しっかり調整されたクロスオーバー
高域/低域の伝達ズレを解消する
本体は高さ596mm、幅357mm、奥行き314mmで、重さは11.6kg。SRスピーカーとしてはコンパクトで軽量、持ち運びにも便利なサイズです。低域ユニットは12インチ・ハイプレシジョン・ウーファー、高域ユニットは1インチ・コンプレッション・ドライバー。パワー・アンプも2つ内蔵されており、低域が300W(クラスD)、高域が100W(クラスA/B)です。まずアンプの特性ですが、本機のクラスDアンプは高出力&低発熱で、アンプの効率は90%以上とのこと。このことが巨大なヒート・シンクを不要にし、スイッチング電源との組み合わせによって軽量化を実現しているようです。また、トランジェントにおけるひずみ特性を補正する独自の"Fast Recovery"回路も搭載されています。また、ウーファーとコンプレッション・ドライバーにはLinkwitz-Riley 24dB/octエレクトロニック・クロスオーバー回路を採用。位相ズレを起こさないように入力信号を高域と低域へ効率的に分配するそうです。また、ウーファーとコンプレッション・ドライバーによる音の伝達速度の微細な違いもしっかり調整されており、オーディエンスに低域と高域の信号を同じタイミングで届けられるよう配慮がなされています。次にリアを見ていきましょう。とてもシンプルです。電源スイッチ、EQツマミ、EQ ON/OFFスイッチ、入力レベル・ツマミ、スルー&入力端子(XLR)。入力端子にはライン・レベルの信号を接続することになります。EQツマミは3バンド方式で、低域は80Hz以下を±15dB、高域は12kHz以上を±15dB調整できます。中域のみ100Hzから8kHzまでEQ帯域をスウィープ可能です。
クリアな中高域と迫力の重低音
とにかく"太い音"という印象
さあ期待を込めて、実際に電源を入れてみましょう。今回も池袋にあるライブ・ハウス、鈴ん小屋のホール(適正キャパシティ40人程度)に、TH-12Aを2台設置してステレオの状態で試聴。まずはDJミキサー経由でCDを再生してみました。これは期待した以上。十分な音圧があります。ボトムを揺さぶる迫力の重低音は小中規模のダンス・ホール仕様としても通用しそうです。中域/高域ともクリアで、色彩豊かに音像を伝えてくれます。何しろ音が太い。この価格帯の軽量スピーカーからはちょっと想像し難い迫力かもしれません。そして次にアコースティック・ギターとマイクをミキサーに接続し、実際に必要な音量よりも大きめに出してみましたが、耳に痛い感じはありません。ギターと声は広範囲にほぼ均等に届きます。生々しい質感がよく再現されていて、音質に余裕を感じます。さらにマイクで収めたバス・ドラムの音をミキサー経由で鳴らしてみたところ、表情のある低音が得られました。小中規模のライブ・ハウスで、生音を生かしながら音量を補完する役割にも優れた機材だと思いました。そのほか、中規模野外ステージでのメイン・スピーカーとして、大規模ステージでのウェッジ・モニターとして、さまざまに工夫できる機材だと思います。今回は数人と長時間試聴したのですが、自然な音像が空間に行き渡って心地良い時間を過ごすことができました。出力の大きなスピーカーでも、立ち位置によって全く響きが変わってしまうことがよくありますが、このTH-12Aはその点でとても安定しています。また、EQの効き幅が非常に広く環境に合わせた音作りが可能で、スピーカーの近くにいる場合でも、遠巻きにリラックスして楽しむ場合でも、臨場感あるサウンドを聴くことができます。鮮明さと柔らさを併せ持つ魅力的なスピーカーと言えます。