
生楽器の挙動を再現するSuperNATURALアコースティック
Jupiter-80の音色の基本単位になるのがトーン(図①)で、これは大きく2種類に分かれている。その中でも最大の目玉となるのが"SuperNATURALアコースティック・トーン"だ。その名の通りピアノやオルガンなどの鍵盤楽器や、木管金管弦楽器など、既成のアコースティック楽器の音色を再現する。と書くと、よくあるPCMシンセのサンプリング音色のことと思うかもしれないが、そうではない。最も異なる点は演奏に対する挙動だ。 ▲図① Jupiter-80の音源構成。トーンが本機の音色の最小単位となり、SuperNATURALアコースティック・トーン、同シンセ・トーンの2つに大別される。そのトーンを最大4つまで重ねたものをライブ・セットと呼び、アッパー・パートとロワー・パートの2つを組み合わせることができる。このライブ・セット内の各トーンには、MFX(マルチエフェクト)がそれぞれにスタンバイ、さらにソロとパーカッションの2パートを加え、計4パート/10トーンもの音色の組み合わせが可能だ まず、基本的なベロシティに対する反応だが、どの音色も実に滑らか。クレッシェンドしながら弾いてもベロシティ・スプリットによる継ぎ目や、クロスフェードによる重複が感じられない。こういったシームレスな反応は、ベロシティだけでなくあらゆる挙動に共通する。キー・スプリットを感じることもないし、あとで触れるような奏法による変化も、特にそのように仕込んでいるわけでもなければ、どこかを境に急に変わることもない。さらに、こういった鍵盤一打一打に対する挙動だけでなく、フレーズを弾いたときの反応も素晴らしい。例えばトランペットなどの管楽器で和音を弾けば、当然ポリフォニックで演奏できるが、単音で弾けばまるでモノフォニックの楽器のようなレガート演奏が可能になる。トリルを行えば、管楽器特有の少しピッチの甘い感じや音色の変化も再現される。ギターも同様に、和音で弾けば適当にバラけたコード・ストロークになり、トリルならプリング・オフ/ハンマリング・オンになる。ギタリストのように和音と単音を自在に使い分けることができるのだ。
さらに、ピッチ・ベンドやモジュレーションなどのコントローラーを使った際の反応の良さも本機ならではだろう。例えばフレンチ・ホルンの音色でベンド・アップすると、ホルン特有の倍音をたどったグリッサンドになる。しかも音程だけでなく、音色も変化するのだ。さらにこれらの変化はベンドの速度にも追従し、途中で止めることもできる。フレーズ・サンプリングのように、決められたフレーズを再現しているのではない。同様に、ストリングスでモジュレーション・レバーを上げるとビブラートがかかる。これもストリングスのサンプルを無理やりLFOで揺らしたように、全体が同周期で揺れるのではなく、セクションのメンバーそれぞれがビブラートをかけている効果になる。さらにコントローラーによる持続音中のクレッシェンド、ディミニエンドも可能だ。Jupiter-80はこういった表現がすべてのアコースティック音色に関して行える。そのため弾いていると、さまざまな楽器特有の挙動や表現が楽しく、いろいろなフレーズを次々と試したくなる。シンセサイザーは音色に触発されてフレーズやアレンジが思いつくとはよく言われるが、本機でも同様の、いやそれ以上の刺激を受けることができるのだ。
高品位なアナログ・サウンドを演出するSuperNATURALシンセ・トーン
Jupiter-80のもう1つの目玉がSuperNATURALシンセ・トーンだ(画面①)。こちらは最新のバーチャル・アナログ・シンセで、3系統の減算合成方式である。操作パネルを見れば一目瞭然、同社のGaia SH-01と似た構成で、各系統(パーシャル)ごとに1基ずつのオシレーター/フィルター/アンプが整然と並んでいる。フィルターはLPFやBPFなど4モードを装備し、スロープも24/12dBと、それぞれに切り替えが可能だ。またそれとは別にHPFも搭載する。

4パートを駆使した演奏が可能
プレイヤーを裏切らない優れた操作性
Jupiter-80では、トーンを最大4つまで重ねたものをライブ・セットと呼ぶ。これだけでも十分に太い音作りが可能だが、Jupiter-80はさらに、アッパー・パートとロワー・パートを2つ組み合わせられる。ほかにも、ソロ・パートとパーカッション・パートがあり、これらの計4パートを組み合わせたものが、Jupiter-80の演奏単位"レジストレーション"になる。すべてにSuperNATURALシンセ・トーンをアサインすれば、4パートで最大10トーン/30オシレーターのモンスター・シンセとなる。言葉で解説すると、ややこしく感じるかもしれないが、実際にはストレスなく使用できる。これら4つのパートには、それぞれ専用の音色ボタン(写真①)で、音色のセットや切り替えができる。音色数は多いが、大まかにカテゴリーを選んでプリセットを選択するという流れは快適だ。また、パートのオン/オフやボリュームの調節も専用のボタンとフェーダーでワンタッチで行え、高度なシンセでありながら、プリセット・キーボードのような手軽さがあり、音作りに時間を割きたくなくても、即座に使うことができる。

