WAVESAphex Vintage Aural Exciter
WAVESが今回プラグイン化したAPHEX Vintage Aural Exciterは、1970年代中期に発表され、独占的なレンタル・ユニットとしてスタジオで使用されていたようです。そして独特のサウンドをもたらしていました。ジャクソン・ブラウンやリンダ・ロンシュタット、ジェイムス・テイラーといったアーティストのアルバムではなんとこのAural Exciterが"セッション・プレイヤー"のようにクレジットされていたとのこと。このプラグインのAphex Vintage Aural Exciterは、かつて製作されたそんな非常に数少ない真空管ユニットの内の一台をモデリングしたということです。
1980年代アメリカン・サウンドの象徴
中高域の倍音で派手さを足す
残念ながらこのプラグインの元となったモデルは使ったことが無いのですが、自分が最初に使ったエキサイターの記憶はAPHEX II Studio Aural Exciterいう2Uの製品だったことを覚えています。Aural Exciterシリーズは現在も進化し続けていますが、1975年に生まれた当初から1990年代ころまでのAural Exciterというのは中高域の倍音のみをエフェクトする機器だったと記憶しています。自分の中でのAural Exciterのイメージは、1970年代後半〜80年代までの熟成したアメリカン・ロック、ポップスのサウンドそのもの。当時の日本のサウンドと大きく違っていた点とも言える、きらびやかで、アタッキーで、派手なサウンドの代名詞みたいなものでした。Aural Exciterの誕生は、楽器業界にも大きな影響を与えたと考えられます。このエフェクトが使われた楽曲を聴けば分かると思いますが、確実に元の楽器が持つ倍音よりきらびやかだし、サウンドの抜けが良く聴こえるはずです。要するに、そのようなサウンドが好まれていたわけですから、その後は楽器自体がエキサイター的なサウンドに変化していったとも言えるわけです。音楽や楽器の歴史を振り返っても大きな革命をもたらしたAural Exciterはものすごいエフェクトと言えるのです。
アタックの倍音成分だけでなく
真空管の温かさもプラスする
さて操作面を見ていきましょう。はっきり言って、無骨というか、特に難しいことはありません。一番左側のノブは4つのMODE切り替え。BPはバイパスで、プラグイン自体のバイパスではなく実際のハードウェアでのバイパスをシミュレーションしたものになっています。MIX1は原音にエキサイターのエフェクト音を足すモード。一方MIX2は原音は足さずにエフェクトのかかり具合だけで調整していくモードになります。そしてAXはローカットされたエフェクト音のみになるモードで、AX MIXノブは使用できなくなります。そしてメーターの切り替えノブでは、IN OUTAXから選択できます(AXはエフェクト音のレベルになります)。続いてINPUTノブ、AX MIXノブ(前述したようにMIX1とMIX2のときだけ有効になります)、OUTPUTノブが続きます。ANALOGというセクションもありますが、これはとてもユニークな発想で、実機と同じようにハム・ノイズと機器自体の残留ノイズを足すことができ、なおかつハム・ノイズに関しては50Hzと60Hzが選択できるという機能です。実際に使ってみての感想ですが、"なるほどエキサイターだ!、これは!"というのが素直な印象。レコーディング・スタジオでポピュラーなAPHEXExciter Type Ⅲとは別のサウンドです。いわゆるエキサイターはアタック成分を拾い出し、その音の上の倍音を加えていくという感じですが、このVintage Aural Exciterは単純に倍音のひずみ成分を足すだけではなく、真空管ならではのサウンドなのか温かさもあり、高域の成分だけを拾い出しその成分の上も下も倍音が広がっているようなサウンド。なかなか言葉で言い表すのは難しいのですが、エキサイター独特のシャリシャリ感や、うるさい感じが少ないのです。個人的にはボーカルやピアノ、ギター、スネアなどでの使用が好印象でした。トータルにも使ってみると、こちらは悪くはないのですが、楽曲を選ぶ感じがします。いずれにしても生楽器に対し非常に有効なプラグインだと感じました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年6月号より)
WAVES
Aphex Vintage Aural Exciter
Native版:31,500円
▪Windows/Winows XP 32ビット SP2/3、Vista Business 32ビット SP1、Vista Ultimate32ビット SP1、Windows 7 32ビット、INTEL Core 2 Duo 2GHzまたはAMD Athlon 64もしくは互換プロセッサー、2GB以上のメモリー(XPでは1GB以上)、解像度1,024×768(32ビット・カラー)のディスプレイ、RTAS/VSTプラグイン対応のホスト・アプリケーション▪Mac/Mac OS 10.5.8〜10.6.6、INTEL Core Duo 2.3GHz以上のプロセッサー、2GB以上のメモリー、解像度1,024×768のディスプレイ、Audio Units/RTAS/VSTプラグイン対応のホスト・アプリケーション