EASTWESTQuantum Leap Spaces

本製品はEASTWESTによる24ビットのトゥルー・ステレオ・コンボリューション・リバーブ。このコンボリューション・リバーブという用語は"サンプリング・リバーブ"とも言い換えられるが、筆者がこの言葉を初めて耳にしたのは1990年代も終わろうかというころだった。サンプリング・リバーブ/コンボリューション・リバーブを簡単に説明すると、実際の空間でインパルス(非常に短い信号)を鳴らして残響を録音して得られたインパルス・レスポンス・データを演算処理して作られるリバーブのことだ。SONY DRE-S777などかつてはハード機材だったが、それらは驚くほどの高級品。しかし、当時最先端のデジタル技術で表現できる"最もナチュラルな残響付加装置"として注目を集めていたものだ。そんな時代から10年以上もたった現在、EASTWESTがAudio Units/VST対応のプラグインとして繰り出すコンボリューション・リバーブはいかなるものなのか? 早速チェックしていこう。
特徴はきめ細かい高域とリッチな中域
アコースティック楽器との相性が抜群
コンサート・ホールや聖堂、駐車場などの建築物から、洞窟や森林といった天然の空間、さらにはビンテージのプレート・リバーブやデジタル・リバーブまで、さまざまなものから得たインパルス・レスポンス・データを収める本製品。あらゆる場所で行われた残響の収録は7年間にもわたったそうで、録音にはNEUMANNやNEVE、TELEFUNKENなどのアナログ名機が60種類以上も使われたという。また収録に使用された空間の鳴りを忠実に再現できるよう、測定音を発生させるスピーカーの配置にまでこだわったそうだ。そんな本製品の操作性は至ってシンプル。基本的にはプリセットを立ち上げるのみだ。ロード後、画面真ん中のウィンドウには指定したプリセットの収録環境/使用機材などが表示される。入力レベルやエフェクト量の調整以外で音に影響しそうなパラメーターは、プリディレイとフィルターのコントロールのみ。パラメーターで追い込むのではなく、どんどんプリセットを試して理想の音場に近い響きを選ぶのが得策だろう。最も気になる音質面だが、きめ細かい高域成分とふくよかかつリッチな中低域成分が印象的。安価なデジタル・リバーブなどにありがちなザラザラとした高域成分や実の無い中域を全く感じさせないのだ。やはりアコースティック楽器には抜群の相性で、特にピアノの弾き語りやストリングス、アコギのアルペジオなどには最高のリバーブの1つとなるだろう。
簡素なオケに乗る歌には最高の選択肢
中低域を整理して軽やかな残響も作れる
次に、リバーブが最も活躍すると言っても過言ではないボーカルとのマッチングを見ていこう。前述の通り非常に自然で美しい残響が得られるため、とりわけ小編成のアコースティックな楽曲の中では、歌にも最高の選択肢となるだろう。また、教会の残響を基にしたプリセットをゴスペル風のコーラスに使ってみたが、この場合も感動的な広がりを得ることができた。
しかし、打ち込みのサウンドやエレキギターが曲のウェイトを大きく占めるようなロック/ポップスにおいては、一工夫が必要になる側面もありそうだ。リバーブにザラついた高域成分が無いということは、裏を返せばオケのサウンドに残響が溶け込み"過ぎる"ということなのだ。つまり、その他のリバーブで得られるような"いかにも響いている感じ"というレベルに持っていこうものなら、オーバーにエフェクトしてしまうことになる。すると、本製品の中域成分が持つ良い具合のふくよかさが度を超してしまい、音をもたつかせる原因になり得るわけだ。リバーブを多めにかけるときはきっちりフィルターを使用し、余分なローをカットしたい。また、多量の残響によって音像が後ろに引いてしまう......という問題を解決したいなら、プリディレイを少し長めにするなどの対処も必要だ。だが、こうしてオケ中での中低域をうまく制御できれば、空気のように軽やかな残響を作ることも可能。"リバーブ臭さ"のようなものを感じさせないままに、歌声を伸びやかにしてしまえる。こんな質感は、ほかのエフェクトでは得られないだろう。また、プラグインとして動作するコンボリューション・リバーブはほかにもあるが、そのどれもが優れた音質を備える反面、動作が重いものが多い。だが、本製品は非常に少ないCPU消費で動いてくれるため、ほかの作業に支障を来すことなく、ストレス・フリーに使用できる。"コスト・パフォーマンスがいい"という表現は、往々にして"価格の割に素晴らしい"といった意味合いに聞こえがちだ。しかし、もしこれらの言葉がイコールだとすれば、Quantum Leap Spacesにはコスト・パフォーマンスがいいとの評価はふさわしくない。なぜならの本製品の場合は、ハイエンド製品にあるような高音質が信じられないような価格で入手できる、ということなのだから。
EASTWEST
Quantum Leap Spaces
オープン・プライス (市場予想価格/34,800円前後)
▪Windows/Windows XP SP2以降/Vista/7(いずれも64ビットOSを推奨)、INTEL Core 2 Duo 2.1GHz以上またはAMD Dual Core 2.1GHz以上(INTEL Core 2 Quad 2.66GHz以上またはAMD Quad Core 2.66GHz以上を推奨)、2GB以上のRAM(4GB以上を推奨)、DVD-ROMドライブ、USBポート▪Mac/Mac OS X 10.5以降、INTEL Core 2 Du
o 2.1GHz以上(INTEL Quad Core 2.66GHz以上を推奨)、2GB以上のRAM(4GB以上を推奨)、DVD-ROMドライブ、USBポート