一部分だけ修正したい"と思うことはよくあるでしょう。その場合は修正したい個所をドラッグし範囲を指定。録音ボタンを押してレコーディング始めると、選択した部分だけが上書きされます。これは"パンチ・イン/パンチ・アウト"という録音手法に相当するものですが、同様の結果をいとも簡単に得られるので少し楽しくなっちゃいました(笑)。

ピッチ補正のケロリ感を簡単に作成
楽曲はSoundCloudに直接アップ可能


画面右側には本製品の目玉でもあるプラグイン・エフェクト、The T-Pain Effectのエディット・セクションが組み込まれています(画面③)。このプラグインはVST/RTAS/Audio Units/DX/MASに対応し、主要なDAWソフトでも扱えます。The T-Pain Engineの中ではボーカル・トラックにインサートされており、録音状態にすると入力音声をピッチ補正的なエフェクトがかかった状態でモニターできます。また、そのかかり具合もこのセクションにて調整可能。"SOFT"から"HARD"までを、フェーダーでコントロールできます。 201111_TheTPainEffect_03.jpg▲画面③ ケロリ効果をボーカルに与えられるプラグイン、T-Pain Effect。The T-Pain Engineのボーカル・トラックにインサートされており、かかり具合を"SOFT"から"HARD"までフェーダーを使って調整できる さて、こういったピッチ補正系のエフェクトを効果的に使うためには、その楽曲に合わせたキーやスケールの設定が重要になってきます。しかし、The T-Pain Effectでは読み込んだプリセット楽曲に合わせてキーとスケールが自動設定されますので、初心者の方でも難なく扱えるでしょう。また、最近ではケロった歌声とドライなボーカルを巧みにミックスするというプロダクションが主流です。2trのボーカル・トラックにエフェクトをかけたボーカルと生の歌声を録り分ければ、その技法を実践できるでしょう。The T-Pain Engineの画面下部にはミキサー・セクションが配置されています(画面④)。このDAWソフトは3系統のトラックから構成されていますので、ボリューム・フェーダーの数も3本のみ。シンプルでバランスが取りやすくなっています。その右隣にはトランスポート・エリアを用意。"REC"ボタンを点灯させて"PLAY"ボタンを押せば、選択しているボーカル・トラックへの録音が始まるという作りです。 201111_TheTPainEffect_04.jpg▲画面④ The T-Pain Engineのミキサー・セクションには各トラックのボリューム・フェーダー/ミュート・ボタンをはじめ、トランスポート系の操作子や楽曲をオーディオ・ファイルに書き出すための"EXPORT"ボタン、SoundCloudへの楽曲アップロードがワンタッチで行える"SHARE"ボタンを配置 The T-Pain Engineには、トラックの指定した範囲をループ再生できる機能が搭載されています。"PLAY"ボタンの上側にはループ機能のON/OFFボタンが備えられ、これをONするとオーディオ編集画面に旗のようなアイコンが現れるので、このアイコンで選択した範囲をループさせることが可能です。そのほか"BEAT DROP"ボタンでは、オケを任意のタイミングでミュート可能。このボタンはThe T-Pain Engineが録音状態のときにも機能し、ヒップホップで言うところの"抜き"を簡単に楽曲へ取り入れられます。トランスポート・セクションの右隣に装備された"EXPORT"ボタンを使用すると、作成した楽曲をオーディオ・ファイルに書き出せます。この下側にある"SHARE"は、オーディオのアップロードやストリーミングが行えるWebサイトのSoundCloudへ、The T-Pain Engineで制作した音源をアップできるボタン。SoundCloudには閲覧者からの投票システムやランキングなどが用意されているため、一度試してみれば結構アツくなったりもします。また"LISTEN"ボタンを使用すると、このWebサイトにアップされたほかのユーザーの音源をまとめて試聴できるグループ・ページ"The T-Pain Effect"にアクセス可能です。

16ステップ・シーケンサーを搭載
音色のピッチやディケイなども調整可能


最後にリズム・マシンの"iDrum:T-Pain Edition"を見ていきます。VST/RTAS/Audio Units/MASに対応し、多くのDAWでも動作するこのプラグインは、The T-Pain Engineの"EDIT IN iDRUM"ボタンから立ち上げることができます。まずは画面左上のウィンドウからThe T-Pain Engineにプリセットされた楽曲をロード。画面左側に並んだトラックへ、楽曲で使われている音色を個別に表示します。また、このリズム・マシンは16ステップ・シーケンサーを搭載。初期設定では1拍が4つに分割されており、操作画面で一覧できるのは1小節となっています。プリセットの楽曲を細かく編集したり、一から自分でパターンを作ることができます。また、各トラックの音色は差し替え可能。ロードされていないプリセット楽曲から任意の音色を選んで割り当てることもできれば、自分で作成したオーディオ・ファイルも読み込めます。"他人と一緒じゃ絶対イヤだ!"という真のクリエイターにうってつけの機能ですね。しかも各トラックはソロやミュート、ボリューム、パンといったミキサーの基本機能まで備えています。さらに、画面左下の"INFO"ボタンで開く"Info Panel"では音色のピッチやディケイを調整できるほか、ハイパス/ローパス・フィルターも制御可能(画面⑤)。ビット・レートの設定までできるのには驚きました(初期設定は32ビットとハイレート!)。 201111_TheTPainEffect_05.jpg▲画面⑤ リズム・マシンiDrum:T-Pain Editionの"Info Panel"では、音色のピッチやディケイを調整できるほか、ハイパス/ローパス・フェイルターのコントロールも可能。音色のビット・レートを設定することもできる。初期設定は32ビット iDrum:T-Pain Editionでは、IZOTOPEが販売しているドラム・サウンドのライブラリーを読み込めます。画面左上の"MORE SOUNDS"ボタンをクリックすると販売サイトへアクセスすることができ、ビンテージ・リズム・マシンからジャズ・ドラムまで、さまざまなサウンドを収めたライブラリーを入手できます。さて本稿執筆時、The T-Pain Effectの多機能ぶりにビックリの連続でしたが、本製品を使用すれば楽曲制作の各工程に極めて簡単にアクセスできるという印象を受けました。打ち込みや録音、ブラッシュ・アップ、仕上げといった場面において、専門的な知識や技術の必要だった部分がとても奇麗に簡素化されています。また、本製品で作り出せる楽曲のクオリティに対してかなり低い価格は、クリエイターの裾野を広げることに大きく貢献するだろうと感じます。作った楽曲をSoundCloudへワンタッチでアップ="世界に向けて発表できる"という機能までが搭載されている点に、次世代のクリエイターの在り方を提示されているような気さえしますね。
IZOTOPE
The T-Pain Effect
オープン・プライス (市場予想価格/10,400円前後)
▪Mac/Mac OS X 10.5以降(Intel Macのみに対応)、2GB以上のRAM、DVD-ROMドライブ▪Windows/Windows XP(64ビットにも対応)/Vista/7、2GB以上のRAM、DVD-ROMドライブ