AMPEXのテレコをエミュレートした名エンジニア監修のプラグイン

WAVESMPX Master Tape
1992年にプラグインEQのQ10を発売して以来、製品のユーザー・インターフェース/音質共に優れた品質を維持し続けているWAVES。同社のプラグイン・バンドルは今や多くのスタジオに導入されており、デファクト・スタンダードとしての地位を築き上げたと言っても過言ではありません。そんなWAVESが近ごろ注力しているのは有名エンジニアとのコラボレーション製品。彼らが実際に使っていた機材を細部までエミュレートすることで、自宅でも簡単に歴史的名機の音を再現できる出来栄えとなっております。本稿でレビューするのは同社初のテープ・レコーダー・シミュレーター。しかもジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリンを手掛けたエンジニア、エディ・クレイマー氏が監修とあっては、ますます期待も膨らみます。Audio Units/Audio Suite/RTAS/TDM/VSTと、対応規格も豊富な本プラグイン。早速、試していきましょう。

音に太さとまとまりを付与
激しいひずみやテープ・コンプも特徴


MPX Master Tapeでエミュレーションのモデルとなっているのは、マスター・テープ・レコーダーAMPEX 350のトランスポート部と同社351のプリアンプ回路です。AMPEXはアメリカの会社で、テープ・レコーダーのメーカーとしてはスイスのSTUDERと並ぶ存在。繊細なヨーロピアン・サウンドを提供するSTUDERに対し、荒々しいアメリカン・サウンドを求めるエンジニアに好まれる傾向があります。モータウン・サウンドなどの録音に使われたレコーダーと言えば、その音質をイメージしやすいのではないでしょうか。さて、実際にMPX Master Tapeの音を聴いてみましょう。テープ・レコーダー・シミュレーターということで、テープ・スピードや録音/再生レベルなどのパラメーターが再現されています。それらを自由に調整できるのですが、まずはデフォルト設定でマスター・バスに挿してみます。すると、確かにテープの音です! 音が太くなる上、まとまりが出ました。テープ・スピードの値を初期設定の半分、"7.5ips"に落とすと高域がザックリと切れて、"いかにもビンテージな音"が作れます。製品本来の用途を考えるとマスター・チャンネルに挿すのが正しい使い方でしょう。しかし、ドラムのチャンネルにインサートした後サウンド・メイクを行えば、往年のアナログ・レコードからサンプリングしたような音が簡単に作れます。EQで同じような音質を作るよりも、本製品なら削られた帯域が最初から録音されていなかったものであるかのように、ナチュラルな仕上がりになります。次に、"RECORD LEVEL"ノブを使って録音レベルを上げます。レベルがアップするほどにひずみが増します。プロ仕様の録音ツールとしては激しくひずむ方だと思いますが、俗に言う"チューブ・ディストーション"のイメージにはベスト・マッチしそうです。真空管機器でひずみをかけ録りするよりは、クリーンに録った素材に対して本製品でひずみを加えていく方が、特に初心者の方は目的の音にたどり着きやすいでしょう。試しにスネアの音を入力します。すると、ピーキーな部分だけをひずみで丸め込むような使い方ができて便利。ピークが抑えられつつもそこにひずみが乗るため、音量が大幅に下がったように聴こえないのです。録音後に音決めを行えるテープ・コンプ、といったような使い方ですね。

さらなるひずみを生む"FLUX"ノブ
ワウ・フラッターやヒス・ノイズも再現可能


さらに、ヘッドから放射される磁束(テープを磁化させる成分)の再現とその量を調整できる"FLUX"ノブを上げていくと、ヘッドが磁気飽和を起こし音がひずみだします。"RECORD LEVEL"ノブと併用しひずみの量を増やすと、黒澤映画のサントラのような古い音質になりました。ここまで音が変わるとは驚きです。"WOW & FLUTTER"ノブでは、テープのよれを再現可能。最近ではMellotronのサンプル集なども出回っていますが、収録素材を聴くとピッチが合い過ぎていて、雰囲気に欠けることもしばしば......。こうした素材を本プラグインに入力するとワウ・フラッターを付加できるため、音に味を出せます。また、ヒス・ノイズ量を調整できる"NOISE"ノブは地味ながら使える機能。ヒス・ノイズが入っているトラックは実際に録った音よりもワイド・レンジに聴こえますが、この効果を手軽に得られるわけです。テープを無音で走らせたときに出る音を録っておいて、ミックスに使っていた僕にはツボです(笑)。そして右上にある3パラメーターの"Delay"セクションは、単体のテープ・エコーが欲しい人も満足できるであろう出来栄え。簡単にスラップ・ディレイなども作れます。単なるテープ・レコーダー・シミュレーターかと思いきや、"かなり便利に使える複合機"といった印象のMPX Master Tape。音への味出しに何か欲しいと思っている方には、かなり使いでのあるプラグイン・エフェクトだと思います。最後に、VUメーター下のネジを動かすことでメーター調整できる点も一興! 芸が細かいですね。  
WAVES
MPX Master Tape
12,600円
▪Windows/Windows 7/Vista SP1/XP SP2、SP3(以上、いずれも32ビット)、INTEL Pentium 4 2.8GHz/AMD Athlon 64または同等のCPU、1GB以上のRAM(XP)/2GB以上のRAM(7/Vista)、1,024×768以上のディスプレイ(32ビット)▪Mac/Mac OS X 10.4.11以降、PowerPC G5 Dual 2GHz/INTEL Core Duo 1.83GHz、1GB以上のRAM(10.4.11〜10.5.7)/2GB以上のRAM(10.5.8〜10.6.4)、1,024×768以上のディスプレイ