
高出力で扱いやすい設計
Variable-Dカプセルも継承
本機のルックスは完全にRE20の黒バージョンという感じで、サイズも同じになっています。RE20を使用したことのある人は分かると思いますが、かなり大きく重量もあるマイクですので、いろいろな場所に持ち歩いて使いたいという場合は、一応サイズの確認が必要かと思います。
次にスペックですが、指向性は単一のダイナミック・マイクです。インピーダンスは150Ω、出力レベルがRE20より5dB大きい−52dBとなっています。ダイナミック・マイクは全般的に、使用する楽器によってプリアンプのゲインをかなり上げなければならないことも多く、そこでひずみが生じてしまうケースもありますので、この高出力は録音する側にとってはありがたいのではないでしょうか。RE20の売りでもある、近接効果を無くし背面の周波数特性を同じにするVariable-Dカプセルも、もちろん採用されています。
RE20はダイナミック・マイクの中でも比較的ワイド・レンジなため、さまざまな楽器に使用されてきました。中でもスタジオでよく見かけるのは、バス・ドラム、ベース・アンプやギター・アンプ、パーカッション(コンガなどの皮もの)といったところでしょうか。低音を太くかつソリッドに収録してくれますので、そうした意図で使われることが多いように感じます。ほかにも歌やホーンに好んで使うエンジニアもいますし、海外の有名ベーシストが自分でアコースティック・ベース用に持ち歩いているのを目にしたこともあります。RE320も同様に、オールマイティに使えるマイクとしてのポテンシャルがあるのかを、幾つかのパートで試してみました。
Kick Curveフィルターにより
バス・ドラムを埋もれない音で収音可能
まずはKick Curveフィルターのテストを兼ねて、バス・ドラムにセットしてみました。同様に立てたRE20との比較では、フィルター無しの状態では両者のサウンドはきわめて近く、RE320の方が少しだけ低音が多く聴こえる印象。次にKick Curveフィルターを入れてみたところ、重心がより下がり余韻が長く聴こえるようになりました。Kick Curveの周波数グラフを見ますと、大雑把に言って100Hz以下の帯域が持ち上がり(特に100Hz付近に強調ポイント)、300〜400Hz辺りが下がり、2〜5kHz辺りが持ち上がっているのが特徴的で、確かにミックスではそうしたEQをしているよなと思いました。これならばバンドの中に入っても、自然としっかり分離して前に出てくるサウンドでバス・ドラムを録音できると思います。ローエンドの余韻はグルーブを出すために後処理して長めに聴かせることが多いので、最初からこのような音で録音できるのは助かります。もちろんチューニングや演奏の具合によってマッチするマイクは変わってくるのですが、今回演奏したドラマーは、RE20よりもRE320のサウンドの方が気に入ったようでした。
次はサックスと女性ボーカルを試してみました。サックスはサウンドが全帯域にわたっていますので、全体のバランスをRE20と比較する目的で録音しました。結果、中高域ではゲインをそろえた場合、ほとんどサウンドのカラーに差は出ませんでした。低音はRE320の方が出ている印象で、これには、音を太く感じる場合と低音が広がっていると感じる場合があると思いました。一方の女性ボーカルは、かなりオーソドックスでバランスの良いサウンドが録れました。SHURE SM58の低音が少し太くなった感じ、またはNEUMANN U87の高音が少し抑えられた感じのサウンドです。高域のザラつきが少ないので、色気がやや足りなく感じることもありましたが、そこはプリアンプやEQ、コンプの組み合わせで改善できるレベル。周波数のバランスが整っているので、歌い手はとても歌いやすいようです。
RE20はとても良いマイクなのですが、正直、複数本そろえるには少し価格が高いと感じていました。その点、RE320であればタムやホーン・セクションなど本数が必要なパートにも投入できそうです。自分でドラムなどいろいろな楽器を録音するのにマイクが複数欲しいという方、または同一のマイクを何本かまとめてそろえたいスタジオなどでは、かなり有効な選択肢になるのではないでしょうか。