録音からライブまで幅広く対応できる超指向性コンデンサー・マイク

EQUATION AUDIOF.20
その製品クオリティとコスト・パフォーマンスの高さから、特にヘッドフォン市場で人気の高いプロ・オーディオ・メーカー、EQUATION AUDIO。同社からこの度、コンデンサー・マイクのF.20が発売された。手ごろな価格でありながら、レコーディングからライブまで多目的に使えるというこのマイク。今回はその実力に迫ろうと思う。

ボディの質感やパーツの作りが良好
S/Nが良く滑らかで素直な音質


写真で見る限りは"どこかで見たことのある"外観のF.20。だが、実機を手にすると単なるレトロ・デザインにとどまることのない、実に洗練された設計に気付かされる。ボディ全体の良好な質感や、各パーツのしっかりとした作り込みがそう思わせるのかもしれない。また、ギター・アンプのFENDER Tweed風に仕立てられた付属ケースや歌録りに効力を発揮するポップ・スクリーンを含めた、製品トータルでの見せ方も印象的だ。このマイクをまずはアコースティック・ギターに立てて、収めた音をチェックしてみる。ゲインは最近のコンデンサー・マイクの傾向通りやや高め。SN比も良く、基本設計の確かさをうかがうことができる。アルペジオやストロークなど、さまざまな弾き方での演奏を拾ってみるが、その音質はとても素直で脚色が少ないという第一印象だ。低域は柔らかくスムーズ。なおかつ、しっかりとした中域から高域へのつながりには無理が無い。よりピークがキツく、ダイナミック・レンジの広いガット・ギターの場合でも、弱い音から強くはじけるピーキーな音まで、反応良くとらえている。さらに女性ボーカルに使用してみたところ、ギラつきが少なく子音も奇麗に収音。収めた音には全体的に伸びやかで、温かい印象を受けた。近年のマイクには価格や生産国、コンデンサー型/ダイナミック型を問わず、音質の傾向として中抜け(=中域の不足)および、中高域に耳障りなピークのある製品が多いように思う。こういった特性にすると、音の立ち上がりやレスポンス、そして明りょう度などが向上しやすく、マイクで収めた音をパっと聴き、派手に聴かせることができる。しかしこの音作りがオーバーになり過ぎると、録り音の芯が希薄になり、フォーカスがぼやけてしまうのだ。その結果、ほかの楽器の音と合わせると負けてしまったり、アンサンブルの中で浮いたりして、収めたサウンドの音楽的な存在感が薄くなるという危険性をはらんでいる。F.20のような製品の音作りは、そういったマイクの音に比べるとやや地味に聴こえてしまうかもしれない。だが実際はどんなソースでもバランス良く、しかも扱いやすくとらえてくれるはずだ。

ノイズの流入を軽減する超指向性
大音量楽器にも耐える最大SPL


さて、このマイクの指向性はスーパー・カーディオイド=超指向性とのことだ。チェックしてみると、確かに通常の単一指向性マイクに比べて収音範囲は狭めになっている。しかし、音を発するものの正面から少し外れたことで、入力レベルや録り音の音質が大きく変わるほどシビアなものではない。録音ブースなどの設置がままならない自宅録音においては、録り音に生活音などが入って来がち。よりダイアフラム正面の音へと狙いを絞ったF.20の指向性は、こういった周囲からのノイズ流入を軽減するのに役立ちそうだ。また−16dBのPADや最大音圧レベル150dBSPLというスペックから、ドラム・キットやギター・アンプなどにも使用可能。ライブ現場でも、積極的にオンマイクでの収音ができるだろう。一昔前まで、コンデンサー・マイクなるものは高価で扱いがシビア、完全プロ用で素人には高根の花......というイメージだったが、今やこのクオリティでこの価格だ。1本であらゆる楽器に使い回せる上、扱いも簡単なF.20。とりわけ、"自宅録音で何か良いマイクを導入したいな"と考えている方々にはうってつけだろう。(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年6月号より)

撮影/川村容一

EQUATION AUDIO
F.20
オープン・プライス(市場予想価格/55,000円前後)
▪周波数特性/20Hz〜20kHz▪指向性/超指向▪SN比/80dB▪最大音圧レベル/150dB SPL@1kHz▪外形寸法/65(W)×148(H)×54(D)mm▪重量/490g