ざっくりした手早い操作感でライブの現場にも対応するプラグインEQ

SOFTUBETonelux Tilt
今回レビューするSOFTUBE Tonelux Tiltは、TONELUXのモジュール型マイク・プリアンプMP1Aに搭載されていたトーン・コントロール部分=Tiltコントロールをモデリングし、プラグイン化したものです。同社の製品は日本ではまだまだレアな存在ですが、モデリングには定評のあるSOFTUBEによっていち早くプラグイン化されました。筆者も実機のMP1Aのサウンドは未聴ですが、かつてのEQに無かった"Tilt" "Loud"コントロールには興味津々です。本プラグインはRTAS/VST/Audio Unitsに対応するほかTDM版もあり。TONELUXの開発者であるポール・ウオルフ氏と共同開発されており、実機に無かったコントロールや機能が追加されています。モデリング・プラグインでありながら多くの追加機能が盛り込まれた本製品には、ライブ会場での使用に特化した"Tilt Live"というバージョンも付属してきます。そのサウンドとともに、実際の現場でどのように活用できるのかをチェックしていきたいと思います。

ユニークなTilt/Loudカーブで
低域と高域を同時にコントロール


TONELUXは比較的新しいコンソール・メーカー。モジュールをフレキシブルに組み合わせることができるコンパクトなコンソールで、本国アメリカでは人気を博しているようです。先述のポール・ウオルフ氏は長年APIの社長兼エンジニアを務めていた人物で、そのサウンドはAPIゆずりのブライトさがありつつ粗さは控えめ、滑らかな中低域と温かみのある低域といったサウンド・キャラクターを持っています。そのキャラクターはしっかりとモデリングされているらしく、MP1Aに搭載されていたアウトプット・トランスのサウンド・カラーも反映されているようです。本機の操作子は非常にシンプルで、Tiltコントロール部、ローパス/ハイパス・フィルター部(6dB&12dB/Oct切り替え)、そして出力ゲインの3部構成となっています。この操作子でお分かりのように、細かく設定を詰めていくタイプのEQではなく、良い意味でザックリしており、簡単に素早く設定できます。まずはTiltコントロール部分。Tilt/Loudの2つのEQカーブが搭載されており、Tiltカーブは高域もしくは低域方向に文字通り"傾いた" カーブを描くことになります。高域がブーストされる場合は低域がカットされ、低域がブーストされる場合は高域がカットされるわけです。一方のLoudは高域と低域同時にカットもしくはブーストを行います。これは文章で説明する方が難しくなってしまいますね。とにかく触れば一聴瞭然(りょうぜん)です。ゲインはそれぞれ±6dBとなっています。それぞれシェルビングでのブーストですので、ソースによっては不要な帯域まで増幅されてしまう場合もありますが、後段のフィルター・セクションで調整可能です。出力段ではゲインを調整しますが、Tilt Liveでは"Boost Ceiling"という機能が搭載されており、ハウリング防止のためブースト値の天井を設定することができます。ノブが左振り切りの状態では、いかなる設定にしても音量は上がりません。ただEQは同じように効いており、アウトが下がっているようです。右振り切りで最大6dBのブーストということになります。この機能はライブ時のみならず、レコーディングでも状況によって有効に使えると思います。

スピーディな操作感で
マルチのドラム素材の処理などに最適


次にミックス・ダウンを想定してテストしてみました。ソースはドラム、ベース、ピアノ、エレキギターのバンド編成に打ち込みのシーケンスというマルチトラックです。まずはベースにインサート。少し硬めに感じたので、Tiltのハイ下がりのカーブでEQしていきます。最大+6dBなのでフルテンでもそれほど過激なことにはなりません。というかフルテン以外の設定はあまりピンときませんでした。1つのノブでカットとブーストが行えるので作業は手早いです。クロスオーバー・ポイントは変更不可ですがある意味思い切りがよく、さっといじってみていい感じにこなければ、別のEQを使った方がいいでしょう。それぐらい特化した操作性のEQと言えます。続いてキックにインサート。Loudカーブでブーストしますが、やはりフルテンが良い感じです。Loudカーブでは低域も高域も同じように持ち上がっているはずですが、どうしても高域の方が耳についてしまうため、ローパス・フィルターで調整すると収まりの良いところが見つかりました。今回はRTAS版をAVID Pro Tools 8上でテストしましたが、レイテンシーは少なく負荷も軽いようです。位相反転もできるので、コンソールのライン・アンプ/フィルター・セクションの感覚で全チャンネルにインサートして使うのも有効。特にマルチマイクで録った生ドラムの初段の処理には最適でしょう。オーバーヘッド、スネア、ハイハットなどのトラックには非常に効果的で、スピード感やエッジを演出したい場合にも短時間で効果的なサウンド・メイクが行えるでしょう。ただ、ゲインが±6dBでは足りないシチュエーションも多々ありました。さりげない処理をしたい場合は問題ないですが、もう少しゲイン幅があっても良かったのではないかと思います。また、モデリングされたトランスの質感は非常に良い感じなのですが、これもコントロールできるとより完成度が上がったのでは。現状だとやや物足りない気がしてしまいます。ライブでの使用も考慮してプロセッシングを軽くしていると思うのですが、もう少しサウンドに個性を持たせてほしいというのが正直なところです。斬新な操作性で個性を放つTonelux Tilt。今回Tilt Liveのライブ現場でのテストはできませんでしたが、スピードが求められる現場においてそのシンプルな操作性は威力を発揮することでしょう。完全な実機のモデリングではないだけに、今後のアップデートにも期待したいと思います。

サウンド&レコーディング・マガジン 2011年4月号より)
SOFTUBE
Tonelux Tilt
ネイティブ版:10,290円 TDM/ネイティブ版 :17,640円
▪Windows/Windows XP以上、INTEL Pentium3以上のCPU、512MB以上のRAM、iLok用USBポート▪Mac/Mac OS X 10.3.9以上、PowerPC G4800MHz以上のCPU、64MB以上のRAM空き領域、VST 2.0準拠ホスト・アプリケーション、VST2.0またはAudio Units準拠のホスト・アプリケーション