名ドラマーの演奏によるキット7種類と
3,868種類のグルーブを収録する大容量
本製品は、SONIC REALITYのInfinite Playerを採用し、NATIVE INSTRUMENTSのKontaktエンジン上で動作するよう設計されたドラム音源だ。対応フォーマットはVST、RTAS、NATIVE INSTRUMENTS Kore、スタンドアローン。音源は計115GBに達するので、DVD版(94,290円)とハード・ディスク版が用意されており、今回は後者を使用した。収録内容は、先述の5人のドラマーによる単音のドラム・キットを7種類装備する。鍵盤などへの割り当てはI-MAP、GM、V-Drum、Performance、Menu Mapなどのマッピング・モードから好みの設定にカスタマイズすることが可能だ。各ドラマーのグルーブは、ケン・スコットのミックスによるステレオ・グルーブとInfinite Player上で各トラックをエディットできるマルチトラック・グルーブがあり、その総数は3,868種類にのぼる。さらに5GB分のパーカッションも収録。グルーブはREXファイルで動作し、REX対応ホストのテンポに追随する。
音質はというと、筆者はドラム・テクニシャンとしてこれまで多くのドラム録音に立ち会ってきたが、このライブラリーから聴こえてくる音は、本当にいい鳴りのスタジオといいマイク、いいプリアンプなどを使って録った音そのものといった印象。目的に向けて適切にチューニングされたドラムを素直に高品位に録音したことが感じ取れる。
各ドラマーの個性を存分に生かした音
過剰な処理がないため音作りがしやすい
ビリー・コブハムの音を最初に聴いたときには、独特の乾いた感じのハイピッチが、リアルに聴こえてきて心底ビックリした。"ウチにビリー・コブハム来ちゃったよ!"みたいな。早速ゴーストノートまみれのぶっ速いビートを打ち込んで、ぶっ速い"小節またぎ" のタムのフィルなども打ち込んでみたが、もうホントに"あのサウンド" "あのプレイ"である。ベロシティの細かい変化にも極めてナチュラルに対応する。ビリー同様、テリー・ボジオもファンの多いドラマーだが、この音も同様だ。自宅にいながらミッシング・パーソンズのドラム録音に立ち会っているような再現力なのである。スネアからはみ出る倍音なども手に取るように聴こえてくる。"あの時代のあのドラム・サウンド"を実際に支えてきたドラマーたちの音質だ。
本製品は各ドラマーの個性をうまく表現した音なので分かりやすく使い勝手も良い。レトロだがハイパーなコブハム、とんがったヌケのいいボジオ。シーベンバーグ、ウッドマンゼイは往時のブリティッシュの正統的な大物を支えてきたドラマー。ブリティッシュのこの辺りのドラマーは、"ブリティッシュ・ローピッチ"とでも言うべき非常に低いチューニングを用いており、ガムテープなどのミュートも多用している。ウッドマンゼイの音はまさに典型的だ。またシーベンバーグはイギリスのバンドにいたが実はアメリカ人。低めのチューニングでありながらやや倍音、サステインもある。"アメリカン・ローピッチ"とでも言うのか?
こういうローピッチやミッドローのドラムの音は歌やギターのおいしいレンジとぶつからないので、使いやすい音なのだが、実際は詳細にチューニングしないとこういう風には録れない。今回のレビューをきっかけに使えるライブラリーに出会ったと言える。モーゲンスタインはアメリカの正統的なテクニシャンで音も明るく現代的で、いい意味普通に多用できそうなサウンド。これはホントにいろんな場面で使えるライブラリーだ(コブハムがいればジャズもできるしなあ......)。
各ドラマーのグルーブも個性を存分に生かした内容。マルチトラック・グルーブでは、バランスもInfinite Player内で簡単に操作でき、各トラックにEQ、コンプなどをかけていくことも可能だ。より手軽に使えるステレオ・グルーブは、ケン・スコットならではの深みもエッジもある申し分ないミックスで"お、これでいいや"という感じなのだ。過剰な処理がない分、DAWでの音作りにもフレキシブルに対応する。いいエンジニアだ......。
Epik Drumsはとんがった音楽から大バラードまでシーンを選ばず、長く便利に使える高品位ライブラリーと言えるだろう。エンジニアの腕ももちろんだが、ドラマーのチョイスが秀逸!!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年8月号より)