上位機種の操作性を踏襲したSERATO Itch専用DJコントローラー

PIONEERDDJ-S1
昨今のDJスタイルはレコード、CD、パソコン、USBメモリー、ハード・ディスク......とまさに多様化時代。そんな僕も、振り返れば5年前にPIONEERのDJミキサーDJM-1000のデジタルのイン/アウトを現場で体験し、音質のクリアさとダイナミックさに驚き、アナログからCDに移行したのでした。そして新しいものは試してみたいと、1年前からDJソフトのRANE Serato ScratchLive SL3を使っています。しっくり来なかったらすぐCDに戻るつもりでしたが、今では最高の相棒です。その一番の理由はコントロール・ディスクを使うことで、使い慣れたCDターンテーブルPIONEER CDJ-2000で培ったスキルを損なうことなく移行できたのが大きいです。だから他社のコントローラーには、あまり興味がわきませんでした。が、しかし、PIONEERがSERATO Itch専用コントローラーを......Itchは初ながら両ブランドを使う僕にはメッチャ気になります!!

パソコンと一体化するラップトップ・ドッグ
CDJ-2000同様ニードル・サーチを搭載


本機は、付属のDJソフトSERATO Itch専用のコントローラーです。製品到着後、いきなり僕が気に入ったのはこのサイズ。結構大きいのですが、持ち運ぶのには問題ない重さ。僕は従来のコントローラーに多かった、あの申し訳ないような小ささが苦手でした。DDJ-S1はご覧の通り、ミキサーとCDターンテーブルをガッチリくっつけたよう。コントローラーと知らず、DJブースに置いてあったら思わずCDスロットを探してしまいそうです。ボディのブラックも映えています。各操作子の配置は、PIONEERのプロフェッショナルDJ機器のレイアウトを採用、デッキ左右に直径115mmのジョグ・ダイアルを搭載し、コントローラーにCDJを使っているScratch Live使いには何の違和感もなく操作できます。そしてノート・パソコンと一体化できるラップトップ・ドック構造のおかげで、ミキサーからディスプレイまで最短距離。キーボード部分がすっぽり収まって、合体メカみたいでカッコイイし使いやすい(図①)。ミキサー部分のHI EQツマミからパソコンのディスプレイまでは10cmほどの距離ですので、パソコンを使うDJはモニターばっか見てるとか言われなくなります。

▼図① ノート・パソコンのキーボード部分を収納するために本体底面とテーブルに間隔が空くよう設計されたラップトップ・ドック構造。ノート・パソコンの画面と操作子が近いため目線をずらすことなくプレイに集中することができる


DDJ-S1自体にはディスプレイは搭載されていません。そのためトラックの長さはパソコン側で確認するか、楽曲の進行状況をLED表示してくれるプレイングアドレスが搭載されています(写真①)。これは楽曲の進行状況が一目で確認できるというもの。こんな当たり前のことに今気が付いたのですが、本機を使うならコントロール・ディスクはもう要らないのか。まさにダイレクト!!

▼写真① 左右のデッキ上方にあるプレイングアドレス。赤のラインは楽曲の進行に合わせて右へスライドする。その下のニードル・サーチとはリンクしており、任意のポイントをタッチすればブレイングアドレスも追従する


そしてCDJ-2000から登場した目的の再生ポイントに素早くアクセスできるニードル・サーチも搭載しているので、より直感的なミックスが可能。このニードル・サーチは、アルファベット・サーチとして楽曲検索にも使えるのです!!そしてさすがは専用機、パソコンにUSBケーブルを接続するだけですぐにDJプレイが可能なプラグ&プレイに対応しています。それからパソコン経由で電源供給するUSBバス・パワーにも対応(こんなに大きいのに!!)。万が一、電源アダプターを忘れても安心ですね。それと心配りは本機背面のコード・フック。このフックの上側に電源アダプターの電源コード、下側にUSBケーブルを引っ掛けることで固定できて安心です。僕の使っているケーブル(OYAIDE/NEO d+USBClass S)もバッチシ、ロックされました。入力端子も豊富に装備されています。本体フロント・パネルには、フォーンとステレオ・ミニのヘッドフォン端子が用意されており、マイクも2本させます(本体左デッキ部にXLR/フォーン・コンボ端子×1、フロント・パネル右側にフォーン端子×1)。各デッキ上部にはマイクと外部入力用のレベルと3バンドEQが付いているので、DJユニットやクラブを主戦場とするバンドの新兵器になるのではないでしょうか。そして、マスター・アウトにはXLRのガチッとした端子が付いているので、そのままPA卓に挿すことができます。またマイク入力やAUX入力をItchに録音することも可能。録音したいチャンネルはItch側で操作し、MIX(マスター・アウトから出力される音声)とAUX(MIC/AUXチャンネルの音声のみ録音)の2つから選択できます。

ロータリー・セレクターで快適に選曲
プレイ中に音が止まることのない安心設計


ここからは実際に使ってみました。Scratch Live使いの人が気になるところを体験レポートしようと思います。まず、DDJ-S1に付属するDJソフトのSERATO Itch(画面①)。僕が普段使っているScratch Liveとは、多少レイアウトが違うものの、何の違和感も無くすんなり理解できました。Scratch Liveと同じようにSETUP画面で自分好みに設定できるのも良いです。普段マウス・パッドをダブル・クリックしてトラックを選んでいる僕は、キーボード部がラップトップ・ドックに収納されているので大丈夫か心配でした。しかしミキサーの中央上段に鎮座するCDJ-2000譲りのロータリー・セレクターと、その左のBACKボタンで簡単に思い付くトラックまでたどり着けました。ファイルの選択にはロータリー・セレクターを回し、決定するにはロータリー・セレクターを押すといった操作はCDJ-2000と同様で簡単です。

▼画面① SERATOItch。楽曲ファイルに収められた膨大なトラックもアルファベット・サーチ機能でスムーズに選曲できる。このほか原曲のテンポを変えることなく、ループやリバース、スクラッチが行えるスリップ・モードなどを搭載している


そしてプレイしたいトラックをA(左)のデッキに読み込ませたい場合は、デッキ上部にある白いLOADボタンAをプッシュ、B(右)のデッキに読み込ませたい場合も同様の手順です。次にロードした側のPLAYボタンを押して、ジョグ・ダイアルを操作しつつ希望のポイントを見つけCUEボタンで待機させます。ここで気付いたのが、ほとんど手癖のようになっていたCDJの頭出しボタンが本機には付いていない......。そこでニードル・サーチ!! これで簡単に頭出しです。人差し指のやさしいタッチでブレイクからも一気にいけます。波形とのリンクもバッチシで、この"つながってるね感"が気持ち良いです。再生中はトラックを止めない限りLOADボタンが有効にならないのもポイント。ロックというかセーフティ機能ですね。

楽曲の構造が目視できるビート・グリッド
12種類の強力なエフェクト群


Itchには、ビート・シンク機能も搭載されており、BPMを自動的に一方のトラックへ合わせることができます。これはScratch Liveにはない機能です。僕はBPMを自分で合わせるのが好きなので使わなかったですが、ビート・グリッドという機能は良いですね。これはトラックを読み込んだ際に、その楽曲のBPMの平均値からトラックの波形に小節ごとのグリットが自動的に立ち、今何小節目をプレイしているかが確認できるというもの(画面②)。フェード・インの曲だったり、小さいベース音から始まる曲などもグリッド表示のおかげで、頭からミックスできます。

▼画面② Itchの画面下に表示される楽曲の波形。上が左側、下が右側のデッキでプレイしているトラックを表し楽曲の展開が目視できる。さらにビート・グリッドにより小節まで確認できるので、より緻密(ちみつ)なミックスも可能だ


そして注目すべきはエフェクター。Itchには、REVERB、DELAY、ECHO、LPF、HPF、PHASER、FLANGER、CRUSHER、TREMOLO、BREKER、REPEATER、REVERSERと計12種類の強力なエフェクトを装備。画面を見ながらミキサー部の上方にあるエフェクト・セレクト・ロータリーを操作し選択します。これらは2系統用意されているので、左右同時にかけれる点もすごい!!さらに豊富なループ機能を搭載しているのもうれしいですね。例えば本機のLOOPボタンのひとつであるAUTO LOOP(各デッキのジョグ・ダイアル上部)を押せば、小節単位でループになるためずれる心配もありません。このAUTO LOOPボタンは、左に回すたびにループ再生の長さを半分に分割、右に回すたびに倍に増えていきます。ブレイクも簡単に作れますし、ねちっこいロング・ミックスも面白いです。また、BPMはソフト側に小数点以下2桁まで表示されるので細かくビシッと合わせられます。Scratch Liveでは、音程を変えずに再生速度を調整する設定をソフト側で行いますが、本機はCDJと同じくMASTERTEMPOのボタンで行います。通常Scratch Liveを使っている際は、CDJのMASTER TEMPOは二重になってしまうので消していました。ミキサー部ですが、目を引くのは中央のマスター・レベルのインジケーター。左右のデッキのインジケーターを挟み中央にマスターのインジケーターがあるので、TRIMツマミでのゲイン調整も気にしやすく、何よりシンプルで分かりやすい。僕はとにかく現場に持ち込んで使い倒したいと思いました。また配線がパソコンと本機を接続するだけなので、自宅にDJセットが欲しい人にもお薦めです。僕はヘッドフォンで時が経つのも忘れて何時間もDJしてしまいました。

▼リア・パネル。左から右に向かってマスター・アウト×2系統(XLR&RCAピン)、AUXインプット×1系統(RCAピン)、ボリューム・ツマミ、USB、電源スイッチ、DCイン端子、コード・フック




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年6月号より)
PIONEER
DDJ-S1
オープン・プライス (市場予想価格/130,000円前後)
▪周波数帯域/20Hz〜20kHz▪全高調波歪率/S0.006%以下▪SN比/101dB▪付属品/SERATO Itch(Windows/Mac対応)、ACアダプター、USBケーブル、他▪外形寸法/680(W)×95.2(H)×318(D)mm▪重量/5.0kg