「NOVATION UltraNova」製品レビュー:豊富な音源と優れたコントロール性を併せ持つハード・シンセ最新形

NOVATIONUltraNova
NOVATION UltraNovaは、10年前に同社からリリースされた伝説のSupernova IIをさらに進化させた最新型のバーチャル・アナログ/デジタル・シンセだ。ソフト・シンセでは味わえない、フィジカルで感覚的なコントロール性能と音楽的なサウンドを兼ね備えたこだわりのハードウェアが注目されているが、本機は優れたシンセサイズ機能は継承しつつ、今のユーザー・ニーズに応えた新しいコンセプトを持った製品に生まれ変わっている。

デザイン性と機能性を併せ持つ
コンパクトなボディ


まず目を引くのは鮮やかなブルーのボディ。プロダクト・デザインがしっかりとできており、トップ・パネルはルックスと機能性を併せ持っている印象だ。持ち上げてみても案外軽く、可搬性もいい。鍵盤は37鍵アフター・タッチ付きと従来のNOVATION製品と同じで、キー・タッチはやや軽め。両手弾きにはやや鍵盤が少ないかもしれないが、このほどよい大きさはほとんどのユーザーに歓迎されると思う。電源はACアダプターのほかUSBバス・パワーでも使える。ほかにもパッチ・ライブラリーのやり取りなどコンピューターとの連携が充実しており、ここがSupernova IIから最も大きく進化した部分だろう。トップ・パネルには大型のLCDディスプレイが装備されており、その上部にタッチ・センス付きロータリー・エンコーダーが並ぶ。スイッチの多くが自照式となっており、電源を入れると鮮やかに光り輝くので、ライブなどで使ってもステージ映えしそうだ。

本格的な音作りができる音源部と
充実のコントローラー


音源部は非常に多機能でパラメーターも多いが、プリセット音色が非常によくできており、難しいことが苦手な人でもこれだけでかなりのところまでいけそうだ。プリセットは楽器の種類別とジャンル別でカテゴリー分けされ、目的の音を素早く探し出すことができる。ダンス・ミュージック全般に使えそうな音色が豊富にそろっており、特に抽象的な音色はUltraNovaならではのリッチさがあって得意技と言えるが、オルガンやエレピのような定番の音色も搭載している。音源部の基本的な原理はアナログ・シンセと変わらないので理解するのはそう難しくはない。最大20ボイスで、3オシレーター+ノイズ、これに3つのリング・モジュレーターをミックスして2系統のディストーション付きフィルターに送られ、アンプを通って内蔵エフェクターが付加されるという構成だ。オシレーターは従来のアナログ・タイプの波形に加え、先述したエレピなどのデジタル波形、そして32種類のウェーブテーブルが選択できる。ウェーブテーブルとは、類似した音色を持っている波形の集合体を指し、テーブル中の任意の波形を数珠つなぎ状に発音することでフィルターだけでは作れない複雑な音色変化を起こさせるものと説明すればお分かりだろうか? とにかく不思議で面白い音色が多い。フィルターも多彩で特性の異なる14タイプが選べるほか1ボイスあたり2系統あるため、異なるフィルターを通った音色を自在にミックスできる。また、その際のルーティングも数種類から選択可能だ。エンベロープは6つあり、1と2は一般的なADSRタイプ、3〜6はリピート機能などのプラス・アルファが搭載されている。LFOは3基で、波形はかなりの種類から選べるが、アルペジオのような効果が得られる波形も幾つか用意されている。ちなみにSupernovaはマルチティンバーだったが、UltraNovaはシングルで、シーケンサーは内蔵されておらずMIDIクロック同期のできるアルペジエイターが搭載されている。これはDAWを制作のベースにするユーザーが増えた最近のトレンドでもある。モジュレーション機能の充実ぶりもUltraNovaの特徴だ。"モジュレーション・マトリクス"は2つのソースを合体させてオシレーターのピッチやフィルターの開閉などを行う際に使われるが、8つのロータリー・エンコーダーがタッチ・センス付きになっていることを利用してモジュレーションをオン/オフしたり、エンベロープをトリガーできる"ANIMATEコントロール"とも連携している(写真①)。"TWEAKコントロール" はロータリー・エンコーダーに任意のパラメーターを割り当ててコントロールする機能。最後に手を触れたエンコーダーの機能はその右にある大きなTOUCHED/FILTERノブにも自動的に反映されるようになっている。また反映させた機能を固定するLOCKスイッチのほか、フィルターのカットオフに一発で割り当てられるFILTERスイッチも装備されている。

▼写真① トップ・パネル上部に配置された8つのロータリー・エンコーダーはタッチ・センス式となっており、ANIMATEを"TOUCH"に設定するとエンコーダーに触れるだけで指定したパラメーターを操作可能。TOUCH機能は8つまでの同時作業に対応しており、複雑なパフォーマンスを実現する。このエンコーダーは144文字を表示できる大型のLEDディスプレイと連動しており、300あるプリセットの検索時にも大いに役立つ


エフェクト用スロットは5つ用意されており、おのおのに好みのエフェクトを割り当てられるほかスロット内の信号の流れも選択可能。エフェクトの種類はコンプレッサー、3バンドEQ、ディストーション、ディレイ、コーラス、リバーブ、ゲーターから選ぶことができる。"ゲーター"というのは音をリズミックにゲートで切るエフェクトで、テンポをMIDIクロックと同期させることも可能。32ステップのシーケンサーのようなものだ。ゲーターのパターンは専用の編集メニューが用意されており、ディスプレイで確認しながらエディットできる。モードは6つあり、32ステップを16×2に分けてそれぞれをパンニングするなどトリッキーな効果も得られる。エフェクトはいずれもクオリティが高く、これらをうまく使えこなせるかがサウンドのクオリティを大きく左右するだろう。またUltraNova Editorというプラグイン(Windows/Mac対応)が標準で付属(画面①)。これによりUltraNovaはDAW上であたかもプラグイン・インストゥルメントのように動作する。これはあくまでエディター機能のみで本体がオーディオ処理を行っており、使い勝手は非常にいい。プラグイン・ウインドウは本体とは全く別のデザインになっており、5つのメニューを切り替えて操作できるなど視認性は高い。パラメーターはすべてDAWでオートメーションを描くこともできる。プラグインを立ち上げると本体からのローカル・コントロールは自動的にオフになり、本体はMIDIコントローラーとして動作するようになるが、常にコンピューターに接続する環境ではプラグイン上で全部やってしまった方が使いやすいだろう。

▼画面① 付属のエディター・ソフトUltraNova Editor。オシレーターなどの各パラメーターがすべて表示されたインターフェースで視認性良く音色のエディットが可能。このほかに音色管理ソフトも付属する


ボコーダーに加え
オーディオI/O機能も搭載


本機のもうひとつの大きな機能はボコーダーだ(写真②)。ボコーダー・サウンドは、トップ・パネルの専用マイク入力またはリア・パネルのオーディオ入力から入ってきた音を使って内蔵音源を変化させることで生み出される。勘違いしている人も多いが、ボコーダーのピッチは内蔵音源を演奏することで決定されるので、鍵盤を弾かない限りは何を歌っても音が出ない。今回は専用のグースネック・マイクで試したが、明瞭(めいりょう)度の高いサウンドが得られた。サ行の発音もうまく表現できるし、反応もいいと思う。ボコーダーをかける際は複雑に変化する音色を選ぶのも面白いが、むしろシンプルな音色を選んだ方がボコーダーらしい音が得られるようだ。ロボット・ボイスを狙うなら、なおさらシンプルなものがお薦め。設定はプリセットとして保存することもできるほか、VOCODERスイッチを押せばいつでも好きな時にボコーダー・メニューにアクセスできるようになっている。

▼写真② 製品にはボコーダー用のグースネック・マイクも付属。トップ・パネルには専用のVOCODERスイッチも装備し、明瞭(めいりょう)度の高いボコーダー・サウンドが手軽に得られる


た本機は2イン/4アウトのオーディオ・インターフェースとしても動作する。コンピューターに専用ドライバーをインストールしておくだけで、DAWソフトのオーディオ・インターフェースとして本機が指定できるようになり、UltraNovaで出した音をそのままUSB経由で録音することも可能だ。また、コンピューターから出る音に合わせてリアルタイムでシンセを演奏でき、それらをミックスしてメイン・アウトから出力することもできるが、その際のバランスも本体側でコントロール可能。これはライブ会場に持って行く際も機材が少なくて済むのでありがたい。もちろんMIDIの送受信もできるので、オーディオ/MIDIのすべてがUSBケーブル1本で済んでしまう。USBでコンピューターに送られる音は当然デジタルなので、リア・パネルのメイン・アウトからアナログ信号として出力した場合よりも輪郭がクッキリした印象。このあたりはいったんアナログ出しした音の方が好みという人もいるかもしれないが、ノイズが皆無なのはデジタルのアドバンテージと言える。ちなみに本機は最高24ビット/48kHzに対応している。もう1つ重要なのが、評価の高い同社のAutoMapを利用したDAWソフトのコントロール機能。面倒なMIDIアサインの作業を行うことなく、任意のDAWソフトやプラグインのパラメーターを本機のロータリー・エンコーダーなどの操作子に割り当ててコントロールすることができるので、プライベート・スタジオのマスター・キーボードとしても活躍するだろう。最後になったが、出音は立体感のあるリッチな音質で、ベース音なども伸びがあり非常に品がいい。ハイファイなダンス・ミュージックを目指すなら即戦力になってくれるだろう。このサウンドと機能では考えられない驚異的なコスト・パフォーマンスにも注目してほしい製品だ。

▼リア・パネル。左より電源アダプター端子、電源スイッチ、USB端子、MIDI THRU/OUT/IN端子、サステイン・ペダル用端子(フォーン)、エクスプレッション・ペダル用端子、S/P DIF出力(コアキシャル)、ヘッドフォン端子(フォーン)、AUX出力L/R(TRSフォーン)、マスター出力L/R(TRSフォーン)、アナログ入力 1/2(TRSフォーン)




サウンド&レコーディング・マガジン 2011年6月号より)
NOVATION
UltraNova
オープン・プライス(市場予想価格/73,500円前後)
▪同時発音数/最大18ノート▪シンセ・エンジン/モノティンバー、オシレーター×3、ノイズ・ジェネレーター×1、リング・モジュレーター×3▪搭載波形/Square、Sine、Tri、Sawtooth、Pulse、Pulse:Sawコンビネーション×9、デジタル波形×21、ウェーブテーブル×36▪ソース/エンベロープ・ジェネレーター×6、LFO×3、アフタータッチ、ベロシティ、キー・スケール(トラック)、モジュレーション・ホイール、エクスプレッション・ペダル▪外形寸法/725(W)×152(H)×374(D)mm▪重量/3.6kg