
DSPパワーと付属プラグインで
5種類のラインナップから選択可能
UAD-2 Satelliteの製品ラインナップを紹介しておくと、まずDSPパワーの違いでDuoとQuadの2種類。これはPCIe版Duo/Quadとそれぞれ同等のパワーだ。ちなみにDuoはSoloの倍、QuadはSoloの4倍のDSPパワーとされる。そしてDuo/Quadそれぞれで50ドルのバウチャー(プラグイン購入権)が付属する標準機と、500ドル分のバウチャーが付属するFlexi、そしてQuadモデルにのみ約50種類のプラグインと100ドルのバウチャーが付属するOmniがあり、都合5種類のラインナップになる。今回のレビューではDuoモデルをAPPLE MacPro+Logic Pro 9上で、FireWire 800で接続して使用した。FireWire 400での接続も選択できるが、バス帯域幅の関係で同時使用できるプラグイン数が制限されやすい。それと、FireWire接続のデータ転送速度の限界などにより、DAWソフトのバッファー・サイズは512サンプル以上が推奨され、それ以下の設定にした場合もUAD-2側は自動的に512サンプルに設定される。録音時のインサートによって大きめのレイテンシーが起こることもあるので、注意が必要だ。
1176LNやLA-2Aの再現など
即戦力となるプラグインが付属
UAD-2プラグインは、UNIVERSAL AUDIOのサイトで購入するのだが、すべてのUAD-2パッケージにAnalog Classicsと銘打たれたプラグイン群がバンドルされている。今回テストしているUAD-2 Satellite Duoにももちろん付属している。それらのプラグインを見ていこう。まずビンテージEQの定番の一つであるPultec EQP-1A(画面①)。他社にも同様の製品があり、筆者もそうした製品を使用する頻度が高いので違いが非常に分かりやすいのだが、正直に言うとUAD-2ではより実機に近く、ブーストした場合のサチュレーションも粒子が非常に細かく、かなり真に迫る。これは処理をする上でオーバー・サンプリングを丁寧に行った場合の音に近く、周波数特性や位相、ひずみが音楽的に変化し狙った音にピン・ポイントに持っていける。何より音決めが早く済む。素晴らしいの一言だ。ちなみに電源ボタンをOFFにしてスルー状態にしても音が変化する。これもかなり魅力的な音だ。
▼画面① パッシブ・タイプのEQを再現したPultec EQP-1A。低域と高域でそれぞれブースト/アッテネートの両方を備えており、その組み合わせで音作りが行える

▼画面② 1176LNは、コンプの名機を自社で忠実に再現したもの。RATIOボタンすべてを押し込んだ"4つ押し"も可能となっている

▼画面③ 滑らかなかかり具合が特徴の真空管オプトコンプを再現したTeletronix LA-2A

▼画面④ 部屋の形状や壁・床などの素材を選択できるリバーブ、RealVerb Pro。部屋の形状や壁・床の素材はスライダーで2種類をブレンドし、より複雑な響きを生み出すことができる

▼画面⑤ チャンネル・ストリップのCS-1。上から5バンドEQ、コンプ、ディレイ、リバーブで、各セクションごとの個別プラグインも用意されている。負荷が低くアナログ的なサウンドが得られる、隠れた人気プラグインだ

強力なオプション・プラグイン群で
好みに合わせてエフェクトを追加
UAD-2の大きな魅力は、オプションで用意されるプラグイン群だ。多くのメーカーから協力を得てハードウェアを再現したものから、UAD-2オリジナルのものまで多くのラインナップがあるが、今回は筆者が気になったものも挙げてみたい。いろいろ試して一番印象に残ったのがNeve33609。マスターにこれが無ければミックスしない!!という人まで居る(笑)伝統のコンプだが、ちょうど実機がスタジオに有ったので比較試聴してみた。この製品の特徴は、ほかでは見られないトラックの一体感を作れる、ある意味魔法のようなかかり方にあるのだが、実機と比較した段階でそのあまりの再現性に脱帽した。もちろんアウトボードは個体差があるのでどの個体にも言えることでは無いが、倍音の付与されるテイストやリリースの戻り方があまりにも似ていて途中どちらがどちらか混乱してしまったほどだ。唯一ローエンドの伸びで実機に軍配が上がったが、それもかなりシビアに聴いた場合の話。ブラインド・テストで"実機だ"と言われたら信じるほどのクオリティである。このプラグインのためだけにでも導入動機になりえそうだ。また、UAD-2オリジナル・プラグインのPrecision Maximizerもかなり印象に残った。音圧を上げるマキシマイザーなのだが、一般的なマキシマイザーにありがちな"飽和するにつれて倍音が痛く耳に刺さってくる感じ"が無く、とにかくファットに変化していく。音圧を上げるというよりもサチュレーションを利用した音作りに近い。さらに、アナログMTRを模したプラグインStuder A800。これはもう音を聴いてくださいとしか言いようがない(笑)。懐かしくて涙が出そうになった。過大入力時の音の変化は、素直に開発スタッフに拍手を贈りたい。とにかくすべてのプラグインに共通して言えることだが、実機の分析とそれを再現するプログラミングを相当きめ細かく行っていて、極端な設定にした場合までかなりの精度で再現されていた。ダイナミクス、ひずみ、それによる高周波が増加する場合の自然さ、音楽的な使いやすさ......どれを取っても、現在のビンテージ・エフェクター・エミュレーションとしては最高峰と言っても、異論を述べる人はほとんど居ないのではないか?というのが結論である。それを考えると、最上位のUAD-2 SatelliteQuad Omniでさえ市場予想価格42万円前後。"こんなに安くていいのか?"と正直考えてしまう。それほどのクオリティであるのは間違い無い。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年6月号より)
▪Mac/Mac OS X 10.6.4以降、INTEL製プロセッサー、UADドライバー5.8.1以降(製品に付属)、FireWire端子(800または400)、 512MB以上のメモリー(1GB以上を強く推奨)、250MB以上のハード・ディスク空き容量、解像度1,024×768以上のモニター、CD-ROMドライブまたはインターネット接続環境、Audio Units/RTAS/VSTのいずかのプラグインが動作するホスト・アプリケーション