アコースティック楽器からシンセまでを網羅するJupiterの最新モデル

ROLANDJupiter-80
伝説の名機の名を復活させた、ROLANDのフラッグシップ・シンセサイザー、Jupiter-80がついに発売された。発表時から多くの反響を巻き起こしていた一方で、全くの新機種だけに特徴や新しさを把握しかねている人も多いのではないだろうか。ここではJupiter-80の全貌を詳しく紹介していこう。

生楽器の挙動を再現するSuperNATURALアコースティック


Jupiter-80の音色の基本単位になるのがトーン(図①)で、これは大きく2種類に分かれている。その中でも最大の目玉となるのが"SuperNATURALアコースティック・トーン"だ。その名の通りピアノやオルガンなどの鍵盤楽器や、木管金管弦楽器など、既成のアコースティック楽器の音色を再現する。と書くと、よくあるPCMシンセのサンプリング音色のことと思うかもしれないが、そうではない。最も異なる点は演奏に対する挙動だ。 201109_Jupiter-80_02.jpg▲図① Jupiter-80の音源構成。トーンが本機の音色の最小単位となり、SuperNATURALアコースティック・トーン、同シンセ・トーンの2つに大別される。そのトーンを最大4つまで重ねたものをライブ・セットと呼び、アッパー・パートとロワー・パートの2つを組み合わせることができる。このライブ・セット内の各トーンには、MFX(マルチエフェクト)がそれぞれにスタンバイ、さらにソロとパーカッションの2パートを加え、計4パート/10トーンもの音色の組み合わせが可能だ まず、基本的なベロシティに対する反応だが、どの音色も実に滑らか。クレッシェンドしながら弾いてもベロシティ・スプリットによる継ぎ目や、クロスフェードによる重複が感じられない。こういったシームレスな反応は、ベロシティだけでなくあらゆる挙動に共通する。キー・スプリットを感じることもないし、あとで触れるような奏法による変化も、特にそのように仕込んでいるわけでもなければ、どこかを境に急に変わることもない。さらに、こういった鍵盤一打一打に対する挙動だけでなく、フレーズを弾いたときの反応も素晴らしい。例えばトランペットなどの管楽器で和音を弾けば、当然ポリフォニックで演奏できるが、単音で弾けばまるでモノフォニックの楽器のようなレガート演奏が可能になる。トリルを行えば、管楽器特有の少しピッチの甘い感じや音色の変化も再現される。ギターも同様に、和音で弾けば適当にバラけたコード・ストロークになり、トリルならプリング・オフ/ハンマリング・オンになる。ギタリストのように和音と単音を自在に使い分けることができるのだ。
さらに、ピッチ・ベンドやモジュレーションなどのコントローラーを使った際の反応の良さも本機ならではだろう。例えばフレンチ・ホルンの音色でベンド・アップすると、ホルン特有の倍音をたどったグリッサンドになる。しかも音程だけでなく、音色も変化するのだ。さらにこれらの変化はベンドの速度にも追従し、途中で止めることもできる。フレーズ・サンプリングのように、決められたフレーズを再現しているのではない。同様に、ストリングスでモジュレーション・レバーを上げるとビブラートがかかる。これもストリングスのサンプルを無理やりLFOで揺らしたように、全体が同周期で揺れるのではなく、セクションのメンバーそれぞれがビブラートをかけている効果になる。さらにコントローラーによる持続音中のクレッシェンド、ディミニエンドも可能だ。Jupiter-80はこういった表現がすべてのアコースティック音色に関して行える。そのため弾いていると、さまざまな楽器特有の挙動や表現が楽しく、いろいろなフレーズを次々と試したくなる。シンセサイザーは音色に触発されてフレーズやアレンジが思いつくとはよく言われるが、本機でも同様の、いやそれ以上の刺激を受けることができるのだ。

高品位なアナログ・サウンドを演出するSuperNATURALシンセ・トーン


Jupiter-80のもう1つの目玉がSuperNATURALシンセ・トーンだ(画面①)。こちらは最新のバーチャル・アナログ・シンセで、3系統の減算合成方式である。操作パネルを見れば一目瞭然、同社のGaia SH-01と似た構成で、各系統(パーシャル)ごとに1基ずつのオシレーター/フィルター/アンプが整然と並んでいる。フィルターはLPFやBPFなど4モードを装備し、スロープも24/12dBと、それぞれに切り替えが可能だ。またそれとは別にHPFも搭載する。 201109_Jupiter-80_01.jpg▲画面① SuperNATURALシンセ・トーンのコントロール画面。オシレーター、フィルター、アンプ、LFOが3系統装備される 注目はオシレーターで、通常のシンセ波形では3種類のバリエーションを装備。同じノコギリ波でも、クリーンでハイファイな波形から、ひずみっぽいダークな波形まで選択できる。また最近のROLANDのシンセサイザーではおなじみのSuperSaw波形も内蔵。複数の波形をデチューンした分厚い音色を、ワン・オシレーターで作り出すことができる。またこういったシンセ波形のほかに、 実に350以上のPCM波形も装備する。とは言え、ストリングスやブラスの音色ではない。Jupiter-8のノコギリ波や、D-50のFantasia、VP-330のVoice波形など、歴代のROLANDシンセの波形を収録する。またSuperNATURALシンセ・トーンは、シンク・モジュレーションやクロス・モジュレーションは持たないが(リング・モジュレーションは装備)、そういったオシレーター干渉による波形もPCMとして装備していて、結果的にそれらの効果を使った音作りを可能にしている。実際にSuperNATURALシンセ・トーンを使って音を作ってみると、バーチャル・アナログ・シンセの技術の進歩をまざまざと感じる。フィルターやレゾナンスの動作もスムーズで、オシレーターは滑らか、エンベロープの食いつきも早い。アナログ時代からROLANDのシンセは挙動が素直で音が作りやすいが、それをJupiter-80にも踏襲、さらにブラッシュ・アップされている。

4パートを駆使した演奏が可能
プレイヤーを裏切らない優れた操作性


Jupiter-80では、トーンを最大4つまで重ねたものをライブ・セットと呼ぶ。これだけでも十分に太い音作りが可能だが、Jupiter-80はさらに、アッパー・パートとロワー・パートを2つ組み合わせられる。ほかにも、ソロ・パートとパーカッション・パートがあり、これらの計4パートを組み合わせたものが、Jupiter-80の演奏単位"レジストレーション"になる。すべてにSuperNATURALシンセ・トーンをアサインすれば、4パートで最大10トーン/30オシレーターのモンスター・シンセとなる。言葉で解説すると、ややこしく感じるかもしれないが、実際にはストレスなく使用できる。これら4つのパートには、それぞれ専用の音色ボタン(写真①)で、音色のセットや切り替えができる。音色数は多いが、大まかにカテゴリーを選んでプリセットを選択するという流れは快適だ。また、パートのオン/オフやボリュームの調節も専用のボタンとフェーダーでワンタッチで行え、高度なシンセでありながら、プリセット・キーボードのような手軽さがあり、音作りに時間を割きたくなくても、即座に使うことができる。 201109_Jupiter-80_03.jpg▲写真① キーボードの上に設置されたアッパー・パートのパート音色ボタン。ピアノやオルガン、シンセなどの使用頻度に高い音源を配置する。またALTERNATEボタンを使えば、同系統の別の音色を呼び出せる またパートのスプリットやレイヤーに関しても、現在の状態が常に表示され、専用スイッチもあるので分かりやすい。しかもレイヤーした場合、ソロ・パートを自動的にトップ・ノートに割り振る機能があり、考えずに使っても、プレイヤーの期待通りの演奏が行えるように気が配られている。こういった挙動の素直さは、エフェクトに関しても同様で、図①のようにトーンごとにエフェクトが装備されているため、音色の組み合わせでエフェクトの状態が変わることもない。ぜいたくな仕様だがそれを誇示することなく、あくまでユーザーの期待通りに動作するよう設計されている。こういった美点は本機の随所から感じられる。ここで紹介したほかにも、これぞJupiterと言えるアルペジエイターやハーモナイズ機能、Dビームをはじめとするコントローラー類、USBメモリーを使ったWAV再生/録音機能など、多彩な機能を備える。しかしそれ以上に印象深いのは、ある種の作りの良さとでも言うべき、スペックでは表せない高級感だ。サウンドはROLANDらしくさわやかに伸びる高音と、引き締まった量感を持つ低音がある。ダイナミック・レンジは広く、強く弾いても飽和しない。鍵盤のタッチも良好だ。まさにフラッグシップの名にふさわしいクオリティと、先進性を備えた楽器の登場だ。 201109_Jupiter-80_rear.jpg▲リア・パネル。左からデジタル・オーディオ・アウト(コアキシャル)、USB端子、MIDI THRU/OUT/IN、フット・ペダル端子×3(フォーン)、オーディオ・レベル・コントロール、オーディオ・イン(ステレオ・ピン)、サブ・アウト(フォーン)、メイン・アウト×3(フォーン、XLR×2)、ヘッドフォン・アウト(フォーン)
ROLAND
Jupiter-80
オープン・プライス (市場予想価格/300,000円前後)
▪鍵盤数/76 ▪最大同時発音数/256▪パート数/4(アッパー/ロワー/ソロ/パーカッション)▪音色数/レジストレーション:256、ライブ・セット:2,560▪ライブ・セット用エフェクト(アッパー・パート、ロワー・パート)/マルチエフェクト4系統&76種類(アッパー/ロワー独立で計8系統)、リバーブ1系統&5種類(アッパー/ロワー独立で計2系統)▪ソロ・パート、パーカッション・パート用エフェクト/コンプレッサー+イコライザー+ディレイ1系統(ソロ/パーカッション独立で計2系統)、リバーブ1系統&5種類▪マスター・エフェクト/4バンド・イコライザー1系統▪アルペジオ+プリセット/128+128ユーザー▪コントローラー/Dビーム・コントローラー、ピッチ・ベンド/モジュレーション・レバー、アサイナブル・ボタン(S1、S2)、アサイナブル・ノブ(E1〜E4)、パート・レベル・スライダー(パーカッション、ロワー、アッパー、ソロ)▪外形寸法/1,230.9(W)×139.6(H)×439.3(D)mm▪重量/17.7kg