サーバーの大きさが格段に縮小した
SoundGridの小型化モデル
レコーディングの世界では導入事例がかなり多く、あらゆる場所で目にするほどメジャーなWAVESのプラグイン。筆者も例に漏れずレコーディングやマスタリングの作業には必ずWAVESのプラグインを使用しています。そんなWAVESのプラグインをYAMAHAのデジタル・コンソール上で使うことができるのが本システム。もちろん、M7CLなどのコンソールで使用可能で、ライブ・コンソールの可能性を数倍広げてくれる夢のアプリケーション(言い過ぎ?)です。このシステムの概要を説明すると、特徴的なのがエフェクト処理を行うCPUサーバーを別途用意している点です。これまではコンソールに直接インストールするか、もしくはスロット・カード(YAMAHAの場合)での使用だったのですが、SoundGridの場合、デジタル・コンソールやコンピューターに過剰な負荷をかけることがありません。また、レイテンシーの発生を極力抑えることにも成功しています。それではパッケージ内容を順に見ていきましょう。まず今回のWAVES SoundGrid Compact Systemのメインとなるのは、CPUサーバーのSoundGrid Compact Server。実はコレ、昨年発売されたSoundGridサーバーをコンパクト化したもの。このSoundGridサーバーは非常に強力で、処理の重いリバーブ系エフェクトを56個アサインしてもCPU負荷が55%程度というとんでもない処理能力を持っていました。その代わり、筐体は重く大きくなっていましたが(当時はそんなに気になりませんでした)、今回のSoundGrid Compact Serverは非常に小さく軽くなっています。その分、処理能力は多少犠牲になっていますが、いかんせん前モデルのサーバーのスペックが高過ぎたので、コスト・パフォーマンス的にはかなり強力なシステムになっています。このSoundGridとYAMAHAのデジタル・コンソールとはLANケーブルでつなぐのですが、本システムにはそのためのカード、YAMAHA Mini-YGDAI規格のWSG-Y16も同梱します。ですので、このカードが対応しているコンソールは基本的にすべて使用可能です。
バージョン・アップした専用ソフト
5種類のWAVESプラグインが付属
続いては、WAVESプラグインを実際に使用するための専用アプリケーションMultiRack SoundGrid(画面①)についてです。このソフトはプラグインをコントロールするためのもので、別途用意したノート・パソコンにインストールして、LANケーブルを付属のNetwork Switch(ハブ)経由でSoundGrid Compact Serverと接続します。そしてWAVESは認証にiLok(付属)を使用しますので、USBポートに挿入して起動します。なお、MultiRack SoundGridはバージョン2にアップデートされ、WAVESプラグインはバージョン8に対応しています。
MultiRack SoundGridの操作方法は、上位モデルのSoundGridをレビューしたとき(2010年9月号)と同様です。まず画面に表示されたブランク・パネルをダブル・クリックしてプラグインの種類を選択します。イン/アウトの構成は、Mono-Mono、Mono-Stereo、Stereo-Stereoから選択できますが、プラグイン・エフェクトの種類によってはMonoのみ、Stereoのみのものもあります。そして空きラックがマウントされたらプラグインの選択です。ラックに表示された"+"をクリックすると選択できるプラグインがリスト表示されるので好みのものをマウントします。そして各ラックをスロットのどのチャンネルにインサートするか決め、同時にコンソール側も設定......これでMultiRack SoundGridの設定作業は完了です。ここまで迷うことなくスムーズに進行できました。今回発売されたWAVES SoundGrid Compact Systemには5種類のプラグインがバンドルされています。バンドルされるプラグインは、Renaissance Reverb、Renaissance Equalizer、Renaissance Axx、Renaissance Bass、H-Delayと、WAVESプラグインの中でも使用頻度の高いスタンダードな構成(画面②〜⑥)。セットアップした瞬間から使用できる親切なパッケージ内容になっています。なお、その他、既にユーザーがオーサライズ済みのWAVESプラグインを持っているなら、それらもすべて使用可能です。
CPU負荷を軽減する十分な処理能力
コスト・パフォーマンスの高さが魅力
今回は柏PALOOZAのM7CL-48(Ver.3.5)で使用しており、あらかじめ各チャンネルにはエフェクトをプリマウントさせて臨みました。Renaissance AxxやRenaissance Equalizerを主軸に、空間系のラックにはRenaissance Reverbを使ってみます。使用環境にもよりますが、Renaissance Axx、Renaissance Equalizerをそれぞ2個、Renaissance Reverbを1個アクティブにしてCPU負荷は14%ほどです。確かに上位モデルのSoundGridサーバーに比べると負荷は高め。しかし、ツアー・パッケージであることを考えると必要十分な処理能力を持っていると感じました。またMultiRack SoundGridは、WAVESプラグインを操作するコンピューター上のホスト・アプリケーションなので、それぞれのラック構成はファイル保存が可能でいつでも再現することができます。これも前バージョンと同様になりますが、SNAPSHOT機能を使うことで、エフェクト・パラメーターを1,000個保存することが可能。このSNAPSHOTにはラック構成などは保存できませんが、それぞれのプラグインのオン/オフやパラメーターが記録できるので、バンドごとに設定したシーンを保存しておけば、ワンクリックで呼び出すことができます。パラメーターの調整はMultiRack SoundGridで設定できますが、外部MIDI機器からのコントロールも可能です。今回MultiRack SoundGridがバージョン・アップされたことで、SoundGridを利用してリアルタイムに同じコンピューター内のDAWへ録音することが可能になりました。Core Audio、ASIOに対応したDAWでSoundGridドライバーとして認識し、先ほどのLAN接続だけで準備はOKです。今回はプリインストールされたコンピューターでの使用だったので試すことはできませんでしたが、PAエンジニアとレコーディング・エンジニアを兼任している筆者としては、双方で活用できる非常に気になる機能です。
SoundGrid Compact Systemは、その名の通り価格のコンパクト化にもつながっており、個人レベルでも十分に購入可能なレベルだと思います。コスト・パフォーマンスは間違いなく高いです。デジタル・コンソールが増え、個人のテクニックを表現するために結局アウトボードを使用しているPAエンジニアも増えていますが、このシステムを購入すれば間違いなく強力な武器になるでしょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)
▪Windows/Windows XP SP2&SP3(32ビット)/Vista/7(32ビット)、INTEL Core 2 Duo 2GHz以上のCPU、1GB(XP)/2GB(Vista/7)以上のRAM▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.4.11〜10.6.3、INTEL Core 2 Duo 2GHzのCPU、1GB以上のRAM