プリアンプとカプセルを自由に組み合わせられるコンデンサー・マイク

DPA4006A/4011A/4015C
スタジオでおなじみのB&Kから独立してできたマイク・メーカー、DPA。本稿では同社が手掛けるリファレンス・スタンダード・シリーズから、3本のコンデンサー・マイクを紹介します。製品名から想像できるように、4006Aは4006の、4011Aは4011の後継機となります。一方、4015Cはコンパクト・マイク4026の後継という位置付けです。自宅録音が増え続けている昨今、プライベート環境で録った素材を本番テイクに使いたい人も多いと思います。その際、従来のDPAマイクが実現してきたような質の高さでオールラウンドな楽器録音に臨めれば何かと便利な上、ミックスを担当するエンジニアの仕事もはかどるはず。これら3種類のマイクは、こうした作業プロセスを現実のものとしてくれるでしょうか?その可能性を確かめていきたと思います。

無指向性の4006Aは
3種類の周波数特性を選択可能


マイクを手に取ると、B&Kの手掛けていた製品に引けを取らない丁寧な仕上がりに納得してしまいます。各製品はモジュールとして独立したプリアンプとカプセルを組み合わせたものです。各モジュールは単体でも販売されており、いわばそのセットがひとつのマイクとして提供されているのです。上の実機写真には"4006"など、数字の書かれた部分がありますが、これがカプセルです。そして、カプセルに接続されたボディ部分にプリアンプが内蔵されています。カプセルは自由に付け替えることができ、指向性などを変更可能です。4006Aには周波数特性を変えるパーツ="グリッド"が3個(写真①)と、実機で計測された周波数特性グラフやポーラー・パターンなどが付属。またオプションには、全周波数帯域を無指向性にするノーズ・コーンが用意されています。

▼写真① 4006Aには、周波数特性を切り替えられるグリッドというパーツが3種類付属。DD0251(写真左)は高域が品良く伸びたサウンド、DD0297(写真中央)は輪郭がはっきりとした明りょうな音質、DD0294(写真右)は非常にフラットな音となっている


それでは3本のマイクそれぞれの録り音をチェックしていきます。録音するのは、マイクのクセが出やすいガット・ギターのサウンドです。各マイクはステレオ・ペアで使用し、ギターから70cmほど離した位置にAB方式でセット。サウンド・ホールの正面左側とネックのジョイント部を狙います。マイクプリにはFOCUSRITE ISA115 HDを使い、DIGIDESIGN 192 I/Oに入力します。まずは無指向性の4006Aから試します。このマイクの最大音圧レベルは147dB SPL。平均的なプレイでのピアノは約100dB、ドラムでも130dBほどの音圧レベルなので、ほとんどの楽器で何の不安もなくオンマイク収音できます。さらに、−20dBのアッテネーター・スイッチがXLR端子の中に装備されています(写真②)。ペンの先などを使ってオン/オフを切り替えるこの極小スイッチは、誤作動する心配が無さそうです。しかしその反面、急いでいる場合に目視ができないなど、やや不便なケースもありそうに思いました。

▼写真② 4006Aと4011Aに装備された−20dBのアッテネーター・スイッチは、XLRコネクターの中に仕込まれている。この写真では中心よりやや下に配置されたスイッチは、ペンの先などを使ってオン/オフを切り替える仕様



新設計プリアンプMMP-Aの音質は
クリアながら周波数バランスも抜群


さて4006Aをニュートラルな周波数特性に設定してくれるグリッド、DD0251を装着して録り音をチェックしていきましょう。筆者はこれまでさまざまな種類のマイクでガット・ギターを録ってきましたが、4006Aでの録り音を一言で表すと"久しぶりに聴いた、無駄な飾り付けの無い素直な音色"です。音像も大きく、音量を上げても耳に痛くない。ほかの楽器の音と合わせても埋もれないで聴こえます。それでいて地味というわけでもなく、高域がさらっと伸びていて倍音も奇麗。周波数特性のグラフを見てみると、2kHz付近~20kHzくらいにかけてが1dBほど伸びています。もう少し輪郭が欲しいなと思い、EQで6.7kHz近辺を持ち上げてみましたが、自然な感じです。何よりも良いと思ったのは、弦の振動幅や前後に揺れる感じ、さらには太さも分かるほど、録り音がリアルに聴こえるということです。モデルにもよりますが、ガット・ギターはマイク自体の音質バランスが取れていないと、録音するのに結構苦労する楽器です。録り音全体の音色が良くてもアタックがきつかったり、もしくは高域が鮮明であっても低域がぼけていたりと、EQの搭載されていないマイクプリを使う場合はなかなか納得のいく音にならないことがあります。しかし4006Aで収めたガット・ギターのサウンドは、モノラルで聴いてもステレオで試聴したときと印象が変わらず、周波数のバランスやクリアさも同等のものでした。この透明感あふれる音質は新設計のプリアンプ、MMP-Aが持つクオリティの高さに起因していると思います。実際ここまで録り音がクリアに聴こえると、耳障りな帯域が出てくるものです。しかしB&K時代の4006に感じられた、かなりの高域で聴こえるチリチリとした鳴りもありません。さらにこれだけ入力感度が高いにもかかわらず、等価ノイズ・レベルは15dBと、非常に静か。見事なチューニングだと思います。機会があればDD0251を装着した4006Aでストリングスの録音を試してみたいです。甘くてふくよかな、部屋の響きも分かるサウンドが得られると思います。

やや高域が伸びた音のDD0251
DD0297は明るくDD0294はフラット


次に、グリッドをDD0297に替えてのテストを行います。形状はDD0251と同様の円柱形で、高さは約8mm。DD0251との大きな違いは本体のサイドに入ったスリットの切り方です。DD0251には約1mmと約2mmのスリット2種類が交互に配列されているのに対し、DD0297は1mmほどのスリットのみが並んでいます。グリッドを付け替える前は、"これだけで本当に音質が変わるのかな?"と思っていました。ですが実際に試してみると、まるで別のマイクに。DD0251を装着した状態に比較すると、周波数特性の微妙な変化によってゲインが約6dBくらい下がります。DD0297装着時の音質は輪郭がはっきりしていて明るめ。DD0251を使っていたときに、録り音へかけようとしていたEQが不要になりました。ただ、5kHz~15kHzが5dBほど伸びている特性に変化するので、今度は400Hz以下が足りないように感じました。ですがマイクを最初に定めた位置から10cmほどギターに近づければ、それも解決できました。また、マイクを楽器から遠ざけると録り音の高域は減衰するものですが、このグリッドの周波数特性ならそういったハイエンドを補うことができます。なので、ギターから2mくらい離しても、その録り音はクリアというわけです。今度はグリッドを先細のDD0294に変更。このグリッドにも約1mmのスリットのみが配置されています。初めに試したDD0251に比較すると、こちらもゲインが約6dB下がります。音質はDD0251より明るめで、次にテストしたDD0297より落ち着いた感じです。周波数特性のグラフを見ても、15kHzくらいまで見事にフラットです。DD0294を組み合わせると、ギターに近づけても離してもフラットな聴こえ方が変わらず好印象です。オンマイクがメインになる自宅や、狭めのスタジオでの録音には、この組み合わせを基本にすれば良いでしょう。場合によってDD0251やDD0297に付け替えると、作業もスムーズかと思います。

4011Aは最大SPLの高さが特徴
最も明るい音質の小型マイク4015C


一方、単一指向性の4011Aはどのような録り音を聴かせてくれるのでしょうか? ダイアフラムの直径は19mmと、4006Aの16mmより大きめ。最大音圧レベルも4006Aを上回る159dB SPLとなり、どんな楽器が来ても大丈夫という仕様です。−20dBのアッテネーター・スイッチは4006Aと同じ位置に備えられており、ゲインはDD0251装着時の4006Aより約10dB下がります。さて肝心の音質ですが、このマイクにも4006Aと同じ新設計のプリアンプ、MMP-Aが採用されています。4006AとDD0294の組み合わせに近い音質で、クリアでフラットな印象です。音像も4006Aと同様にビッグです。無指向性の4006Aでとらえた音よりは部屋鳴りが減って聴こえるものの、逆にその影響が少なくなるため扱いやすい録り音が得られるかと思います。特にステレオ録音時は楽器までの距離のほか、マイク間の距離も聴き取りやすいので、いろいろなセッティングが試せるでしょう。また高い最大音圧レベルを利用し、何も気にせずギター/ベース・アンプの音を爆音で録ってみたいという気にさせられます。最後にワイド単一指向性の4015Cを見ていきます。ダイアフラムの直径は19mmで最大音圧レベルは152dB SPL。アッテネーターは非搭載です。ゲインはDD0251セット時の4006Aより10dBくらい低くなります。4015C最大の特徴はその形状です。全長が64mmしかないため、とにかくいろいろなセッティングを試しやすい。一方、4015Cのワイド単一指向性とはどういった指向性なのでしょうか? これは無指向性と単一指向性の中間の指向性を持ち、空間の残響と音像の定位を両立しています。そのためか、録り音には4006Aに近い部屋の響きを感じます。音質は4006AとDD0297の組み合わせに近い輪郭の際立った響き。全体の感じは今回試した3本の中では最も明るいものでしたが、決してギラギラした嫌みは無く、9kHzから20kHzの高域が奇麗に伸びている感じです。ただ、4006Aと同じポジション(ギターから70cmくらいの位置)にセッティングした場合、録り音に少し低域が足りない感じがしました。そこで、ギターから30cmくらいの位置にセット。すると、近接効果によって膨らんだ低域と、高域が伸びている周波数特性の相乗効果で輪郭のある太い録り音になりました。4015Cには4006Aや4011Aに採用されたものとは異なる新設計のプリアンプ、MMP-Cが使われております。MMP-Aを通すよりも、録り音には見えやすい高域が伸びている印象です。これはアコースティック・ギター以外に、ドラムのオーバーヘッドや派手めのオケでのピアノでも試してみたいです。DPAのマイクを久しぶりに使ってみて、その音質の素直さをあらためて実感しました。今回は都合上、ガット・ギターのみのチェックになりましたが、かなりオールラウンドなマイクだと思います。また、本シリーズにはRF干渉対策が施されており、携帯電話やネットワーク、蛍光灯などに起因するノイズを軽減してくれます。スタジオはもちろん、ライブ会場でも安心して使えるでしょう。さらに3種類共、価格が200,000円前後と旧モデルより100,000円前後安くなっているということで、かなりのコスト・パフォーマンスだと思いますよ。

サウンド&レコーディング・マガジン 2011年6月号より)

撮影/川村容一

DPA
4006A/4011A/4015C
4006A(写真上段):220,500円 4011A(写真中段):199,500円 4015C(写真下段):178,500円
●4006A▪周波数特性/10Hz〜20kHz▪指向性/無指向▪最大音圧レベル/147dB SPL▪外形寸法/19(φ)×170(H)mm▪重量/163g ●4011A▪周波数特性/40Hz〜20kHz▪指向性/単一指向▪最大音圧レベル/159dB SPL▪外形寸法/19(φ)×170(H)mm▪重量/158g ●4015C▪周波数特性/40Hz〜20kHz▪指向性/ワイド単一指向▪最大音圧レベル/152dB SPL▪外形寸法/19(φ)×64(H)mm▪重量/58g