ヌケの良いオシレーター・サウンド
名機譲りのフィルターは切れ味抜群
MonotribeはKORG Electribe・A/Rなどの初代Electribeよりも小さめながら、そのボディには厚みがあり、ズシッとした安定感も備えています。面白いのは底面にスピーカーが搭載されている点。その上、6本の単三電池による電池駆動が可能なところです。早速、机の上で内蔵のドラム音源をシーケンスさせてみたところゴキゲンにリズムを刻み、"何てお手軽な機材なんだ!"という第一印象を抱きました。電子楽器において、電源を入れてすぐに音が鳴るのはとても大事なこと。まさにハードの利便性/即興性を打ち出した仕様で、好感が持てます。このコンパクト・ボディには、さまざまな要素が凝縮されています。シーケンサーには8ステップ・キーが採用され、シンセ・サウンドやドラム音源を打ち込めます。さらに、シーケンスを再生したまま音色やフレーズの編集を行うことも可能です。そして、さすがはキレのあるKORG製品。当然ただの音源付きシーケンサーではなく、面白い機能がいろいろと用意されています。その一つがシンク機能。これはシンク・イン/アウト(いずれもステレオ・ミニ)を使い、複数台のMonotribeを同期させるものです。またオーディオ・イン(ステレオ・ミニ)×1を用いて、本機をフィルターとしても活用可能。ライン・アウト(フォーン)はモノラル1系統という男前仕様で、本機が目指すところの明確さと良い意味での"潔さ"が感じられます。それでは音源を見てみましょう。本機に搭載されたアナログ・シンセは、1VCO/1VCF/1VCA/1LFOといった構成のモノフォニック仕様です。基本波形をノコギリ波/三角波/矩形波の3種類から選べる上、ホワイト・ノイズをミックスできます。シンプルな構成なので、初めてシンセを触る人でもその仕組みを理解しやすいでしょう。各波形の音質には劇的な違いが感じられませんが、どれも非常にヌケが良い音です。特筆すべき点は、フィルター部にKORGの名機MS-10/MS-20のVCF回路を搭載しているところ。このフィルターによって、ファットな音色からMSシリーズ特有の倍音がひずんだ攻撃的なレゾナンス効果まで、幅広い音作りが可能です。僕がとりわけ気に入っているサウンドは、フィルターが閉じた状態の矩形波ベースです。強調したい倍音を"PEAK"ツマミでうまく探りながら"CUTOFF"ツマミを使いフィルターの開け閉めを行うと、この小さなボディから鳴っていることを忘れるほどの音色が作れます。思わず"やっぱりハードっていいわ〜"と、うなってしまいました。非常にキレの良いフィルターなので、つい豪快にツマミをひねりがちですが、音程があるか無いかくらいの極めて低い帯域の音色がいい感じです。
音色の性質を決定するほど強力なLFO
3つの演奏モードが選べるリボン鍵盤
一方、EGはADSR式ではなく、"Decay""Gate""Soft Attack"といった3種類のプリセット設定から選択する方式です。モノフォニック・シンセということもあると思いますが、各設定を切り替えて音を出していく中で、設計に違和感が無いことに気付くでしょう。音色に揺らぎ(モジュレーション)を与えるLFOセクションでは、その対象を"VCO""VCF""VCO+VCF"から選べます(写真①)。
一方LFO波形はノコギリ波/三角波/矩形波から、振幅周期は"FAST""SLOW""1SHOT"より、それぞれ専用スイッチで選択可能。なお、"1SHOT"はオシレーター発音時にEG的な効果を与えられるモードです。また"FAST"は、リボン・コントロール鍵盤を押すたびにLFO波形の頭出しが行える"Key Sync"機能に対応。そのほか、周期は"RATE"ツマミで微調整でき、モジュレーションの深さは"INT."ツマミで制御可能です。このLFOが破壊的に強力で、音色のキャラクターはほぼここで決まると言っても過言ではありません。例えば、"RATE"ツマミで振幅周期を速めに設定した上で"INT."ツマミをマックスまで振り切ると、リング・モジュレーション的な効果が得られます。また、振幅周期に従ってデジタル・ノイズのような激しいひずみも発生します。続いて、ドラム音源はディスクリート・アナログ回路によるキック/スネア/ハイハットの3パート。デぺッシュ・モード時代のヴィンス・クラークが作りそうな味のあるサウンドと言いますか、飽きの来ないソフトな音色となっています。ちなみに各音色はピッチ変更などのエディットができないので、ある意味割り切って使えます。シーケンス入力時などに使うリボン・コントロール鍵盤にも触れておきましょう。この鍵盤では、3つの演奏モードをVCOセクションのスイッチを使って切り替えられます。まずは指を置いた位置通りの音階を発音する"KEY"設定。鍵盤が小さいため思い通りに演奏するのは至難の業ですが、基本的な演奏ではこのモードを使います。次に音域を6倍に広げられる"WIDE"設定では、鍵盤をなぞると6オクターブ間を一気に駆け上がったり、下ることが可能。8ビット時代のF1ゲームに出てくるエンジン音のようなサウンドが鳴らせたりします。また鍵盤に従って滑らかに音高が変わる"NARROW"設定では、テルミンのサウンドにも通じるスウィープ音を演奏できます。
リズムに変化を与える"ACTIVE STEP"
"FLUX"では再生音をクオンタイズ
さて本機にはリボン・コントロール鍵盤だけでなく、内蔵のアナログ・シンセとドラム音源をコントロール/再生するための8ステップ・シーケンサーが搭載されています(写真②)。
ステップ・キー×8で発音のON/OFFを切り替えられるこのシーケンサーは、視覚的/直感的な操作で瞬時にエディットが可能。任意のドラム音源をスイッチで選び、キーのON/OFFを行うだけでとても簡単に打ち込めるでしょう。また、作りたい曲の半分のテンポに設定すれば、16ステップ・シーケンサーとしても使用できます。さらにこのシーケンサー・セクションには、"ACTIVE STEP"という面白い機能が搭載されています。指定したステップを間引いて全体のステップ数を減らしたり、また元に戻したりということができます。しかも、シーケンスの再生中に使えるため、ステップ数をリアルタイムに変更可能。その結果、極めて短いループからあらゆる拍子のリズム、変則的なビートなど、多彩なシーケンスを組めます。例えば"ドン・チ・ドン・チ・ドン・チ・ドン・チ"という8ステップのリズムがあったとしましょう。このシーケンスの2/4/6/8ステップを本機能でOFFすると、"ドン・ドン・ドン・ドン"といったビートを作り出すことができます。ステップ・キーをランダムにON/OFFすれば思いがけないフレーズも生み出せる"ACTIVE STEP"は、今までありそうで無かった機能の一つでしょう。ドラム音源だけでなく、アナログ・シンセのサウンドも同様にシーケンスさせることができます。しかも"FLUX"機能を使えば2通りの再生方式が実現できます。本機能がONの際は、リボン・コントロール鍵盤で弾いたままのフレーズを再生でき、OFFのときはクオンタイズ再生が可能です。面白いのは記録/再生時を問わずにモードの切り替えができる点。ゲート・タイムもリボン・コントロール鍵盤で一括変更できたりと、リアルタイム性にも優れています。ちなみに本機はMIDI入出力を搭載していませんが、シンク・インにパルス波を入力することでDAWソフトなどとの同期が可能です。例えばオーディオI/Oのライン・アウトLchから同期信号のパルス波を本機のシンク・インに入力し、Rchから別の音声信号をオーディオ・インに入れると、同期させつつDAWソフトからのサウンドにフィルターなどをかけられる......といった、変わった使い方も可能です。また、ライブなどでは"ACTIVE STEP"機能を使った荒技演奏もできるでしょう。そして触ってみると分かりますが、シンセ本来の"音色を作る楽しさ"や"演奏する楽しさ"を凝縮した作りとなってるので、本体だけでも十分遊べます。狙ったフレーズよりも偶発的に生まれるフレーズが面白く、手元に置いておきたい気分にさせてくれるシンセと言えるのではないでしょうか。素晴らしいです。