
カバンに入るコンパクト・サイズ
複雑でユニークなモジュレーション
まずは構成から。11のセクションに分かれたモジュールは、1VCO、1VCF、1VCAに1EG、それに4ステップのモジュレーション・シーケンサーとデジタル・ディレイをメインに、リング・モジュレーターなどを搭載する。各モジュールはパッチングで接続を変えられるが、基本的な部分は内部結線もされているので、何もパッチングしなくても音が出るようになっている。サイズも小型でカバンなどで持ち運べる大きさなのもうれしい。VCOが1つというのは少し頼りない気もするが、後述するように複雑でユニークなモジュレーションが多く搭載されているので、1VCOでもかなり楽しめる。外部音源を使うのであれば内蔵のMixerにパッチングすればOKだ。VCOは三角波、矩形波、ノコギリ波の切り替えに±1オクターブのピッチ可変ができる小さなTuneノブが付いている。オクターブ・レンジは16'で固定と、至ってシンプルだ。VCOの音は前述の3chのMixerに入り、VCFへと送られている。
VCFはマルチモード・タイプでハイパス、ローパス、バンドパス、ノッチの4種類が切り替え可能(写真①)。 ▲写真① Multimode VCFセクション。モードはLP(ローパス)、BP(バンドバス)、NO(ノッチ)、HP(ハイパス)の4種類を用意する。入出力の豊富さも含めて、ここだけ見れば本格的なモジュラー・シンセ並みの機能だ 小さなノブを回してセレクトするが、可変タイプではない。VCFでは一般的にローパスを多用するが、ハイパスとローパスの効果が同時に得られるバンドパスの音も過激で使える。いずれの状態でもResonanceノブの効きが良く、自己発振もお手の物だ。Cutoffがいわゆるフィルターの調整で、その上にあるCV-Cutがエンベロープなどによるモジュレーションの強さを調整する。レゾナンスに対してもモジュレーションをかけられるCV-Resoがあるのは珍しく、この辺りはいかにもモジュラー・シンセといった趣だ。VCFを通った音はVCAへ送られるが、何もしなければVCAはエンベロープでコントロールされるので、操作はすべてエンベロープで行う。エンベロープは一般的なADSRタイプとは違い、Loop AHDSRタイプを搭載する。これは鍵盤を押している間、AHD部分がループするというもので、一種のLFOのような効果が得られる。ちなみにAHDSRの"H"はホールドの意味だ。ループの長さは各ノブのタイムに依存するが、LFOとは違うモジュレーションがかかって面白い。このカーブをVCFのカットオフに応用し、レゾナンス上げれば、ノイジーでアシッドな世界観も出せる。もちろんLoopスイッチをオフにして、通常のループしないエンベロープとしても使える。
モジュレーションに特化した
4ステップのシーケンサー
本機の最大の特徴がモジュレーション・シーケンサーだ(写真②)。いわゆる一般的なステップ・シーケンサーはミニマルなループ・フレーズを作るために使われるが、本機のシーケンサーはモジュレーションが主目的。4ステップのみなのは、その用途を前提にしているとも言える。

タイムにモジュレーションをかけられる
ローファイなDigital Delay
Digital Delayはその名の通りのモジュールだが、あえて12ビット仕様になっている(写真③)。

▲写真③ Digital DelayはVCF Outの信号が内部接続されており、Inで接続する信号を変更可能
質感は1980年代のビンテージ感がバリバリで、いい意味でのローファイ感をサウンドに与えてくれる。本機のサウンドはZwergシリーズに共通して言える、現代的で元気のいいキャラクターだが、このディレイを通過することで、一気にサイケデリックな奥行き感が出てくる。この組み合わせはなかなかいい。フィードバックが長いとちゃんと劣化して減衰していく感じがあり、さながらギター用のコンパクト・ディレイのようだ。しかしノイズが出るところまでビンテージさながらの感触があり、フィルターでこもらせた音などに使うと、少しノイズが気になるが、派手な音色にビシバシかけたときのディレイ感はなかなか素晴らしいものなので、これは特性として許せるだろう。さらにフィードバック量やディレイ・タイムをCVでコントロールできる機能もある。特にディレイ・タイムを高速モジュレーション・シーケンサーをかけたときのサウンドの暴れっぷりはかなりのもの。もはやディレイ以上の効果を得ることができる。Freezeスイッチはフィードバックをホールドさせる往年のダブっぽいテクニックも使えるので"そうだ、こうやればオイシイんだな"と、試しているうちにいろんな発見もあった。これら以外の小さなモジュールも紹介しておこう。パッチ・ケーブルをパラって出すMultiple、そしてエンベロープ信号などの逆相を取り出すためのInverse。最後のAttenuaterは、言ってみればCV信号の電圧の振れ幅を強調したり逆に小さくしたりする機能で、センターの3を軸に左右に振ることで効果が表れる。ちなみにこれは2ch分搭載される。本機は鍵盤がないのでMIDIは受信のみが可能。チャンネル切り替えもディップ・スイッチで行う。またMMCによるシーケンサーのStart/Stop、MIDI Clockでの同期も可能だ。アナログのCV/Gate、またはStart/Stop、クロックのインプットも搭載されている。本機は一番最初に購入するアナログ・シンセの入門機としてはマニアックだが、すでに所有しているパッチング・シンセのサブ機、あるいはライブ・パフォーマンスでの個性的な飛び道具を探している人にはたまらないモデルだろう。シーケンサーもエンベロープも高速ループさせて、リング・モジュレーターに突っ込んでローファイなディレイで飛ばせば、アブストラクト感全開になる、痛快なマシンである。

▲リア・パネルには左からGate In、Start/Stop In、CV In、Clock In、MIDI IN、ディップ・スイッチ×6、AC INが並ぶ
撮影/川村容一