現在話題のクロック・ジェネレーター内蔵DAコンバーターの入門モデル

ANTELOPE AUDIOZodiac Silver
本誌8月号で紹介したZodiac+の下位機種にあたるZodiac Silverは、アナログ入力とデジタル出力が省かれた、シンプルなDAコンバーターである。設計者がクロック・ジェネレーターの定番、AARDVARK Aardsyncと同じだけに、音質に期待が膨らむところだ。

小型プリアンプのようなクールな外観
計5系統のシンプルな入出力


小型プリアンプのようなシルバー・ボディのフロント・パネルにはディスプレイやスイッチ、ボリューム類が集中し、ヘッドフォン端子以外の接続はリア・パネルに配置する。背面には電源端子、バランスとアンバランスのアナログ出力、S/PDIFコアキシャル&オプティカル入力が各2系統にUSB端子を備える。


フロント・パネルは左から電源ボタンとデジタル入力のソース選択ボタン、その上がスタンバイ・ライトで、電源をつなげるとうっすら点灯し、オンで明るくなる。その上のロック・ライトは、デジタル信号が未入力/停止中に点滅し、デジタル信号再生時でロック中に点灯する。中央はボリュームで−90dBから0dBまでのコントロールが可能。上部のマルチディスプレイは入力タイプ、サンプル・レート、ボリューム・レベルを表示する。


右にはヘッドフォン端子が2つ、小さいノブはヘッドフォン・ボリュームで、こちらもメイン出力だ。なお同社のWebサイトから、Windows/Mac/Linux用のコントロール・パネルがダウンロードでき、インプットの選択やピーク・メーターの確認がソフト上から可能だ。


周波数的な強調が一切ない
徹底的にクリーンな音質


まずはコンピューターと本機をUSBケーブルで接続し、コントロール・パネルのオーディオ・デバイスから本機を選択して音を聴いてみた。オーディオ・システムやヘッドフォンは筆者が普段使用するものだが、耳を疑うほど音の印象が違って感じられた。次に普段使用するオーディオI/Oのデジタル出力で、S/P DIFコアキシャル&オプティカルの両方を聴き比べたが、その差にも愕然とした。本機の音は徹底的にクリアなのだ。数点のモニター・スピーカーやヘッドフォンを試したが、いずれにおいても音の違いははっきりしていた。まさにZodiac Silver恐るべし、である。


試聴音源もいろんなジャンルの音楽を試してみた。クラシックはやはり高品質音源の印象が良く、ジャズも楽器のニュアンスや場所の鳴りが気持ち良い。なかでもトニー・ウィリアムスやグラディ・テイトなどのシンバルのレガートは特筆モノである。またヒップホップは低音が正確に出るため、試聴中に思わずア・トライブ・コールド・クエストやディアンジェロの音に聴き惚れてしまった。ほかに相性が良いのはエレクトロ系で、再生装置によってはある周波数が強調されて聴きづらくなることもある、Alva Notoやオピエイトのようなサウンドも、素晴らしく良く聴こえた。


デジタル・レコーダーで録音した24ビット/96kHzのファイルを試すと、音の空気感を隅々まで再生する表現力に、思わず感心してしまった。次に16ビット/48kHzと順番にクオリティを変えていくと、その違いが手に取るように分かる。ではMP3ファイルはどうだろう? デジタル出力のあるプレーヤーで、圧縮率の高いファイルを再生すると、クオリティの違いがよく分かるうえに、とても聴きやすい。メイン・アウトはもちろん、ヘッドフォン・アウトのクオリティの高さも特筆すべきもので、音質的には余計な色付けを取り除き、徹底的にクリーンにしたイメージである。


すなわち本機の特徴は、低音や高音を周波数的に強調するのではなく、元の音源を徹底的にクリアに再生するということだ。元の音に余計なひずみがある場合は、それすら正確に再現してしまうので、ごまかしが利かない。その意味では、コンピューターでエレクトロ音楽を制作するときには気持ちよく、かつ音質がOKかNGかを厳密に判断できるため、制作時の秘密兵器になるのでは、と思わず想像してしまった。


Zodiacは全部で3種類のモデルがあるため、そのいずれを選ぶのがポイントになる。リスナーであればハイエンドのヘッドフォン・アンプ&デジタル・スイッチャーとして本機が最適だ。しかし音源制作を踏まえると、Zodiac+やZodiac Goldも捨てがたい。この2機種はデジタル・アナログの入出力を持ち、Zodiacの中でジッター除去とリクロックをしたデジタル出力が可能なため、デジタル・マスターとしてファイル化できるのは大きな魅力だ。それに対して本機はアナログ出力のみなので、アナログ出力をデジタルに再変換してファイル化することになる。


 


何はともあれ、自分のリファレンス・ヘッドフォンを持参し、店頭で実際に音を試してみることをお勧めする。そうすると多分本機が欲しくなってしまうと思うが、それほどにZodiacの音は魅力的な力を持っている。


▼リア・パネル。上段が左から電源端子、バランス・アナログ出力(XLR)×2、アンバランス・アナログ出力(RCAピン×2)、S/P DIFコアキシャル&オプティカル入力×2、USB端子




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)


ANTELOPE AUDIO
Zodiac Silver
オープン・プライス (市場予想価格/ 199,500円前後)
▪サンプリング・レート/最高192kHz▪ダイナミック・レンジ/129dB▪外形寸法/165(W)×112(H)×190(D)mm▪重量/2kg