Auto-Tune機能が搭載されたボーカル用プロセッサー&マイクプリ

TASCAMTA-1VP
今やスタジオのコンピューターのほとんどにインストールされていると言っても過言ではないほど普及した人気プラグインANTARES Auto-Tune。以前はハードウェア版ATR-1やAVP-1がリリースされていましたが、この度TASCAMより、AVP-1のDNAが継承されたハードウェア版Auto-Tuneが登場しました。期待している人も多いと思うので早速レビューしていきましょう。

引き締まった音質で高域に伸びのある音
Auto-TuneはEvoのエンジンを搭載


TA-1VPはチャンネル・ストリップ型(マイクプリ、コンプ、ゲート、EQ、ディエッサー)のハードウェアにANTARES Auto-Tune Evo、Microphone Modelerをプラスした1chの多機能なボーカル・プロセッサー。今回はマイクプリと注目のAuto-Tune機能をメインに見ていきたいと思います。まず、本機とAVP-1との大きな違いは"マイクが直接挿せる" 点だと思います。以前はライン入力しかなかったので、別途マイクプリを用意するかインサートして使用していました。しかし本機は、TASCAMのデジタル卓DM-4800/3200と同等のマイクプリ回路を採用しており、ファンタム電源も供給できるのでコンデンサー・マイクも使用可能。さまざまなシーンに対応できるようになったのは非常に大きなプラス要素です。マイクプリのみの印象は、TASCAMのデジタル卓らしい全体的に引き締まった音質で、高域に伸びのあるシャキっとした感じは好印象でした。続いて本機の目玉でもあるAuto-TuneとMicrophone Modelerを見ていきたいと思います。Auto-TuneはEvoのエンジンを採用しており、プラグイン版とはややパラメーターの数や呼び名が変わっていますが、Auto-Tuneを触ったことのある人であればすぐに理解できるので、ほとんど一緒と思ってよいでしょう。筆者はこの手のピッチ・エフェクト系のプロセッサーを使うときはまず"ケロケロ" 具合を試したくなるのでまずはそこから。Auto-Tuneの細かいセッティングは省略させていただきますが、キー設定と入力音のタイプ設定をして、ケロケロ具合の決め手となるピッチ補正適応スピードのCorrection Speedを最速の0にしました。これはプラグイン版のRetune Speedに相当するものと思われますが、本機のAuto-Tune機能にはビブラートに関するパラメーターが無いため、曲のテンポやノートの長さ、ボーカル・スタイルに合わせた調整をこのCorrectionSpeedで行うものと思われます。さて実際に行ったケロケロ設定での感想は"お~、ケロってるねぇ~"といった感じに狙った効果は得られました。ですが、プラグイン版と比較してみるとエフェクトの音色に若干の違いがあると感じます。表現するのがとても難しいのですが、次のピッチへ移動する際の"カクカク"している部分がプラグイン版ではボコっとしているのに対し、本機はその音色が若干ナチュラルに感じました。反対にCorrection Speedを遅くしてナチュラルに補正する設定では、ビブラートのちょうどいいところを探すのに若干時間がかかりましたが良い効果が得られました。またスケールのプリセットやノートのバイパス、リムーブ(Blank)、全体のデチューン設定、ピッチ検出の感度調整などのパラメーターがあるので、用途に応じて好みのかかり方を作り保存しておくことができます。Auto-Tune関連の面白い機能として、本機にはダブル・トラッキング機能もありAuto-Tuneトラックと、補正されていないトラックにより簡単にダブリング効果を生み出すことも可能。同じ出力にミックスすることもできますし、別々に出力してステレオ効果を作ることでサウンドの幅が広がります。

さまざまマイク・タイプがモデリング可能
ハードウェアならではの安定性と手軽さ


続いてMicrophone Modeler部ですが、こちらもANTARESのプラグインMicrophone Modelerと同じ構成。簡単に機能を説明すると、収録時に使用したマイクとは別タイプのマイクの音にすることができるプロセッサー。例えばダイナミックで収録したけどコンデンサーで収録したような音に変更するといった具合です。パラメーターはSource Mic側(SRC)とModel Mic側(MODEL)の両方にマイク選択、ローカット設定、近接効果(距離)の設定があり、これらを操作することで音色を変化させます。基本的な使い方は、まずSource側(収録時)のマイクをプリセット(14種類)の中から探し、使用しているマイクがそこに無ければコンデンサーなどタイプ別(5種類)からマイクを選択します。次に収録時にマイクのローカット・フィルターをONにしていたらパラメーター(Src LC)をONに。すると通常のオペレートとは逆の動作となりローカット・フィルターの効果が消され、オーディオ内の低域が増えます。続いて近接効果を得るため収録時のマイクの距離を設定。パラメーターの数字の単位はインチとなります。この際、値を小さくすると低音が減衰し大きくすると増加します。ここでニュートラルな特性に戻し、Source側の音を元にModel Mic側で任意のマイク、距離、ローカットなどを設定することで目的のマイク・サウンドにしていくわけです。今回、TA-1VPのAuto-Tuneを使用してみて、運搬やセッティングの手軽さ、安定した動作はやはりハードウェアならではの利点と言えます。また、1台にこれだけ豊富な機能が凝縮されているにもかかわらず、価格はプラグイン版(ネイティブ)並みにお手ごろなのも魅力でしょう。

▼リア・パネル。左からライン・アウトMAIN/DOUBLE TRACK×2(フォーン)、ライン・イン(フォーン)、MIDI OUT/IN、S/P DIF出力(コアキシャル)、フット・スイッチ(フォーン)




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年6月号より)
TASCAM
TA-1VP
オープン・プライス (市場予想価格/50,000円前後)
▪周波数特性/20Hz〜20kHz(±0.5dB)▪全高調波歪率/0.008%以下▪最大レベル/120dB以上▪マイク入力インピーダンス/2.2kΩ▪ライン入力インピーダンス/10kΩ▪外形寸法/482(W)×45(H)×155(D)mm▪重量/2kg