MIDIでの制御ができるドイツ生まれのコンパクトなアナログ・シンセ

VERMONAMono Lancet
一口に"アナログ・シンセ"と言っても、ビンテージ・マシンを指すばかりではなくなってきた昨今。ここに来て、新製品が続々と登場しているのだ。ソフト・シンセが普及したことで、アナログの良さが見直されているというわけなのだろうか? そんな中、"鍵盤非搭載のコンパクト機"という、今最も熱いジャンルに参入してきた製品がVERMONA Mono Lancetだ。ドイツを拠点とするVERMONAは、これまでにもアナログ・シンセやリズム・マシンといったハードウェア、そしてスプリング・リバーブなどの個性的なアウトボードを発表してきたが、このジャンルには競合製品が多いだけに注目度も高い。早速、その詳細を見ていこう。

オシレーターは有機的で重厚な音質
なおかつピッチの安定度も非常に高い


Mono Lancetは、フル・アナログ回路を搭載したMIDIイン付きのモノフォニック・シンセだ。基本的にはMIDIコントローラーと併せて使用する本機だが、ライブ・パフォーマンスを意識した可搬性と音質、そして操作系を備えており、"アナログ・シンセの基本"に忠実なモデルと言える。そんな本機はお弁当箱サイズ。トップ・パネルにびっしりと詰まったツマミは、ほかのシンセであまり見かけない形状/色だが、全体的に丁寧な塗装が施されている。リーズナブルな価格帯でありながら、見た目の高級感に定評があるVERMONA製品ならではの良質な仕上がりだ。シンセ構成は2VCO/1VCF/1VCA/1EG/1LFOと、比較的オーソドックスなもの。2系統のVCOでは、それぞれの音域を3種類からスイッチできる上、波形も3パターンを選択できる(写真①)。201107_MonoLancet_01.jpg▲写真① Mono Lancdetには2基のオシレーターが搭載されており、発振音の音域と波形をそれぞれ3パターンから選択可能。まず、VCO1では音域を8/16/32から選ぶことができ、矩形波/ノコギリ波/三角波を切り替えて使える。一方、VCO2については音域を4/8/16から選択できる上、矩形波/ノコギリ波/ホワイト・ノイズといった波形をセレクト可能。また、"DETUNE"ツマミでは、VCO1に対するVCO2のチューニングが行える なお、オシレーター・シンク機能は非搭載となっている。一方、ツマミ類にはVCOに対するLFOやEGのかかり具合、ポルタメントの長さを制御できるものを個別に用意。そのほか、"MIX"ツマミでオシレーター2系統の音量バランス、そして"DETUNE"ツマミによってVCO1に対するVCO2のチューニングを調整できる。そしてトップ・パネルの左下部分に備えられた大きめのツマミ"TUNE"では、マスター・チューニングの調整が可能だ。ピッチの可変幅が小さく設計されていることから、音高を激変させるためのものではなく、あくまでチューニング用として装備されていると考えられる。単体では使いやすいのだが、やはりほかの楽器と併用する場合は別途チューナーが必要になってくる。さてオシレーター自体の音質だが、"モダンとビンテージの中間"といった趣のサウンドだ。倍音が多く含まれており、少しフィルターをかけるだけでいい感じになってくれる。しかも、デジタル機器のサウンドで聴けるようなパキッとした倍音とは異なり、有機的で重厚な点に好感が持てる。ローも出る上、高い音を出してもやせることはない。なおかつ、ピッチが非常に安定している。長時間電源を入れっぱなしにしていても、チューニングがほとんど変わらないくらいだ。

切れ味の鋭いフィルターは澄んだ音質
MIDI鍵盤が無くても音を出せるVCA


VCFにはローパス・フィルターが搭載されており、"CUTOFF"ツマミを右側に回し切るとバイパス状態、左側に振り切ると完全に閉じて音が出なくなる(写真②)。201107_MonoLancet_02.jpg▲写真② 本機のVCFセクションには"CUTOFF"や"RESONANCE"といった基本的なツマミのほか、キー・トラックを0/50/100から切り替えることができる"TRACK"スイッチが装備されている フィルター自体のキレが非常に良く、ひずみっぽさが無い上にヌケがいい。ノイズ・レベルは低く、フィルターを完全に閉じても残留ノイズが聴こえることはほとんど無かった。また発振が起きるまでレゾナンスを効かせても、マスター音量は大して変わらない。このときローがやや引っ込むのだが、カットオフ周波数が変わっても全体的なバランスが崩れないよう工夫されているみたいだ。そして、レゾナンスのかかり具合も実に素晴らしい。振幅周期の短いLFOでオシレーターへモジュレーションをかけた際、レゾナンスを効かせると音色がトリッキーに変化する。ROLAND TB-303的なビキビキ感も、割といい線をいっているのではないだろうか?さらに、キー・トラックを"0/50/100"の3段階から選択可能な"TRACK"スイッチも装備。"100"にセットした場合はオシレーターのピッチが高くなるほどにフィルターが開くよう設定可能だ。一方、"0"に合わせたときは、どんなピッチのオシレーターに対しても固定の周波数でフィルターがかかる。キー・トラックによる音色変化は意外とナチュラルで、ちょっとしたニュアンスの調整用といったところ。なお、この機能はある程度フィルターが閉じた状態でないと効果が現れにくい。そのほかVCOと同じく、VCFにどれだけEG/LFOをかけるかも調整することができる。VCAには3つの出力モードが用意されており、それぞれをスイッチで切り替えて使える(写真③)。201107_MonoLancet_03.jpg▲写真③ VCAセクションのスイッチ"TRIG"をONしている間は内蔵シーケンスを再生でき、"SEQ"を押すごとにパターンが切り替わる。また、"SEQ"を押しながら"TRIG"をONすればシーケンスをホールド可能 1つは、常時音を出しっぱなしにできる"ON"。いわゆるホールドの状態になり、MIDI信号を入力しなくても音が出続けるのだ。残り2つのモードでは、EGをかけるか解除するかを切り替えられる。後者に設定すると、外部のMIDIコントローラーからゲート信号のみを受け付けるよう設定可能。なおかつフィルターやVCOのピッチに、EGでモジュレーションをかけられるようになる。"VOLUME"ツマミでは、本機のマスター・ボリュームをコントロールできる。また2つのボタン、"SEQ"と"TRIG"を使用することで、本機に内蔵されたシーケンス・パターンを走らせることが可能。"TRIG"をONにしている間は内蔵シーケンスを再生することができ、"SEQ"を押すごとにパターンの種類が切り替わる。また、"SEQ"を押しながら"TRIG"をONにすれば、シーケンスをホールドできる。本機にMIDIコントローラーを接続しなくても、出音の確認が行えるのだ。EGは一般的なADSR式。このEGは前述の通りVCOとVCFに接続されている。"ATTACK"ツマミと"DECAY"ツマミの間に小さなLEDが備えられており、エンベロープ・カーブに応じて光の強さが変化する。これがなかなかかっこいい。LFOの波形は、矩形波/三角波/サンプル&ホールドの3種類から選択することができる。振幅周期を"SPEED"ツマミで調整できるだけのシンプルなセクションだが、周波数の可変幅は0.05Hz~250Hzと大きい。一番速い振幅周期では、周波数変調にも似た金属的な効果が狙える。これは本機が備える特徴の一つだろう。

専用ドックで外部のシンセと連携可能
MIDI CC信号での機能制御も充実


背面の"EXTENSION"入力(D-Sub 25ピン)も大きな魅力の一つ。別売りの専用ドックMono Lancet Modular Dock(オープン・プライス/市場予想価格23,000円前後)を"EXTENSION"入力に接続すれば、本機のVCOを外部のモジュラー・シンセなどで扱えるようになる。また、CV入力でのピッチ/フィルター・コントロールも実現可能だ。さらに、本機だけでは不可能な三角波のモジュレーションにも対応するほか、外部入力へかかるフィルターとしても活用できる。そのほか、CV/Gateによるシーケンスの入力も装備。MIDIにも対応している。さて、Mono LancetではMIDIコントローラーでよく使う操作子や演奏情報が、コントロール・チェンジで特定の部分にあらかじめアサインされている。例えば、MIDIコントローラーのピッチ・ベンダーでは本機のVCOピッチを、モジュレーション・ホイールではパルス幅を制御できる。また、MIDI鍵盤などを弾いたときのベロシティに応じてVCFのカットオフ周波数が決まる上、アフター・タッチを強めるほどにフィルターを開いていくといった操作も可能だ。さらに、MIDIコントローラーで演奏される音のベロシティで、VCAボリュームを上下させることもできる。なお、ベロシティの情報をVCFのカットオフに割り当てるか、VCAの音量にアサインするかを選ぶことができる。このほか、グライドやレガートのON/OFFもコントロール・チェンジで制御できるため、想像以上に複雑なコントロールができそうだ。もちろんMIDIが苦手な人でも、本機にMIDIケーブルを接続するだけで簡単に音を出すことができるので心配無用。なお、MIDIチャンネルは"1"で固定されている。一通り試したが、音に関しては"使える!"の一言だ。アメリカ製シンセのような陽気さというよりは、ややダークでクールな印象だが、アナログ音源らしい太さも備えている。シンセ・ベースとしても使えるだろう。テクノ/ハウスはもちろん、ダブステップ、ニューウェーブ的なものまでフォローできそうだ。また同じ価格帯の他社製品と比べても、特にフィルターのスウィープ感が音楽的で気持ちいい。リーズナブルな製品とは言え、"高級シンセの廉価版"といった雰囲気ではない、本格的なアナログ・サウンドを体験できるだろう。コンパクトなMIDI搭載型シンセを探している人は、選択肢の一つに入れてみてもいいと思う。201107_MonoLancet_rear.jpg▲リア・パネルには、左からライン・アウト(フォーン)やMIDI THRU/IN、外部入力などに使えるEXTENSIONイン(D-Sub 25ピン)、電源スイッチ、電源コネクター(12V)が並ぶ撮影/川村容一
VERMONA
Mono Lancet
オープン・プライス (市場予想価格/60,000円前後)
▪シンセ構成/2VCO、1VCF、1VCA、1LFO、1EG▪シーケンサー/8ステップ▪外形寸法/210(W)×55(H)×145(D)mm▪重量/750g