FireWireに加えUSB2.0にも対応した素直な音質のオーディオI/O

MOTU828MK3 Hybrid
FireWire対応のオーディオI/Oとして世界的なヒットを遂げたMOTU 828シリーズ。その3代目に当たる828MK3がリリースされてから早3年、USB2.0ポートを追加したニュー・モデル、828MK3 Hybridが発表された。本稿では前モデルと比較しつつ、本機のサウンド/操作性を中心にレビューしていこうと思う。

TRIMツマミに3つの機能を集約
FireWire端子には4ピン型を採用


まずは、本機の前身である828MK3のスペックをおさらいしよう。828MK3はマイク/楽器入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)×2やライン入力(TRSフォーン)×8、メイン出力L/R(XLR)×1系統、ライン出力(TRSフォーン)×8、そしてヘッドフォン端子(フォーン)といった入出力を備えるアナログ10イン/12アウトのFireWireオーディオI/Oだ。このほか、最大8chを扱えるADAT入出力(オプティカル)2系統やS/P DIF入出力(コアキシャル)を1系統装備するなど、その入出力数は合計で28イン/30アウトにものぼる。Wind
ows/Macの両OSはもちろん、CoreAudio/ASIO/WDMといったドライバーやDAWなどのホスト・アプリケーションをサポートし、24ビット/192kHzでの録音に対応している。さらに、3種類の高品位なDSPエフェクトを内蔵。5つのリバーブ・アルゴリズムを搭載し、3種類の帯域に対するエフェクトを個別に操作できるリバーブ"Classic Reverb"や、オーソドックスなコンプに加え名機TELETRONIX LA-2Aのモデリング・コンプを含む"Vintage compression"、そしてイギリス製アナログ卓のEQをイメージした7バンドEQ"Vintage EQ"が用意される。本体に内蔵されるミキサーと付属のミックス用ソフトCueMix FXを使用することで、これらのエフェクトが全入出力にインサート可能だ。前述の通り、本機はこうした828MK3にUSB端子が追加されたモデルとなる。時代の流れからFireWireをサポートしないハードも増えてきた中、USB2.0に対応したのは実に助かるバージョン・アップだ。さらに本機では、フロント・パネルの操作子も整理されている。828MK3には、各マイク/楽器入力に対するファンタム電源/PADのオン/オフを切り替えられるスイッチが個別に用意されていた。しかし本機では、フロント・パネルのTRIMツマミにこれらの機能を集約(写真①)。201105_828MK3-Hybrid_01.jpg

▲写真① マイク/楽器入力の入力ゲインを調整するTRIMツマミに、ファンタム電源/PADのオン/オフ機能が集約された。ツマミを押してパッドを、長押しすることでファンタム電源のオン/オフを切り替え可能


このツマミを回すことで入力ゲインを調整できるほか、ツマミを押してPADを、長押しすることでファンタム電源をオンできる。さらにファンタム電源/パッドの動作を示すLEDが搭載され、視認性が向上。ケーブルの抜き差しが多いフロント・パネルだが、少し触れてしまった拍子に設定が変化する......といった誤操作も避けられそうだ。一方リア・パネルでは、FireWire端子の形状が変更された。828MK3は6ピン・タイプを装備していたが、本機では4ピン型を採用。もちろんFireWire 400/800いずれにも対応している。端子は2基備えられているため、パソコン以外のFireWire機器とも接続が可能だ。そのほかの操作性についても、心地良いクリック感のツマミや見やすいディスプレイなど、828MK3同様に良好。

中域に余裕の感じられる歌の録り音
ギターの出力音で聴ける絶妙な中高域


さて、サウンド面のチェックに入ろう。828MK3と同様、本機もゆったりとしたレンジで録音できる上、録り音にはさらなるパワーが感じられる。ライン入力からのサウンドは、クセの無い素直な印象。"さすがはMOTU"と言うべき安定感がうかがえる。一方マイク/楽器入力からは、レンジが広くも音の芯を外さないサウンドが得られる。いわば、その音の魅力的な音域が生きた録り音という感触だ。ボーカル録音でも高域にピーク感が少なく、中域には余裕が感じられる。828MK3と同じく素直な音質に録れる分、録音に使うマイクの特性を忠実に出せそうだ。音作りに自分の好みを反映させやすいだろう。またマイク/楽器入力には、過大入力に対しひずみを抑えるリミッター"V-Limit"に加え、クリップ・ノイズを除去する機能"Soft Clip"が搭載されている。いずれも狙ったノイズをマイルドに抑制することができ、処理後の音もピーキーになり過ぎることはない。続いてリア・パネルに配置されたアナログ出力の音質をチェックしてみると、"高域の伸びを感じさせる開放的なサウンド"といった第一印象を受けた。キックとハイハット、スネアのみのリズム・セクションを出力してみると、音量を稼がずとも芯のある音質で存在感は抜群。ピーキーにしてしまいがちなドラム・パートを品良く響かせることができた。またこれにベースを組み合わせた場合は、ベース・ラインをうまく前に出せる。土台のしっかりしたリズム隊が構築できそうだ。一方、上モノがどんな音質で出力されるかも幾つか確認してみよう。まずエレキギターのカッティング・リフは従来の828シリーズと同様に、本機との相性も良好。耳に痛いわけでもなく、かと言ってこもった響きでもない絶妙な中高域が特徴だ。これに対し、アコギの音はふくよかで原音に忠実なレンジを響かせる。本機特有の懐が深い音質を堪能できるだろう。個人的に、828シリーズはギターとの相性が実に良い製品だと感じている。ピアノ系の音色も、"ワイド・レンジに録音できる"という本機の特性にマッチ。生ピアノはもちろん、あえて音域を狭めに作り込んだピアノ・サウンドも非常に味わい深く鳴ってくれる。また、シンセの音もテスト。すると、ノコギリ波がほかのオーディオI/Oには無い上品な響きで出力された。シンセで作る音の幅が広がる一方で、サウンド・メイクのセンスや技量が試されるようで楽しい。全体的に中域に余裕があり、比較的素直なサウンドが得られる本機。生楽器を丁寧にマイキングして録音すれば、非常にハイクオリティな録音や再生が実現できるだろう。

伸びやかに響く3バンド・リバーブのほか
マイルドにかかるコンプなどを内蔵


828MK3と同じく、本機も"Classic Reverb""Vintage compression""Vintage EQ"とい
った3つのDSPエフェクトを搭載。内蔵ミキサーと組み合わせることで、クセの少ない素直なエフェクトを入出力にかけることができる。まずはClassic Reverbを使ってみよう。前述の通り、このリバーブには5種類のルーム・タイプが用意されている。さらに低域~高域まで3つの帯域に対して、リバーブ・タイムやプリディレイ、エフェクト量などを個別に設定可能だ。そして、そのサウンドは非常にストレートで伸びやかなものとなっている。品のある残響音がミックスのバランスにも貢献してくれそうだ。一方、コンプレッション方式をRMS/ピークから選べる"Vintage compression"は、スレッショルドやレシオ、アタック、リリース、そして入力ゲインといったオーソドックスなパラメーターを備えるコンプだ。その効果はビビッドなかかり方というより、マイルドに音圧を上げるタイプ。かけ録りの場合、マイクとの相性で多少エフェクトの音質が変わるものの、おおむね臨機応変なコンプといったところだ。使い込むことで好みのマイクと相性が良い数値をつかめれば、かけ録りをデフォルトにしても良いだろう。なお出力へかけた場合も、基本的には同様のサウンドを得ることができた。最後に"Vintage EQ"をチェック。MOTUのEQが持つ味わいは兼ねてからのお気に入りだったが、このEQも期待にたがわないテイストを内包している。本機で処理される音のレンジが基本的に豊かなこともあり、ほんの少しEQを触るだけでも多彩な色付けが可能だ。もちろん、グッとエキサイティングに加工することもできる。

ツマミ4つで全操作可能なエフェクトは
付属ソフトでより視覚的に制御できる


これら3種類のエフェクトは、フロント・パネルのCueMix FX MIXERエリアに位置する4つのツマミだけでコントロール可能だ(写真②)。201105_828MK3-Hybrid_02.jpg

▲写真② トップ・パネル中央のツマミで、内蔵ミキサー/エフェクトを扱える。ディスプレイにはツマミの名称に対応した4つの欄があり、各ツマミでの編集内容が表示される。写真はマイク入力のステレオ・ペアにハイパス・フィルターをかけようと、周波数を500Hzに設定した場面。CHANNELツマミでは、ミックス・バス/入力/出力/リバーブなど、編集したいセクションを選べる。PAGEツマミでエフェクトの種類を指定し、PARAMツマミを使いパラメーターを選択。VALUEツマミでパラメーターを調整する。リバーブが使えるのはサンプリング周波数48kHz以下の場合のみだ


同セクション右側のディスプレイには、各ツマミの操作内容が映し出される。まずはPARAMツマミを"CUEMIX"というセクション名が表示されるまで押し続ける。これは内蔵ミキサーを操作するためのセクションだ。このツマミを押すと、サンプリング周波数の切り替えなどオーディオの設定が行える"AUDIO"と、FireWire/USBのモード選択など本機全体の設定が可能な"828mk3 SETUP"といったセクションに移動できる。さてディスプレイに"CUEMIX"が表示されると、すぐに内蔵ミキサーの設定画面が現れる。C
HANNELツマミを押し、入力/出力/ミックス・バス(全8ch)/リバーブ・プロセッサーのうち、どの内容をエディットするかを選択。ここでは入力を選んでみよう。ディスプレイのCHANNEL欄には"I(=INPUT)"と表示され、CHANNELツマミを回すとマイク入力やライン入力などエディットしたいインプットをセレクトできる。続いてPAGEツマミを押し、指定した入力へかけるEQ/ダイナミクス/リバーブといったエフェクトを選択。試しにEQをセレクトしてみる。なおEQとダイナミクスについては、PAGEツマミを回してエフェクトのバリエーションを選べる。例えばEQには、2バンド・シェルビングEQやフィルター各種が用意されている。一例として、ハイパス・フィルターの"LF"を選択。PARAMツマミを回していくと、周波数(20Hz〜20kHz)/ゲイン(±20dB)/Q幅といったパラメーターを選べる。そして最後にVALUEツマミを回して、パラメーターそれぞれの数値を設定する形だ。828MK3にも同梱されていたミックス用ソフトCueMix FXを使うと、より統合的かつ視覚的にこれらのエフェクトを制御できる(画面①)。201105_828MK3-Hybrid_03.jpg▲画面① バンドルされるミックス用ソフトのCueMix FXを使うと、本機に内蔵されたエフ
ェクトをより視覚的に操作できる。このソフトでは入力/ミックス・バス/出力ごとに、計3つの編集画面が用意されており、タブで切り替えてそれぞれを使用可能。画面は、入力にかかるパンやフェーダー、ミュート/ソロ・スイッチなどを備えたミックス・バスの編集画面
どれも非常に使い道の広いエフェクトなので、入力のプリ/ポストを組み合わせて独自の味わいを持ったサウンドを作るのは非常に楽しい。音質/操作性の両面で、高い安定感を誇る本機。828MK3よりもフロント・パネルのレイアウトが明解になり、視認性も高まった。ツマミのクリック感も良く、とても1Uラックの機材とは思えない使い心地だ。オーディオ編集に特化したAudioDeskやCueMix FXなど付属ソフトの質も高いため、幅広い層にリーチするだろう。打ち込みとアコースティック楽器を交えた録音を考えている初心者の方には、特にお薦めしたい。またマイキングの楽しさが味わえる製品でもあるので、中級者以上の方なら音作りを追求していけるだろう。201105_828MK3-Hybrid_04.jpg▲リア・パネルには左側から電源コネクター(100〜240V)、ワード・クロック入出力(BNC)、S/P DIF入出力(コアキシャル)、MIDI入出力、ADAT/S/P DIF入出力(オプティカル)×2、FireWireポート、USB2.0ポート、フット・スイッチ入力、ライン入出力(TRSフォーン)×8系統、SMPTE入出力(フォーン)、センド入力(TRSフォーン)×2、メイン出力L/R(XLR)を配置する撮影/川村容一
MOTU
828MK3 Hybrid
オープン・プライス (市場予想価格/100,000円前後)
▪外形寸法/484(W)×45(H)×185(D)mm▪重量/2kg

●Windows/Windows XP/Vista(いずれも32/64ビットに対応)、INTEL Pentium/Celeron/または互換プロセッサー/900MHz以上、256MB以上のRAM(512MB以上を推奨)、FireWire(IEEE 1394B)ポート、USB 2.0ポート●Mac/Mac OS X 10.4.11以降(Intel Mac/M ac OS X 10.6対応)、PowerPC G4 700MHz以上のCPU(96kHzなど高いサンプリング・レートの場合、PowerPC G4 1.2GHzのCPUを強く推奨)、256MB以上のRAM(512MB以上を推奨)、FireWire(IEEE 1394B)ポート、USB 2.0ポート