効きの良い個性派サウンドでライブにも最適なセミモジュラー・シンセ

MFBMegazwerg
マニアックなアナログ・シンセサイザーを数多く輩出しているメーカーとして注目を集めているドイツのMFB社。同社のMegazwergは、新しいコンセプトで作られたアナログのセミモジュラー・シンセだ。単体での使用はもちろん、話題になったKraftzwergなどの拡張マシンとしても使用できる。見た目は難しそうなパラメーターが並んでいるが、触ってみればそんなに怖くない。

カバンに入るコンパクト・サイズ
複雑でユニークなモジュレーション


まずは構成から。11のセクションに分かれたモジュールは、1VCO、1VCF、1VCAに1EG、それに4ステップのモジュレーション・シーケンサーとデジタル・ディレイをメインに、リング・モジュレーターなどを搭載する。各モジュールはパッチングで接続を変えられるが、基本的な部分は内部結線もされているので、何もパッチングしなくても音が出るようになっている。サイズも小型でカバンなどで持ち運べる大きさなのもうれしい。VCOが1つというのは少し頼りない気もするが、後述するように複雑でユニークなモジュレーションが多く搭載されているので、1VCOでもかなり楽しめる。外部音源を使うのであれば内蔵のMixerにパッチングすればOKだ。VCOは三角波、矩形波、ノコギリ波の切り替えに±1オクターブのピッチ可変ができる小さなTuneノブが付いている。オクターブ・レンジは16'で固定と、至ってシンプルだ。VCOの音は前述の3chのMixerに入り、VCFへと送られている。
VCFはマルチモード・タイプでハイパス、ローパス、バンドパス、ノッチの4種類が切り替え可能(写真①)。 201109_Megazwerg_01.jpg▲写真① Multimode VCFセクション。モードはLP(ローパス)、BP(バンドバス)、NO(ノッチ)、HP(ハイパス)の4種類を用意する。入出力の豊富さも含めて、ここだけ見れば本格的なモジュラー・シンセ並みの機能だ 小さなノブを回してセレクトするが、可変タイプではない。VCFでは一般的にローパスを多用するが、ハイパスとローパスの効果が同時に得られるバンドパスの音も過激で使える。いずれの状態でもResonanceノブの効きが良く、自己発振もお手の物だ。Cutoffがいわゆるフィルターの調整で、その上にあるCV-Cutがエンベロープなどによるモジュレーションの強さを調整する。レゾナンスに対してもモジュレーションをかけられるCV-Resoがあるのは珍しく、この辺りはいかにもモジュラー・シンセといった趣だ。VCFを通った音はVCAへ送られるが、何もしなければVCAはエンベロープでコントロールされるので、操作はすべてエンベロープで行う。エンベロープは一般的なADSRタイプとは違い、Loop AHDSRタイプを搭載する。これは鍵盤を押している間、AHD部分がループするというもので、一種のLFOのような効果が得られる。ちなみにAHDSRの"H"はホールドの意味だ。ループの長さは各ノブのタイムに依存するが、LFOとは違うモジュレーションがかかって面白い。このカーブをVCFのカットオフに応用し、レゾナンス上げれば、ノイジーでアシッドな世界観も出せる。もちろんLoopスイッチをオフにして、通常のループしないエンベロープとしても使える。

モジュレーションに特化した
4ステップのシーケンサー


本機の最大の特徴がモジュレーション・シーケンサーだ(写真②)。いわゆる一般的なステップ・シーケンサーはミニマルなループ・フレーズを作るために使われるが、本機のシーケンサーはモジュレーションが主目的。4ステップのみなのは、その用途を前提にしているとも言える。 201109_Megazwerg_02.jpg▲写真② 4ステップのモジュラー・シーケンサー部分を拡大したもの。Lengthスイッチによって2〜4ステップの切り替えができ、ステップのつまみを回すと、それに応じたボルテージが出力される お気付きかもしれないが、実は本機にはLFOが付いていない。それはこのモジュレーション・シーケンサーがLFOのような動きを兼ねているからだろう。フロント・パネルの左端にあるDual Glideモジュールは、入ってきた電圧の変化を滑らかにするもので、2ch分搭載される。Slew1はデフォルトではMIDIで弾いたときのポルタメントのために使われており、Slew2が実はモジュレーション・シーケンサーとつながっている。このノブを回すことでシーケンサーのステップの段差が滑らかにつながり、ループすることでLFOの代用になるというわけだ。もちろんステップの値を変えれば複雑な波形のLFOにもなり、Lengthスイッチを2にしてStep1とStep2だけをループさせれば、シンプルなビブラートを作れる。またシーケンスはStart/Stopボタンで走らせたり止めたりできる。Rangeはステップのツマミを回して得られる電圧の振れ幅を決めるもので、Rateがシーケンサーのテンポ調整だ。実はこのノブが0.1Hz〜500Hzとワイド・レンジで、0〜2くらいまでは目で追えるスピードのシーケンスだが、3を超える辺りから超高速モードになり、オシレーターのようになって低音を発するようになる。実際にこのモジュレーション・シーケンサーのCVは、内蔵のリング・モジュレーターにも接続されていて、VCOの音と合体させることで、金属的なモジュレーションを起こすこともできる。

タイムにモジュレーションをかけられる
ローファイなDigital Delay


Digital Delayはその名の通りのモジュールだが、あえて12ビット仕様になっている(写真③)。 201109_Megazwerg_03.jpg

▲写真③ Digital DelayはVCF Outの信号が内部接続されており、Inで接続する信号を変更可能


質感は1980年代のビンテージ感がバリバリで、いい意味でのローファイ感をサウンドに与えてくれる。本機のサウンドはZwergシリーズに共通して言える、現代的で元気のいいキャラクターだが、このディレイを通過することで、一気にサイケデリックな奥行き感が出てくる。この組み合わせはなかなかいい。フィードバックが長いとちゃんと劣化して減衰していく感じがあり、さながらギター用のコンパクト・ディレイのようだ。しかしノイズが出るところまでビンテージさながらの感触があり、フィルターでこもらせた音などに使うと、少しノイズが気になるが、派手な音色にビシバシかけたときのディレイ感はなかなか素晴らしいものなので、これは特性として許せるだろう。さらにフィードバック量やディレイ・タイムをCVでコントロールできる機能もある。特にディレイ・タイムを高速モジュレーション・シーケンサーをかけたときのサウンドの暴れっぷりはかなりのもの。もはやディレイ以上の効果を得ることができる。Freezeスイッチはフィードバックをホールドさせる往年のダブっぽいテクニックも使えるので"そうだ、こうやればオイシイんだな"と、試しているうちにいろんな発見もあった。これら以外の小さなモジュールも紹介しておこう。パッチ・ケーブルをパラって出すMultiple、そしてエンベロープ信号などの逆相を取り出すためのInverse。最後のAttenuaterは、言ってみればCV信号の電圧の振れ幅を強調したり逆に小さくしたりする機能で、センターの3を軸に左右に振ることで効果が表れる。ちなみにこれは2ch分搭載される。本機は鍵盤がないのでMIDIは受信のみが可能。チャンネル切り替えもディップ・スイッチで行う。またMMCによるシーケンサーのStart/Stop、MIDI Clockでの同期も可能だ。アナログのCV/Gate、またはStart/Stop、クロックのインプットも搭載されている。本機は一番最初に購入するアナログ・シンセの入門機としてはマニアックだが、すでに所有しているパッチング・シンセのサブ機、あるいはライブ・パフォーマンスでの個性的な飛び道具を探している人にはたまらないモデルだろう。シーケンサーもエンベロープも高速ループさせて、リング・モジュレーターに突っ込んでローファイなディレイで飛ばせば、アブストラクト感全開になる、痛快なマシンである。 201109_Megazwerg_rear.jpg

▲リア・パネルには左からGate In、Start/Stop In、CV In、Clock In、MIDI IN、ディップ・スイッチ×6、AC INが並ぶ


撮影/川村容一 
MFB
Megazwerg
オープン・プライス (市場予想価格/69,000円前後)
▪構成/1VCO、1VCF、1VCA、1EG、デジタル・ディレイ、リング・モジュレーター▪モジュレーション・シーケンサー/4ステップ▪外形寸法/310(W)×38(H)×165(D)mm▪重量/800g