クラフトワーク・サウンドへのリスペクトが詰まった個性派シンセ音源

BEST SERVICESynth-Werk
ドイツのBEST SERVICEは、ハード・サンプラー全盛期から膨大な数のサンプリングCDを発売してきた老舗中の老舗メーカーです。近年はソフト音源にも販路を広げ、ストリングスやブラスなど定番モノから、ちょっとほかではお耳にかかれないようなビンテージ系楽器などのユニークな音源も多数リリースしてます。そんな同社が今回リリースしてきたシンセ音源がSynth-Werk。ソフト名から"あのクラフトワークに関係ありそう"って感じは明白なので、内容紹介を早速始めることにしましょう......バタン! ブルルン!(車のドアが閉まり、エンジンがかかる音)。

クラフトワーク愛が感じられる音色群
密度の濃いサウンド・クオリティも印象的


まずは大枠の部分からご紹介。Synth-Werkはこの数年主流である大容量サンプル・プレイバック・タイプのシンセ音源で、Mac/Windowsを問わずスタンドアローンで使え、Audio Units(Macのみ)/VST/RTASプラグインにも対応しています。ベースとなるエンジンはEngine 2というBEST SERVICEとYELLOW TOOLSが共同開発したものを採用。いわばEngine 2はサンプル・プレーヤー、Synth-WerkはEngine 2上で動くライブラリーのような関係ととらえると分かりやすいかもしれません。ちなみにEngine 2のウリは読み込みの速さ、豊富なパラメーター、Origamiと呼ばれるIRリバーブをはじめとするエフェクト類、強力な検索機能などを装備している点でしょう。今回チェックで使用したハード・ディスクは、SATA接続/7,200rpm/3Gbpsというごくごく一般的な仕様でしたが、全くストレスを感じない速さでした。ならば現在の先端である7,200rpm/6Gbpsのハード・ディスクやSSDを使えばさらなる速度アップが期待できるでしょう。それでもたくさんの音色を一度にロードすると環境次第ではキツイ状態になる場合もありますが、Engine 2は任意のサンプルだけRAMを使うなどの設定が可能なので、状況に合わせて適宜使い分けことができる、ユーザーにやさしい設計です。Engine 2を起動した状態でSynth-Werkから目的の音を読み込めば準備完了。Synth-Werkにはおよそ1,300種類/7.6GBの音色がどっさり付属し、目的の音に素早くたどり着けるよう大まかにカテゴライズされています。で、この1,300音色が全部クラフトワーク系の音なの?と聞かれたら、その答えは"自分は分かりません"です。ただ一般的なクラフトワーク・ファンというレベルで判断する限り、半分くらいはそうなんじゃないかなと(何しろ音色には"電卓ベース"みたいな名前が付いているわけじゃないので)。ともあれ、大体のフォルダーの名前(画面①)だけで内容のイメージはおおよそつかんでもらえると思いますが、少しだけ解説しておきましょう。 201111_SynthWerk_01.jpg▲画面① 音色は13のカテゴリーに分けられている。画面の"12 Originals"のプリセットは15種類だけだが、ほかのカテゴリーは50〜100前後、多いものは200以上の種類が収録されている "04 Computer Sounds"フォルダーは日本ではピコピコ系とかビープ系と呼ばれるようなもので、上昇(または下降)するアルペジエイター系のサウンドがどっさり。"12 Originals"というのはクラフトワーク御用達コーナーみたいなフォルダーで、彼らのアルバムで聴くことができ、なおかつ普通はなかなかお目にかかれない特殊な楽器音(おもちゃ含む)が収録されています。この中の"BG Rhythm Machine"と"Stylophone"、そして"Tones and Melodies"は「電卓」で聴ける例の音ですね。"Orchestron"はメロトロンの親戚みたいなもので、分かる人なら1秒聴いただけで"あれね"って体が反応するはず。"Tl Language Translator"もファンの間ではお約束。ちょっと怪しいロボット・ボイス(ドイツ語/英語/フランス語/スペイン語)でアルファベットと数字、あるいはテクノ系にありがちな"ミュージック"とか"マッシーン"なんて単語を読み上げたものが数十種類収録されています。とにかくクラフトワーク度の高い音が多数まとめられているので、多少なりともファンであるなら至福な時間が過ごせることでしょう。それにしても、どの音もよくできていることは間違いないのですが、何より音の鮮度の良さがとても気持ちいいです。さながらミックス中のスタジオにお邪魔して、コンソールのソロ・ボタンを押して聴くとこんな感じなんだろうなあと妄想が広がります。また"この音はXXXのソロじゃなかったっけ?"と記憶を頼りにCDを聴き直してみると、確かに近いのですが、オリジナルよりイイ音じゃんと思ったりすることも何度もありました。この鮮度の良さというのは無理に高域を持ち上げたとかではなく、ハイエンドなオーディオ・インターフェースを使ったときのようなリッチさ、密度の濃さというニュアンスに近いかもしれません。

往年のフレーズを鳴らすアルペジエイター
細かなシンセサイズももちろん可能


興味深かったのは、どこまでがSynth-Werkのライブラリーで、どこからがEngine 2のパラメーターを駆使して作られているか、でした。例えば"03 Synthesizer Sounds"フォルダーの1番。これはもうあぜんとするくらいよくできた「ヨーロッパ・エンドレス」のシーケンス・フレーズ(微妙にフレーズは変えているようです)。一昔前なら単音だけサンプリングして、あとは好きなシーケンサーで鳴らしてねって感じでしたが、Synth-Werkは鍵盤をワンキーで押さえるとフレーズが鳴る。本物がそうであるように、オクターブ移動させてもテンポが崩れないで付いてくる。もちろんホストDAWのテンポにも追従している。てことは、フレーズはサンプリングじゃなくて、何かのパラメーターで鳴らしていると。てなわけで調べてみると、キモはEngine 2のアルペジエイターなんですね。このアルペジエイターがイカしていて、鍵盤の押さえた音程を順番に繰り返すというような普通の演奏に加えて、別途用意したMIDIデータを再生するモードがあり、このフレーズではそれを採用しています。しかも単純に再生するだけでなく、そのMIDIデータのノートを鍵盤からの信号で移調することができるのです。だからこのフレーズの場合、1本指で小節ごとにG2→G4→G3→G4という具合に押さえていくことで元のMIDIデータは1つなのだけど、いろんな調で演奏できます。もちろんアルペジエイター機能を外せば、単音として演奏することも可能。音色自体は複数呼び出すことができるので、異なる音色をレイヤーしたり、マルチティンバー・シンセとしてSynth-Werkを利用することもできます。さて、先の「ヨーロッパ・エンドレス」系と同じ発想で作ってるのがご存じ、「アウトバーン」風ベース("10 Bass Sounds"の8番)。こちらもキー一押しであの雰囲気がバッチリ出ますが、Synth-Werkに搭載される豊富な編集機能やパラメーター・コントロールを使うとよりそれっぽくすることや、全く別の音を構築したりできるようになります。Synth-Werkのメイン画面右側(左ページ参照)をQuick Editと呼ぶのですが、ここで素早いコントロール(全パラメーターをMIDIで制御可能)や簡単なエディットが可能です。とは言えかなり複雑なこともでき、フィルターはマルチモードで12/24/36dB/oct(設定次第では自己発振もします!)と変えられて、自在にアクセントを付けることが可能です。ほかに24~2ビットまで可変できるビット・リダクションは周波数変更もできるので、相当微妙なひずみ感までコントロールでき一発で気に入りました。お楽しみはまだまだあって、Quick Editページでの編集に満足できない人にはPro Editと呼ばれる、さらにディープなページが待っています。Pro Editは大きく3つの役割があり、1つ目は全体的なボリュームやパンなどを一括管理可能。ここにはQuick Editとは違うフィルターも用意されています。2つ目は、Quick Editのパラメーターをさらに深く編集できます(画面②)。例えばQuick Editのリバーブの選択肢はホールやプレートくらいしかありませんが、細かく残響減衰時間やプリディレイなどを編集したいときにPro Editページの出番というわけです。最後が変調関連全般を担当する役割で、ベロシティでLFOをコントロールしたり、モジュレーターズと呼ばれる複雑な変調機能を構築することもできます(画面③)。例えば先ほどのフレーズのピッチにLFOをかけ、そのLFO周波数をモジュレーション・ホイールでコントロールするなどです。 201111_SynthWerk_02.jpg▲画面② Pro Editページ。上の枠が音量やピッチ、左下の枠はモジュレーターズの一部、右下の枠がQuick Editの詳細パネル。右下の枠は画面③と切り替え式になっている 201111_SynthWerk_03.jpg▲画面③ 画面②の右下の表示を切り替えたところ。ここではステップ・モジュレーターを表示しており、ソースとデスティネーションや範囲値は画面②の左下列のパネル群を使うSynth-Werkがすごいのは、まずサンプル波形自体に珍しいものが多く、サンプリングも上手に行われているので、組まれているプログラム以外に新たな音を作る素材としても使い回せることです。Synth-WerkはクラフトワークのDNAを継承しつつ、新たな音を作り上げるツールとして活用するのが一番ふさわしいのではないかと思いました。プッ・プー(走り去る車)。
BEST SERVICE
Synth-Werk
オープン・プライス (市場予想価格/33,600円前後)
▪Mac/Mac OS 10.4以降(10.6対応)、G5/INTEL CPU 1.8GHz以上を推奨、1GB以上のRAM(2GBを推奨)、SATA接続/7,200rpm以上/9.2GB以上の空き容量のハード・ディスク、VST2.4/Audio Units/RTAS/スタンドアローン対応 ▪Windows/Windows XP/Vista(32/64ビット)/7(32/64ビット)、INTEL Pentium 4/AMD Athl on XP 2.4GHz以上(3GHz以上を推奨)、1GB以上のRAM(2GBを推奨)、SATA接続/7,200rpm以上/9.2GB以上の空き容量のハード・ディスク、VST2.4/RTAS/スタンドアローン対応