嫌なピークも無くレンジも広い
付属EQスイッチでスッキリした音質に
バウンダリー・モデルのマイクでバス・ドラムを録る場合は、バス・ドラムの中にマイクを直接入れてセットしてしまうことが多いのですが、今回は本機をバス・ドラムの中には入れずに、約1cmほど離した場所に床に直置きでセットして使用しました。今回のレコーディングでは、バス・ドラム収音のために本機のほかにダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクを1本ずつ使用していたので、それらと位相を合わせるためです。早速録音したサウンドを聴いてみるととてもナチュラルで、嫌なピークも無く、レンジも広い印象。正直な話、期待以上のサウンドを得ることができました。続いて本体裏に付いているEQスイッチ(400Hz周辺をカット)を入れてみることに。このスイッチは、ヒビノインターサウンドのWebサイトでは"高域の鋭さや低域の力強さを高める"と掲載されています。実際に入れてみると、ドラム全体を鳴らしたときに、本機で収音したキックのサウンドがよりタイトに聴こえます。この日のレコーディングには、EQスイッチを入れたこちらのテイクを採用。低域の量感、質感もばっちりで、100Hz~300Hz辺りがすっきり聴こえました。ここまででも、本機への印象はとても良いもの。またドラムは数本のマイクを使ったマルチマイクで録音することがほとんど。今回も例外無くマルチマイクによる録音だったのですが、本機はほかのマイクとの混ざりも良く、特にバス・ドラムのアタック感が個人的には好み。周波数特性は20Hz~20kHzと広く、中域がすっきりしていて高域に嫌みが無いので、良い意味でオールマイティに使用できるマイクです。先述の通り今回はバス・ドラムの外に本機をセットしたため、キック以外の音が混ざる"かぶり"は多いです。指向性はハーフ・カーディオイドなので、マイクより前の音をよく拾ってくれます。実はこれも狙いのひとつで、全体で鳴らしたときに、かぶりで入ったスネアやタムの音がとてもいい響きを生んでくれました。レンジ感と指向性のマッチングもいい感じです。
アコギのジャキジャキ感がかっこいい
外部EQ不要のサウンドで録音可能
ベーシック・トラックの録音後は、アコースティック・ギターのオーバー・ダビングにも使ってみました。ここでは本体のEQスイッチはオフです。サウンド・ホールから約2mほど離した床へ本機を置き、オフマイクとして使用。コントロール・ルームへ戻り、その音を聴いて感動。とてもレンジが広い! アコギのジャキジャキした感じが最高に良いです。特に10kHzから上のピークが上品で、その後高域に、外部のアウトボードなどでEQをする必要はありませんでした(今後の定番になる予感すら感じます)。またアコギには、オンマイクに同社のSM57も使用しましたが、この相性も良く、非常にかっこよく録音することができました。バウンダリー・マイクとしても素晴らしいですが、考え方を少し変えて普通のコンデンサー・マイクとして使用するのもいいのではないかと思います。今回は試していませんが、アコギ以外でも、ベースやパーカッション、エレキギター、コーラスなども合うはずです。今回使用して一番気に入った点は、レンジ感です。そして高域の上品さ。個人的に高域がバチバチと痛いものは好きではないのですが、外部のEQを使用しなくても自分の好みの音で収音できたことがうれしいです。今回録音したバス・ドラムやアコギは1kHz~10kHzくらいにピークの成分が多いのですが、外部のEQを使わず、マイキングだけでピークを回避できることは、レコーディングのにおいてメリットだと思います。そして中域の質感も厚過ぎないところが好みでした。いつもバス・ドラムは約300Hz~4kHz辺りをEQでカットすることが多いのですが、高域と同じく、外部のEQで音を補正する必要がありませんでした。中域が厚過ぎると、大音量で聴いた場合やヘッドフォンで聴いた場合に、ペタペタと張り付いて耳に痛かったりするのですが、そういった嫌みもありません。低域に関しても、ほかのマイクと混ぜた場合に量感を失うことも無く迫力のある低域を出せたと思います。Webサイトでバス・ドラムの収録を推奨するだけあり、"さすが"の一言ですね。今回試してみて、Beta 91Aは、生楽器全般にとても威力を発揮するマイクだと感じました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年4月号より)