4種のコンソール特性をモデリングし"アナログ感"を加えるプラグイン

SLATE DIGITALVCC
本製品はAudio Units、VST、RTASに対応し、コンピューターでの内部ミックスで損なわれがちな、倍音やひずみ感を付加できるプラグインです。倍音を付加するプラグインは他のメーカーからもリリースされていますが、このVCC(Virtual Console Collection)は名前の通り、往年の有名な4機種のコンソールで得られる個性的なキャラクター......つまり"倍音感"や"トランスを通ったときに得られる音色の変化"をモデリングした、エンジニアが今まで探し求めていた新しいタイプの製品です。

有名なアナログ卓をモデリング
DRIVEツマミでひずみ感を付加


VCCにはVirtual ChannelとVirtual Mix Bussという2つのプラグインが収録されています。両者の違いは、Virtual Channelは個別チャンネル、Virtual Mix Bussはマスターにインサートするよう作られていることです。共にCONSOLE セレクト・モードを備え、4種類のコンソールのモデリング・サウンドを切り替えることになります(画面①)。201107_VCC_01.jpg

▲画面① モデリングしたコンソールを選ぶCONSOLEツマミ。"Brit N Discrete"はNEVE、"Brit 4K"はSSL、"US A Discrete"はAPI、"Ψ"はTRIDENT系の質感が楽しめる


メーカーからはっきりとは明かされていませんが、モデリング元となったであろうコンソールと本サウンド傾向は以下の通りです。●Brit N Discrete/皆さんご存じのNEVE系。太く豊かで、温かみのあるサウンドが特徴です。●Brit 4K/名前からも分かるようにSSL SL
4000シリーズ。最も人気のあるコンソールと言えるでしょう。ロック/ポップ/ヒップホップなどのジャンルに向いています。クリーン&ワイドでパンチのある、アグレッシブなサウンドが特徴です。聴感上は、EシリーズとGシリーズの間という印象。●US A Discrete/API系サウンド。とてもタイトで太く、ミッド・レンジのパンチが効いた音質が特徴です。●Ψ/TRIDENT系。基本的にロックに向いており、広いサウンド・ステージ、スムーズなハイエンド、ファットなローエンドが特徴です。またVirtual Channel/Virtual Mix Bussには共にDRIVEツマミ(±6dB)が備えられており、アナログ卓ならではのひずみ感を加えることができます。いわゆる普通の機材やプラグインに付いているDRIVEツマミは、上げていくに従って大抵ボリュームも一緒に上がってしまいますが、VCCの場合はDRIVEツマミを上げても下げてもアウトプット・ボリュームが変化しません。つまりひずみ感だけが変化するので、とても使いやすいと思いました。両者にはGROUPスイッチ(後述)も付いていますが、さらにVirtual ChannelだけINPUTツマミ(±6dB)が用意されています。これは実機のコンソールに付いているライン・インプット・トリムと同じで、プラグインに入るレベルを調節することが可能。当然、DRIVEツマミによるひずみ感も変化します。以上、VCCが持っている基本的な機能はこれだけ。とてもシンプルですね!!

CONSOLEツマミをいじるだけで
多彩なサウンド・キャラクターに


では、実際に各楽器にインサートして使ってみます。Virtual Channelを各ドラム・パートに挿してみましょう。ここで1つありがたい機能があります。各チャンネルにインサートしたVirtual Channelのツマミをグループ化することができるのです。つまり、異なるチャンネルにインサートしたVirtual Channelでグループを組んでおけば、1つのVirtual Channelのツマミを動かすだけで、ほかのVirtual Channelのツマミも連動して動きます。さらに"グループ化したドラムの中からスネアだけDRIVEをもっと上げたい"と思ったら、そのDRIVEツマミをControl+クリック(Windowsの場合は右クリック)するといったんスネアのDRIVEツマミだけがグループから解除されます。そしてDRIVEを調整した後にもう一度DRIVEツマミをControl+クリックすると、グループに戻ることができるという設計。VCCは、使う人の気持ちをよく理解して作られていることが分かりますね!!さて、ドラムにVirtual Channelをインサートしたときの音質変化を、各CONSOLEモードごとに私なりの解釈で書いてみます。●Brit N Discrete/音像が上方向に行き、倍音が増しました。
●Brit 4K/バランスが良く抜けも良好。原音に近い印象。
●US A Discrete/アタックが強調され、タイトなサウンドに。
●Ψ/皮物類の帯域が増し、余分な倍音が消えて全体的に前に来ました。高域も奇麗に伸びています。次にベースへインサートしたときの印象です。
●Brit N Discrete/中域が持ち上がってパンチが出ます。
●Brit 4K/中高域に張りが出て、ピッキングのニュアンスが分かりやすくなりました。
●US A Discrete/中域がヘコみますが、安定感は増します。
●Ψ/ローエンドが他のコンソールよりもかなり増え、直接的な高域が減りました。
続いて、ダブルにしたバッキング・ギターにインサートした際の印象です。
●Brit N Discrete/中域が増え、安定感が増しました。音が前に出てきます。
●Brit 4K/ワイドで艶のある音色に変化。
●US A Discrete/中低域に粘りが出ました。
●Ψ/音の輪郭がハッキリします。
さらにボーカルへかけた際の印象です。
●Brit N Discrete/倍音が増えてパンチが出ます。
●Brit 4K/原音に一番近い、クリアな歌声に。
●US A Discrete/中高域が強調され、アタックが増強。
●Ψ/歌の定位感が増し、滑らかになりました。以上が、私なりの感想ですが、原音に対しての変化の違いを述べていますので、人によって印象が変わるかもしれません。基本的には、DRIVEツマミは触らずにCONSOLEツマミだけの変化で比較しました。これにINPUTツマミとDRIVEツマミの変化を加えれば、かなりのバリエーションが得られると思います! ひずみ過ぎたギターなどには、DRIVEツマミをマイナス方向に設定してかけるというのも有効かもしれません。また2ミックスにもVirtual Mix Bussをかけてみました。これもCONSOLEツマミでモデルを変えていった音質変化を書き出してみます。●Brit N Discrete/倍音が増えつつ、全体が前に出てくる感じ。
●Brit 4K/分離感が向上しました。"まさにSSL!!"という感じになります。
●US A Discrete/スピード感が増加。レスポンスの速い音が好きな方に最適でしょう。
●Ψ/全体的に安定感が増し、ローエンドが充実。ただ決してローファイではなく、ハイエンドも十分伸びていました。

打ち込みにも生楽器にも使える柔軟性
"少し質感を変えたい"ときに最適


レイテンシーに関してですが、AVID Pro ToolsでVirtual ChannelをAUXチャンネルにインサートしたときの遅延は2,116サンプルでした。しかし、プレイバック・エンジンの遅延補正を"ロング"に設定すれば全く問題なく動作。またマスター・トラックを2つ作り、片方にVirtual Mix Bussをインサートして、素のマスターと混ぜてみましたが、フェイジングを起こすようなこともなく使用することができました。これらに加え、VCCにはオーバーサンプリング機能とキャリブレーション機能も付いています。オーバーサンプリング機能には"No Over Sampling""Mid(2X)""High(4X)""Ult
ra High(8X)"の4段階の設定があり、Ultra Highにすると最もリアルなコンソール・モデリング・サウンドを得ることができます(画面②)。201107_VCC_02.jpg▲画面② オーバーサンプリング機能の設定画面。"No Over Sampling"でも質感の恩恵を受けられるが、"Ultra High(8X)"が最も効果的。ただしCPU負荷も高くなる ミックスをする人だったら当然、Ultra Highにしたいところですが、CPUベースのプラグインであるためちょっと無理があります。そこで2ミックス用のVirtual Mix BussだけUltra Highにするという使い方が現実的かと思いました。これだけでも抜けが良く、倍音が豊かになります。なお、オーバーサンプリング機能は再生時とオフライン時で別々に設定が可能です。キャリブレーション機能は、インサート時のレベル変化を微調整できます(画面③)。201107_VCC_03.jpg▲画面③ キャリブレーション機能の設定画面。インサート時のレベル調節を全体/グループごとに行える 通常VCCをインサートするとレベルが約0.5dBほど下がるので、これを好きな値に調整可能。VCCのプラグイン全体/グループごとに個別設定が可能となります。ここまでレベル設定に対してこだわりを持っているプラグインは今まで見たことがありません!チェックを終えての全体の使用感ですが、取扱説明書には全チャンネルにインサートして使うのがお勧めと書いてあったものの、実際には少し負荷が重めのプラグインなので、チャンネル数の多いセッションでは難しいと感じました。ただ、主要な音にだけインサートしたり、バスにまとめてかければ十分使えるでしょう。サウンド的には生楽器にも打ち込みにも使える優れものだと思います。"EQするまでもないけど、ちょっと質感を加えたい"といった際に重宝されるプラグインですね。とにかく製作者のこだわりがとても伝わる製品だと思います。DAWの内部ミックスをする際には、"質感"や"変に分離が良過ぎる"というような壁が今までありました。そのため、ひずみエフェクトを使ったり、実際にコンソールに通すなどの作業を行っていました。しかし、VCCを使用すればコンソールでミックスしたような質感になり、ドライブ感が増し、とても一体感のあるミックスになります。コンソールの質感(バイブ)を大事にしたいエンジニアやクリエイターに打ってつけのプラグインではないでしょうか。
SLATE DIGITAL
VCC
オープン・プライス (市場予想価格/24,990円前後)
▪Mac/Mac OS X 10.5以上、INTEL製CPU、1GBのRAM、iLok2▪Windows/Winodows XP/Vista/7(32ビット)、SSE2対応のINTELもしくはAMD製CPU、iLok2▪対応フォーマット/Mac:RTAS/Audio Units/VST、Windows:VST ※現状32ビットのみ対応