ウェーブテーブル方式の名機を現代的に再現したプラグイン・シンセ

WALDORFPPG Wave 3.V
2000年前後に往年の名シンセたちが続々とプラグインとして復活する中、1980年代を代表するウェーブテーブル・シンセPPG WaveもWALDORFの手でプラグイン"PPG Wave 2.V"として発売されました。それから10年、WALDORFの劇的な復活やプラグイン・バンドルThe Waldorf Editionのリリースなどを経て、ついにPPGWave 2.Vは3.Vとしてメジャー・バージョン・アップを果たしたのです。

パネル・サイズの大型化により
ユーザビリティが大きく向上


このプラグインはVST/Audio Unitsに対応。元となった名機Wave 2.2/2.3が採用したウェーブテーブル方式は、それまでのアナログ・シンセとは違い、オシレーター部にデジタル波形を持ち、それらを発音/変調することで音色を構成していました。DAコンバーターは8ビット(2.2)/12ビット(2.3)、後段のフィルターなどはアナログ回路でしたので、現代のデジタル・シンセと比べても味わい深いサウンドが聴けます。2000年発売のPPG Wave 2.Vはオリジナルのウェーブテーブルや特徴的なフィルターを見事に再現しており、個人的に現在も使い続けているプラグイン・シンセの1つなのですが、今回のPPG Wave 3.Vはさらに大幅な強化がなされています。パッと見て大きく変わった点は、パネル・サイズが大きくなったこと。立ち上げた段階では何も表示されていない黒い部分(ハードウェアにも大きく黒い天板がありました)にパッチ・ブラウザーや各種波形などが表示され、グラフィカルにエディットができるようになりました。"GRAPH"スイッチを押せば、LFOやオシレーター、エンベロープなど一部の機能が表示され、そのままグラフィカルにエディットできるので、画面下部のノブを操作する必要もありません。もちろんエフェクトやパラアウトの設定もここで簡単に可能。音色エディット中の画面を閉じることなく設定を変更できます。このように、作業効率は3.Vになって大きく向上しています。

1980年代のヨーロッパを感じさせる
暗めの叙情的なサウンド


それでは各セクションを見ていきましょう。まずは肝心のオシレーター。これは"オリジナルWave 2.2/2.3両バージョンを完全に再現"というコピーに恥じない音色ですが、すさまじいのはWaveterm Bのサンプル・ライブラリーまで完全に再現していること。Waveterm BはWaveに追加することでサンプラー機能を実現した5.25インチのフロッピー・ディスクを使用する外部ターミナル。当時セットでン百万円したようで、筆者も現物は見たことがありません。本機にはピアノ/エレピなどのライブラリーがかなりの数付属しており、サウンドは初期サンプラー的な独特なザラつき感のあるものですが、ほかとはひと味違う質感でとても面白いです。これはぜひ試してみてほしい!オシレーターの後段にあるフィルターはひずみ特性をトランジスター/真空管から選択可能。少し閉じ気味にして"Drive"をオンにするとひずみがうっすらと乗って、オケ中での聴こえを微調整できます。また、オリジナルには無かった12dB/24dBスイッチも装備されており、よりエッジィな音色作りも可能です。サウンド的には、総じて1980年代ヨーロッパ的などこか暗い叙情的な音色が得意で、とてもキャラクターの強いシンセだと思います。WALDORFの製品に共通して言えることかもしれませんが、既に諸兄がお持ちの多数のプラグイン・シンセの中に投入しても確実に居場所を確保するオリジナリティがあります。ちなみに今回のアップデートはオリジナルのハードウェアを再現しているのはもちろん、前バージョン2.Vの音色も引き継いでおり、"バージョン・アップで音が変わってしまうかも......"と思っていらっしゃる2.Vユーザーの方も安心して使えるでしょう。また今回はオリジナルの開発者であるウルフガング・パーム氏が開発に関わっているようで、本人が制作したプリセットも100種類以上搭載。1980年代のシンセ・スターたちが奏でたようなザラつきのあるきらびやかな音が多数収録されています。ちなみに"PPG"とはパーム氏の名前を冠した"Palm Products GmbH"の略だったりします。パーム氏制作のもの以外にも大量のプリセットが付属していますので、"ウェーブテーブル・シンセでゼロから音色を作り上げるのは不安"という方も、プリセットから出発して音を触っていけばおのずと欲しい音色が見つかると思います。個人的にこのバージョンを触るまで2.Vで満足していたのですが、一度3.Vを試してしまうと音色やインターフェースなどが格段の進化を遂げていて、もう前バージョンには戻れないかもしれません......。パッケージ付属のマニュアルを読むと、そこここに"Original PPG"という言葉が出てきます。オリジナルのWaveは2.2/2.3でしたから、今回の3.Vという型番は、"オリジナル・バージョンを超えた"という開発側の自負の表れなのかもしれませんね。ちなみに、Ver. 1.2のソフトウェア・アップデートが既にリリースされています。ソフト自体の安定性はもう少し向上してほしいかなと思いますので、購入された方はアップデートをこまめにチェックされるのがよろしいかと思います。

サウンド&レコーディング・マガジン 2011年4月号より)
WALDORF
PPG Wave 3.V
21,000円
▪Windows/Windows XP/Vista以上、INTELPentium 3 1GHzまたはAMD Athlon 800MHz以上のCPU、64MB以上のRAM空き領域、VST2.0準拠ホスト・アプリケーション▪Mac/Mac OS X 10.3.9以上、PowerPC G4800MHz以上のCPU、64MB以上のRAM空き領域、VST 2.0準拠ホスト・アプリケーション、VST2.0またはAudio Units準拠のホスト・アプリケーション