
音色調整がしやすい優れた操作性
フィルターやLFOをリアルタイムで表示
本機は4基のシンセサイザーを1つのインターフェースに収めています。特徴的なのは、1つのシンセサイザーを"レイヤー"と見なしている点で、4つの独立したレイヤーで構成されるという、新しいコンセプトを持ったソフトウェアです。
各レイヤーには3つのオシレーターに加えて、バーチャル・アナログやフリケンシー・モジュレーションをはじめとした13のマルチシンセサイズ・メソッド、23のフィルター・タイプ、さらには3つのLFO、4つのエンベロープ・ジェネレーター、自在にプログラムできるアルペジエイター、エフェクト・プロセッサーなどを搭載します。このレイヤーを4つ使うことで、非常に複雑なサウンドを創造することができます。
4つのレイヤーから出力された信号は3バンドEQを経由し、18種から選択可能なマスター・エフェクトを通って、最終的に出力されます。その際の音色の色付けや調整が非常にやりやすく、ユーザーの目線に立った素晴らしい操作性だと感じました。
各レイヤーに搭載されたフィルターやエフェクトは、シンプルなインターフェース構成でエディットしやすいのも印象的です。オシレーターの波形やフィルター、LFOの状態がリアルタイムで表示され、お互いがどのように影響しているかを視認できるため、イージーな音作りが可能です。
レイヤーの音色設定は各レイヤーの階層内で完結できるため、近年複雑化するソフト・シンセで起こりがちな、階層が深くなるにつれて、どこをいじっているのか分からなくなったり、操作したいパラメーターを見失ったりすることもなく、直感的で自由なサウンド・メイクをサポートしてくれます。パラメーターは一般的なシンセサイザーと同様の構成になっているので、ほかのソフト・シンセやハード・シンセから移行する場合も、違和感なく使うことができるでしょう。
ちなみにインターフェースは4種類のデザインから好みに合わせてカスタマイズが可能で、個人的に立体感とコントラストがカッコいいオレンジスキンというタイプが好みでした。
すぐに使える優れたプリセット・サウンド
レイヤーごとに独立したアルペジエイター
それでは実際にサウンドについて触れていきたいと思います。まず気になったベース音色のプリセットをチェックすると"D&B"や"Dubstep"の文字が目につきました。その中の1つ"Dubstep YaiYai XS"という音色を選択したところ、ダブステップ特有のうねるようなサウンドが出力され、LFOの設置値をいじるだけでうねりの幅も変調でき、すぐにでも使えそうな印象でした。
次に試した"Moogbass2 MF"ですが、プリセット名の通り、アナログ・ライクでウォームな太いサウンドのモノベースです。このプリセットは1つのレイヤーのみのシンプルな構成ですが、使えない音ではなく、逆に1レイヤーでも十分に機能するため、シンセサイザーとしての完成度の高さをうかがい知ることができました。
16ステップ・シーケンサーであるアルペジエイター機能も注目すべき点でしょう。レイヤーごとにアルペジエイターが独立しているので、複雑なシーケンスもこれ1つで作成が可能です。例えばドラム音色のプリセットである"808Analog MF"は各レイヤーにキック、ハイハット、スネアなどが設定され、それぞれに個別のアルペジエイターが作動するので、複雑なドラム・トラックを作成できます。
オシレーターにはオーディオ素材を読み込んだり、リシンセサイズも可能です。試しに自分で弾いたベースの波形を、オシレーター・タイプ"Sample"で読み込んだところ、元の音色を損なわずに再生できたので、プリプロの際に生ベースを打ち込むときにも使えそうで、作業効率化に一役買ってくれそうです。チューニング設定では、修理が必要なほどに不安定な"Analog Heavy"というユニークな設定が、個人的に好みでした。
普段は設定が面倒なのであまり行いませんが、キーボードの高音部と低音部で発音するレイヤーやオシレーターを変更するキー・スプリット設定も非常に簡単でした。ライブでリードとベースの音色を分けたいときや、複数の音色を同時に使いたいときにも重宝しそうです。
このように本機はスタジオだけでなくステージでも扱いやすく、しかも複雑なシンセ・サウンドを低CPU負荷で作ることができるため、今後多くのクリエイターのシステムに導入されることでしょう。筆者も80KIDZの新作を制作し始めたところだったので、本機のような使えるソフトウェア・シンセに出会えたことをうれしく思っています。このレビューで興味を持った読者の皆さんにも、ぜひオススメしたいですね。一度触ってみたら、本機の優れた操作性と多彩なサウンドを実感できることはもちろん、新たなサウンド・クリエイションの恩恵を得られるに違いありません。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年10月号より)