高い透過性と広帯域における忠実な再現性を兼ね備えたマイクプリ

BENCHMARKMPA1
BENCHMARKと言えば、古くからコンシューマーでも手の届く価格で単体のDAコンバーターを発売していた老舗メーカーです。DAC1というDAコンバーター/ヘッドフォン・アンプは同社の代表的機種。これまではハイエンド・オーディオ・メーカーという印象でしたが、近年はプロ・オーディオ製品も多数ラインナップしているようです。今回レビューするのは同社の2chマイクプリMPA1。AD/DAで名をはせた同社が送り出す純粋なアナログ・アウトボードはどのような個性を持っているのでしょうか。

プロ機ならではの頑丈な作り
把握しやすいゲイン・コントロール


MPA1はハーフラック・サイズの本体に2chのマイクプリと、ヘッドフォン・アンプを搭載。各所の作りは非常にソリッドな印象で、本体ケースやフロント・パネルは頑丈にできており、ゲイン・ノブや各種スイッチはカッチリ動作します。タフさと確実さが求められるプロ機において非常に重要な部分です。ゲイン・ノブの隣に並ぶトグル・スイッチは左からファンタム電源のオン/オフ、40Hzのハイパス・フィルター、位相反転スイッチです。ファンタム電源のスイッチはノブが短くなっており、意図せずオン/オフしてしまう事故を防ぐ工夫がされています。ファンタム電源を供給したままケーブルを抜き差ししてしまうと、回路に瞬間的な過電圧が流れてしまうことがありますが、MPA1は万一、過電圧が起こった場合は瞬間的に保護回路に切り替わり後段の機器やマイクを保護します。とは言え、ファンタム電源はオフにして、数秒待ってケーブルの抜き差しはしてください。さて本機の特徴的な部分の一つ、ゲイン・コントロールです。ノブは2dB刻みのステッピングですが、MPA1のゲイン幅は0〜74dBという幅広いものです。通常は一つのボリュームでコントロールするのは難しいですが、本機のノブはロータリー・ノブのようにリレー制御の無限回転式になっています。ノブの左側に4つのゲイン・ステージをインジケーターで表示し37のゲイン・ポジションを一つのノブで実現しています。文章だと小難しいですが、触れば一目瞭然(りょうぜん)です。またL/Rチャンネルのゲイン差は±0.03dB以内の精度を誇ります。ステレオ・ペアのマイクでの収録に最適でしょう。ヘッドフォン・アンプ部のボリュームも41ステップのクリック式となっています。しかしなぜマイクプリにヘッドフォン・アンプが付いているのか不思議に思っている方も多いと思います。後ほどその有用性を検証していきましょう。

全帯域がワイド・レンジに聴こえる
ヘッドフォン・アンプも秀逸


今回比較対象にはMILLENNIA HD-3V、NEVE 1073(ビンテージ)などを用意しました。まずはアコギでチェック。マイクはAKG C414 XLⅡ(カーディオイド)。第一印象はクリアでありながら力強く、余すところ無くマイクの信号を増幅している感じです。特に高域の伸びは特徴的で、強調されている感じではないのですが倍音が非常に奇麗に出ており、全帯域的にワイド・レンジに聴こえます。さまざまなゲイン値で聴き比べましたが、どの設定でも大きく音色が変化することはありません。ゲイン・ノブは2dB刻みですので、レコーダーへ適切なレベルで録音できます。本機は出力メーターを装備していますが、これが非常に便利でした。4ステップのインジケーターで細かくはないのですが必要十分。DAWのメーターばかりを気にしなくても済みますし、後段にコンプを挟んでいる場合マイクプリの出力が適正であるかも一目で分かります。ハイパスは40Hzに固定ですが、これは振動やエアコンのノイズをカットする用途に特化した結果でしょう。続いてステレオ・マイキングでピアノを録音してみます。これが予想通り素晴らしい結果でした。マイクもペア・マッチングされているということも影響していますが、非常に奇麗なステレオ・イメージです。左右の広がり、前後感もしっかり表現してくれます。音色も非常にピュアでワイド・レンジ。ディープなローエンドから超高域の空気感までしっかり出してきます。比較のマイクプリと比べると、音色の個性はそれぞれありますが本機の音像の大きさとステレオ・イメージの再現力はずば抜けています。ここでちょっとお試しで、MPA1をブースに移動し、リモート・マイクプリ的に使ってみます。音源の近くでヘッドフォンを使ってモニタリングしながらマイキングを調整してみたかったのです。BENCHMARKはヘッドフォン・アンプにも定評があり、高級ヘッドフォンのドライブ用としてマニアの間でも人気があるようですが、本機のヘッドフォン・アンプも非常に優秀です。ここでも出力メーターが活躍します。ピアノを少しオフ気味で狙ってみたのですが、実音とマイクを通った音を聴きながらのマイキングは非常に有効でした。2ch一発録音やフィールド・レコーディングなどでも重宝する機能でしょう。本機は透過性が高くピュアな音色、広帯域における忠実な再現性、そしてパーフェクトとも言えるステレオ・マッチングを誇るハイクオリティなマイクプリ。過去の名機ともまた違った個性を持つ、現代的で優秀なプロ機と言えるでしょう。201103_Benchmark_MPA1_1.jpg
▲リア・パネル。左からライン・アウトL/R(XLR)、マイク/ライン・インプットL/R(XLR)
BENCHMARK
MPA1
294,000円
▪ゲイン/0〜74dB▪最大入力/29dBu▪最大出力/29dBu▪ノイズ/0.00045%@22dB Gain 10Hz〜20kHz▪外形寸法/249(W)×44.5(H)×216(D)mm▪重量/1.6kg