名門ブランドが放つ直感的な操作性が魅力の小型デジタル・ミキサー

SOUNDCRAFTSI Compact 16
大規模なライブ会場や設備など、数多くの現場に導入実績を持つイギリスが誇るコンソール・メーカーのSOUNDCRAFT。そんな同社のデジタル卓のニュー・モデルとして新たに加わったのが、SI Compact シリーズ。このシリーズは小規模なイベント・スペースなどの使用に便利な小型デジタル・コンソール。これまでにもVIシリーズやSIシリーズなどのデジタル卓で既に定評のあったSOUNDCRAFTが投入する小型コンソールとあって、触る前から興味津々です。

各チャンネルの状態が一目で分かるACS
専用エンコーダーで直接操作できる


今回レビューするのは、3つのラインナップを用意するSI Compactの中では最小のSI Com
pact 16です。モノラル入力が16ch、モノラル・チャンネル・フェーダーが14本(15〜16chの2ch分はパネル右下のフェーダー・レイヤーのIN Bの1〜2に割り当てられる)のモデルとなっています。バス数は3ラインナップ共通で14AUX、マスターLRC+4マトリクス+4FXという仕様。ほかの2つのモデル、SI Compact 24(756,00円)とSI Compact 32(924,000円)との違いは、入力チャンネル数とインサート4系統がないことです。出力は16系統、ほかにステレオ・ライン入力2系統、AES/EBUデジタル入出力、ワード・クロック&MIDIイン/アウトなども装備。また上位機種であるSIシリーズ用の拡張スロットを1系統搭載し、オプション・カード(MADI、CobraNet、AVIOMなど)を装着することも可能です。外観はモデル名にある通り非常にコンパクトで、本機に限りラック・マウントが可能です。筐体が現場仕様で頑丈なためか、このクラスのデジタル・コンソールの中では重い部類に入ると思います。とは言え、一人で楽々運べる重量なので、使い勝手は非常にいいです。あくまで推測ですが、SI Compactはアナログ回路、つまり電源やヘッド・アンプなどの回路がしっかりしているため、この重さになったのではないかと思います。本機の操作パネルの大部分を占めるのが"ACS"と呼ばれるチャンネル・ストリップ・エリア(写真①)。 201107_SI_Compact16_01.jpg

▲写真① SI Compact 16のチャンネル・ストリップ・セクション(ARC)。左の青い囲みが入力セクションで、上からメーター、48Vスイッチ、位相スイッチ、GAIN/TRIMエンコーダー、HPFエンコーダー、HPFスイッチ。その右の緑枠はGATEセクションで、左側のツマミ上からATTACK/RELEASE、DEPTH、THRESHOLD、GATEスイッチ。その右側2つのノブがSC HPF/LPF。その右の緑枠はCOMPセクションで、上からATTACK/RELEASE、GAIN、THRESHOLD、その左にRATIOと並ぶ。赤枠は、EQセクション。左側上のツマミからHF GAIN、HI MID/LO MID GAIN、LF GAIN、EQスイッチ、右側上からHF FREQ、HI MID/LO MID FREQ、LF FREQ、一番右の2つのツマミはHI MID/LO MIDのQ。右端はアウトプットのディレイとパン


 各チャンネルのフェーダー上にあるセレクト・ボタンを押すと選択したチャンネルもしくはバスのチャンネル・ストリップ設定に切り替わり、各種設定が行えます。チャンネルごとにエンコーダーでの操作とフェーダーのLEDの色によって設定状況が確認できます。便利なのはゲートやコンプなど機能ごとに専用のエンコーダーやスイッチ類が装備されているので、非常に見やすい構成。このおかげで、チャンネルの状態が一目で確認でき、直感的な操作が可能です。ACSの右側にはフルカラーの液晶ディスプレイが搭載されています。しかも、タッチ・パネル仕様です。画面の大きさから、コンソールの各情報を表示するだけかと思っていたのですが、システム・メニューの各種設定が行えます。しかも思った以上に反応も良く、小さいながらもタッチ・ミスも無く快適に使用できます。もっとも、ミキシングに関しては各フェーダーとACSエリアだけで完結しており、前述した通りタッチ・パネルからの操作は各種システム設定のみ。最初の設定時以外に触ることはほとんどありません。各フェーダー上部のエンコーダー(グローバル・エンコーダー)で、ゲイン/パン/ハイパス・フィルターのスイッチに合わせて、各入力チャンネルのパラメーターが直接操作可能。また操作面で特殊な部分は、すべてのバス送りはフェーダーで操作すること。前述したように、コンパクトな筐体にバス(AUX)×14、マトリクス×4、FX×4を搭載しているため、すべてフェーダーで送りレベルを決める設計です。そのため、バス送りのエンコーダーは一切ありません。

LEDのカラー変化で設定状況を把握する
Fader Glow機能を搭載


パネル中央にはバスを選択するスイッチが並んでおり、任意のバスを選ぶとフェーダーはセンド用フェーダーになり、送りレベルをそれぞれのフェーダーで決めることになります。ここでFader Glowが本領を発揮。フェーダー内部に仕込まれたLEDが、各フェーダーに割り当てられている機能ごとにLEDの色が切り替わるため、設定状況が目視だけで済むのです(写真②)。 201107_SI_Compact16_02.jpg

▲写真② 設定によりLEDの色が変化するFader Glow機能。写真の赤はグライコ・モード時


 以下に各色の設定状況を書いておきます。点灯無し=通常のモノ・チャンネル(レベル)、白=ステレオ・ペアのフェーダーが点灯(ステレオ・ペアは隣り合ったチャンネルのみ設定可能、黄=プリフェーダーのバス(AUX)送り、もしくはマスター、緑=ポストフェーダーのバス(AUX)送り、もしくはマスター、オレンジ=マトリクス送り、もしくはマスター、赤=GEQ操作モード、青=チャンネル・フェーダーにFXリターンがアサインされている、もしくはFXセンドの場合、紫=チャンネル・フェーダーにステレオ・チャンネルがアサインされている場合。このようにすべてのミキシングをフェーダーで行うための便利な機能です。そして、特筆すべきは、全バス・マスターにBSSの28バンド・グライコを内蔵していることと、4系統/29種類利用可能なLEXICONのプロセッーを内蔵していること。エフェクトの種類はリバーブ(14種類)、ディレイ(7種類)、空間系(コーラス、フランジャー、フェイザー、ロータリーなど8種類)。グライコとエフェクトはどちらも高品質で、このクラスでは考えられないレベルの機能。音質は申し分なく、聴き慣れた音がこの小さなコンソールで表現可能です。グライコは14本のフェーダーに2レイヤーで展開されます。この際にFader Glow機能が赤に点灯するので、迷い無く操作可能。LEXICONエフェクトは液晶ディスプレイ下部4つのエンコーダーで設定でき、ディレイ用のタップ・ボタンも4つ装備。残念なのはこのタップ・ボタンはLEXICONを呼び出してないと点滅しないこと。つまり、一度ディレイに設定したLEXICONエフェクトを呼び出さなければならず、少し手間が掛かってしまいます。

ヘッド・アンプの高性能さを感じるサウンド
高解像度の内蔵LEXICONエフェクト


ここまで特徴を挙げてみましたが、今度は実際にSI Compact 16を現場で使用してみましょう。使用したのはいつものライブ・ハウス、柏PALOOZAで音響の規模にもぴったりなダンス・イベント時。CD/MDデッキ、オケ出し用のコンピューター、DJ、MCのマイク1本と最小限のセット。また、本機はアナログ・コンソール感覚で、あらかじめ設定するなどの作業が必要ないため容易に音出しが可能。配線を組んで、レベル・メーターを見ながらヘッド・アンプのゲインを決め、フェーダーを上げればすんなり音が出ます。そして、音質は紛れもない、SOUNDCRAFTです(笑)。小型ながら大規模フェスなどで使用されているライブ・コンソールのような迫力のある出音。SN比も非常に良く、この時点でヘッド・アンプの性能の高さがうかがえます。CDプレーヤーなどはステレオ・ソースなので、フェーダーをペアリングします。するとFader Glow機能が白に点灯し、チャンネル・フェーダーがステレオ・リンクされていることを表しました。ここで注意が必要なのが、偶数チャンネルのフェーダーではペア・チャンネルの操作ができないこと。ペアにした際は奇数チャンネルからしかフェーダー操作ができず、急な操作には注意が必要かもしれません。続いてMCのマイクにコンプをかけてみます。普段使うコンプの感覚で決め打ちして臨みましたが、狙った通りにかかってくれます。バスはモニター用に2系統使用しました。今回、バスの1を押した時点でFader Glow機能が黄に点灯し、バスのタイプがプリフェーダーのバス・マスター(AUXグループ)かバス・センドになっていることが確認できます。ここではモニターはポストフェーダーで送るので、液晶画面から設定すると、Fader Glow機能もその操作に追従して緑に変化。これは実に分かりやすい! デジタル・コンソール特有の"今、フェーダーはどの操作モードなのか......"という迷いが、Fader Glow機能によって一目で分かります。本番中、打ち合わせになかった"MCマイクで歌を歌う"という場面がありましたが、FXマスターを上げる→MCマイクのFX送りを上げる→FXリターンのフェーダーを上げるという一連の動作も素早く行えました。従来のデジタル卓で、使用開始から数十分後という状況ではここまでスムーズな操作はできなかったと思います。また、LEXICONエフェクトはなじみも良く、高品質です。解像度も高く"リバーブかけてますっ"みたいなクセはほとんどありません。もうこのLEXICONが搭載されているだけで、買いと思えるくらいクラスを超えていますね。ここまで駆け足で使ってみましたが、非常にコスト・パフォーマンスに優れたと感じました。コンパクトであるが故の操作性と機能性を高次元でバランス良く両立させています。バス単位でのポスト/プリ切り替えであったり(チャンネルごとのバス送りはポスト/プリ設定不可)、チャンネルからのバス送りを一目で確認する手段が無かったり(バス送りのエンコーダーはありません)しますが、それを補って余りある操作性をFader Glow機能によって実現しています。コンパクトな筐体を生かして、さまざまな現場をこなす一台となるでしょう。 201107_SI_Compact16_rear.jpg▲リア・パネル。上段左からANALOG IN1〜16(XLR)、ANALOG OUT1〜16(XLR)、下段左からHiQNet接続端子、DIGITAL IN/OUT×1(AES/EBU)、ANALOG IN×2(TRSフォーン)、ワード・クロック・アウト、MIDI IN/OUT撮影/川村容一(写真②を除く)
SOUNDCRAFT
SI Compact 16
577,500円
▪周波数特性/マイク入力:20Hz〜20kHz(+0/−1dB)、ステレオ入力:20Hz〜20kHz(±0.5dB)▪マイク入力/6.8kΩ▪ライン入力/10kΩ以上▪出力/75Ω以下▪最大レベル/マイク入力:+26dBu、ステレオ入力(リターン):+22dBu、バス出力:22dBu▪歪率/マイク入力:0.008%(10Hz〜22kHz、@1kHz)、ステレオ入力:0.005%(10kHz〜22kHz、@1kHz)▪外形寸法/445(W)×163(H)×520(D)mm▪重量/11.8kg