豊富な内蔵エフェクトなど多機能を極めたDJソフトの最新バージョン

M-AUDIOTorq 2.0
M-AUDIOからDJソフトTorq 2.0が発売された。本製品は既存のTorqがバージョン・アップしたものであり、さまざまな新機能が搭載されている。ざっと列挙してみると、新技術Traq Morph機能、4台のバーチャル・デッキの搭載、13種類の内蔵エフェクト、18音が同時に再生可能な専用ループ機能付きサンプラー、同社のDJハードウェアまたはサード・パーティ製インターフェースやコントローラーなど数多くの外部機器との同期が可能。さらにAVID Pro ToolsやABELTON LiveなどのDAWとのReWire接続......など、数え挙げるときりがないほど充実した機能が詰め込まれた高精度のDJソフトと言える。早速、順を追ってその驚異的なスペックを紹介しよう。

実用的な13種類の内蔵エフェクトは
デッキごとに最大4つを同時に使用できる


まずは、操作画面から。これまでにDJソフトを使用したことがある人にとっても、初めてDJソフトを使用する人にとっても実に分かりやすい画面構成だ。両サイドに配置されるデッキは4台か2台かを切り替え可能で、センターにミキサーが配置される。中央やや下部分には、サンプラーが横並びに配置され、そしてその下にはトラック・リストが表示される。その他、画面切り替えや環境設定などの操作ボタンは、一番上のバーに配置されている。この概要さえつかめてしまえば、実にシンプルな画面にしか見えなくなってしまう。各デッキが色分けされているのも視覚的に分かりやすくて良心的だ(画面①)。201107_Torq20_01.jpg

▲画面① Torq 2.0の画面デッキ部分。トラックを読み込むと色分けされるので、暗いブースでも視認性は良好だ。また、画面中には読み込まれているトラックのすべての波形が表示されるが、デッキ部分の上段にも個別に波形表示されるので、より楽曲の展開がつかみやすくなる


それでは、各パートの機能を紹介しよう。最初にデッキ部分。先も述べたが、Torq 2.0では4台のデッキが使用可能だ。各デッキともに、スタンドアローンでも利用可能であり、もちろん外部のコントロールCD/バイナルからの操作にも対応する。2台のときはもちろん、4台の場合でも各チャンネルにEQとエフェクトが個別でかけられるようになっているのが特徴的で、特に各デッキに個別エフェクトがかけられるのは、アグレッシブなDJをする際には実に重宝する。内蔵エフェクトの種類は、なんと13種類(ディレイ、リバーブ、フランジャー、フェイザー、デュアル・フィルター、ディストーション、ストロボ、リバース、ビート・リバース、ブレイク、リピート、レゾネーター、コンプレッサー)にも及ぶが、それだけではなく、Torq 2.0はVSTプラグインにも対応しているため、無数のVSTエフェクトを利用することも可能だ。しかも1デッキにつき同時に4種類の内蔵エフェクトと1種類のVSTエフェクトをかけることができるのである。もちろん、エフェクトのかかり具合を一つ一つ微調整することも可能という素晴らしい仕様。肝心のエフェクト音も、繊細できめ細かく申し分ない。4台のデッキには、この充実したエフェクト類のほかにも、CDターンテーブルのように素早いキュー設定が可能なQuickQueやLoop機能、たった今通過したセクションをキャプチャーするPre-Loop機能、そして最適なサイズのループを作成するためのSmart Mode、スピード・コントロールやキー・コントロール、トラック波形表示など、基本的な機能はくまなく搭載されている。

音をモーフィングするTraq Morph機能
18セルのテンポを同期させるサンプラー


次に、ミキサー部分。使用デッキを2台もしくは4台を選択することにより、それぞれ2本、4本の縦フェーダーが現われ、同時にトラック波形表示も2本と4本に切り替わるように設定されており非常に分かりやすい。そしてそれぞれのフェーダーに個別でゲイン、ハイブースト/カット、ミッド・ブースト/カット、ローブースト/カットのEQが付随している。すべてのEQのかかり具合は、絶妙で切れ味も抜群だ。そして、縦フェーダーの下に配置されているクロスフェーダー。一見ただのクロスフェーダーに見えるが、実はここに驚きの新機能、Traq Morphが搭載されているのだ(画面②)。 201107_Torq20_02.jpg

▲画面② 今回のバージョンから搭載された新技術、Traq Morph機能。画面左の赤枠内に4つのアイコンが見えるが、左上がフィルター(クロスフェーダーを動かすに従って、トラックAから低域がカットされると同時にトラックBの低域が入ってくる)、その右がダック(フェードするに従いダッキング効果が得られる)、そして左下にカット(トラック間の前後がリズミカルにカットされる)、その右隣りがモーフ(オーディオ・ソースが過激にミックスされる)


Traq Morphとは簡単に説明すると、複数のエフェクト間をモーフィングしながらクロスフェードできる機能である。この機能は、これまでありそうで無かったミックスの新技術であり、なんと特許出願中という革新的な代物だ。具体的にはカット、フィルター、ダック、モーフの4つのモードのいずれかを選択すると、曲間をフェードする際に、Torq 2.0が適切にエフェクトをかけてくれる。例えばフィルター・モードを選択し、トラックAのクロスフェーダーをトラックBに動かすに従って、トラックAから低域がカットされると同時にトラックBの低域が入り、刺激的かつ自然なグルーブが生み出される。ダック・モードは、フェードするに従って、エレクトロ・ハウス・スタイルのダッキングが導入される。カット・モードを選択すると、トラックがリズミカルにカットされ斬新なビートを作り出す。モーフ・モードは、クロスフェードされている音が過激に混ざり合い、エキサイティングなミックスが創造される。これらのモーフィング機能を使いこなせば、誰も体感したことのないDJミックスをフロアに紡ぎだせること間違いない!次に、サンプラー部分(画面③)。 201107_Torq20_03.jpg

▲画面③ 画面中央やや下に見えるサンプラー部分。次々にサウンドが重ねられるサンプラーで、最大18セルのテンポ同期が行える。サンプラー画面の両脇に見える▲▲をクリック(▲は上の画面には見えないがメインにはある)していくと画面が18セル分スクロールしていく構造


こちらもまた刺激的な機能であり、使い方も実に簡単で即戦力になる優れた機能だ。搭載されているサンプラーの数は18セルに上り、それぞれ個別にオーディオ・サンプリングおよび再生が可能である。しかも専用ループ機能が付いているので、簡単に次々と音を重ね合わせていくことができる。サンプリング方法も実にシンプル。ミキサー部分のヘッドフォン・モニター・ボタンが録音ソース選択となっており、モニタリングしている音をすかさずサンプリング(録音)することが可能。このサンプリングされた音は自動的にコンピューター内にストックされ、利用したいときにさっとフォルダーから拾い出すだけだ。これを18基のサンプラーで同時再生できるというのだから、すごい!そして最後に、ブラウザー/ファイル・リスト部分。画面下部に位置し、左側にコンピューター内の音楽データ・フォルダーが一覧で並び、そしてフォルダーを選択していくと中に入っているトラックが右側に表記されるようになっている。対応オーディオ・ファイルは、MP3/AIFF/WAV/WMA/AACなどの各種フォーマットで、APPLE iTunesライブラリーからのファイル・インポートにも対応しているので直感的に曲を探せ、分かりやすい。この"分かりやすさ"は、DJにとって非常に重要であり、爆音の中、しかも暗闇で雑然としているDJブース内で、瞬時に曲を探せるという安心感は絶対である。曲の表記もアーティスト、ソング、アルバム、トラック・ナンバー、BPM、キー、ジャンル、評価、コメント、ファイル・タイプなど、詳細に明記されるので、やりやすい形にファイリングしておけばよりプレイに集中できるだろう。

コントローラーを使った操作もスムーズ
DAWとの連携にも対応する創造性


僕が実際プレイしたのは、M-AUDIOのConectivという4ch入出力のUSBオーディオI/Oと、それに付属しているコントロールCDおよびバイナルを併用しての操作。そしてスタンドアローンでも操作してみたが、全体的に非常に扱いやすかった。まず、設定も簡単で自分の使いやすいスタイルに簡単にカスタマイズ可能でありスムーズ。そして曲のリストもこちらで何もしなくともパッと並べてくれてあっと言う間にDJスタンバイOKという感じだ。コントロールCD/バイナルとの同期も自然で、普通にCDやレコードをかけているのと何も変わらない感覚でソフトのコントロールが可能であった。エフェクト類に関しては、非常に素晴らしく、深く細やかにナチュラルにかかるのだが、グルーブが倍増するような激しさも兼ね備えている感触! 複数のエフェクトを交えても濁ることなく奇麗にミックスされる感じはさすがだ。特に新機能のTraq Morphは、やはりエキサイティングな機能であり、これまでに味わったことのないエフェクティブなミックスが楽しめた。サンプリング機能もシンプルに使用できたので、逆にいろいろでき過ぎて使いこなすのに大変......というか非常に使いこなしがいのあるDJソフトであった。ちなみに同社のDJコントローラー、Torq Xponentをはじめ、NUMARK NS7、VESTAX VCI-300といった他社製ハードウェアも利用できるため、選択の幅が広がってありがたい。また、今回は使用しなかったが、制作面でも大いに利用可能なソフトとも言える。前述したようにPro ToolsやABLETON LiveなどのDAWとの連携を実現するReWireもサポートしているので、ただのDJソフトで終わらせてしまうのはもったいないだろう。例えばサンプリング機能を使えば、再生中に気に入ったポイントを録音することができ、エフェクトもソフト内で行えるため、サンプリング・ライブラリーがすぐに作れそうだ。こうして作った音をPro Toolsなどに取り込みまとめていったり、使いこなせばこなすほど、制作面での可能性も無限に広がっていくだろう。DJソフトとしてはもちろん、制作ソフトとしても利用可能なTorq 2.0、ダンス・フロア、スタジオ共に音楽の可能性をさらに押し広げてくれそうなクリエイティブ・ソフトだ。 
M-AUDIO
Torq 2.0
オープン・プライス (市場予想価格/23,100円前後)
▪Windows/Windows XP(SP3)/Vista 32/64(SP2)/7、INTEL Core 2 Duo、2GB以上のRAM、500MB以上のハード・ディスク空き容量▪Mac/Mac OS Ⅹ 10.5.8以降(10.6.5推奨)、INTEL Core 2 Duo、2GB以上のRAM、500MB以上のハード・ディスク空き容量