両社の伝統を受け継ぐデザイン
現場仕様を想定した豊富な入出力
最初の印象はまず外型が思ったよりコンパクトな仕上がりとなっていること。SHERMAN Filter Bankシリーズは傾斜のついたパネル&横長のイメージがあったが、Restylerは傾斜パネルはそのままに形が真四角に近い。寸法が222(W)×115(H)×172(D)mmとなっており、常に機材でごった返すDJブースやライブ・セットの卓上においても、あまりスペースを取られないだろう。とにかく機材をたくさん並べたいプレイヤーにも朗報だ。ボディの色はSHERMAN好きにはうれしいホワイト仕様。昔からSHERMANと言えば"白いヤツ" 的なイメージが強く、当時の私たちにとってあこがれの機体の色であった。続いて、ノブの部分を見てみるとどこかで見たような色、デザインと形。そう、RODECのDJミキサーのノブを受け継いでいるのである。現にRODECのノブは触り心地とその握りやすい大きさにおいてDJ業界でも非常に評価が高く、ミックス時のEQ操作の安定度はトップ・クラスだ。これらのデザインから各メーカーのこだわりが感じられてうれしい限りだ。ではスペックを見ていこう。リア・パネルにはシンセやリズム・マシン/サンプラー/音源モジュール/ギター/ミキサーなどをXLRまたはTRSフォーンで接続できるコンボ端子仕様のバランス・インプット、CDプレーヤーやDJミキサーなどを接続できるRCAピンのアンバランス・インプットを装備している。アウトプットにはパワー・アンプやミキサー、各種レコーディング機器へ接続できるTRSフォーンのバランス・アウトプット、XLRバランス・アウトプット(オプションのため標準ではコネクターの穴がふさがっている)とRCAピンのアンバランス・アウトプットを装備。DJミキサーのセンド/リターン用に接続することも可能だ。DJミキサーの各チャンネルを本機にアサインして、メインの曲を原音のまま流しつつ、別チャンネルでミックスしている曲やループ・ネタ、アカペラ・ネタ、シンセやリズム・マシンなどをRestylerのフィルター効果で全く違った音色に変化させるなんていうのも面白い。フィルター効果についてはまた後述。レベルに関しては、0dBm=0.775V RMSを基準に示すとインプット・レベルがアンバランス(RCAピン) :50mV~10V/100kW、バランス(TRSフォーン/XLR) :50mV〜10V/200kW。アウトプット・レベルがアンバランス(RCAピン) :0V~3.3V/150kW、バランス(TRSフォーン/オプションのXLR) :0V~6.6V/300kWとなっている。
コンパクトで分かりやすい設計
直感的に操作できるのがポイント
次はフロント・パネルとノブについて。インプット・レベル・ノブ(写真①)は入力したオーディオのレベルを調節するのだが、隣にオーバー・ドライブLEDが装備されていて点灯するとひずんでいる状態になる。これはディストーション効果を生むのだが、さすがは老舗ブランド。良質な回路を使用しているためかオーバー・ゲイン状態で聴いていても不思議と心地良い。アナログ特有の"キャパの広さと音の太さ" が感じられた。その隣にあるメイクアップ・ゲイン・ノブは出力の音量を調整でき、インプット・レベル・ノブと組み合わせてその場の環境に合わせてちょうどよいボリュームで出力できる。横のLEDが0dBに達すると点灯する仕組みだ。
次にミックス・ノブとミックス・タンブラー・スイッチ(写真②)。タンブラー・スイッチは3モード用意されており真ん中がドライ、つまりバイパス状態。上の位置でエフェクト・オン固定、下の位置もエフェクト・オンだが、こちらは跳ね返り付きのモメンタリー・スイッチとなっている。エフェクトかけっぱなしにするのも良し、カチカチとスイッチングしながらアクセントを付けるのも自由自在だ。そして特筆すべき点は下の部位に設置されたローパス、バンドパス、ハイパスという3つのスライダーと真ん中の3つのスロープ・スイッチ(写真③)。スライダーで各フィルターの出力音量を調整すると同時にスイッチでそれぞれのスロープ(カットオフのカーブ)も設定可能。また、スロープ・スイッチはRestylerのフィルター動作モードも選ぶことができ、ボタンの組み合わせで合計8つのフィルター・モードに切り替えることができる。
続いて我々が一番触るであろう、とりわけ大きい2つのノブ(写真④)。インジケーションLEDリングが搭載されているため、青と緑の光が変化するのが特徴的だ。右がマスター・カットオフ・フリケンシーでRestylerに搭載されているローパス、バンドパス、ハイパスのすべてのフィルター・カットオフ周波数を調節。左はスレーブ/トリガー・フリケンシー・ノブとして2つの機能を持ち、エンベロープ・フォロワーをトリガー信号にかかるバンドパス・フィルターのカットオフ周波数と、スレーブに設定されているフィルター(スロープ・スイッチ設定にもよる)のカットオフ周波数を共に調節する。この2つの大ノブを回すことによるフィルター&モジュレーションのかかり具合はスレーブ、マスター・フリケンシー・ガイドLEDの点灯にて確認することができる。
そしてレゾナンス・ノブ(写真⑤)。このノブはマスター・カットオフ・フリケンシー・ノブと組み合わせて使うのだが、設定されたフィルターのカットオフ周波数帯の音を強調し、その結果フィルターを癖のある音に加工する。要するにエグくしていくのである。SHERMANのフィルタリング効果はエグさ満点で有名だが、しっかりとその特性を受け継いでいる印象。このノブを時計回りに動かしていくとその周波数で自己発振を始める。
中段の左部位にあるトリガー・セクションは非常にユニークで、エンベロープ・トリガー・システムへの入力レベルを調整するトリガー・センシビティ・ノブ、トリガー・システムの反応速度をつかさどるスピード・ノブ、トランジション・ノブの3つで構成されている。これらを組み合わせることにより音楽に沿った波のような波形を作り出したりとさまざまな効果を演出できる。こちらも2個のインジケーションLEDでシグナルを確認でき、上側が点灯時は正相、下側が点灯時は逆相のトリガーが出力されていることを視覚的にもとらえていけるので非常に便利だ。最後にAMノブとFMノブについて。AMノブはアンプリチュード・モジュレーションの略でローパス、バンドパス、ハイパス各フィルターの音量をエンベロープ・フォロワーでコントロールする深さを決めることができる。FMノブはフィルター・フリケンシー・モジュレーションの略で、同じく各フィルターのカットオフ・フリケンシーをエンベロープ・フォロワーでモジュレーションする。
アナログ回路ならではの音圧
SHERMAN特有のフィルター・サウンド
では、実際に音出しをしてみよう。エフェクターの弱点といえば原音に比べエフェクトをかけたときの音ヤセにある。エフェクターを大音量で鳴らしたときに少しばかり音像が薄くなったような印象を感じることがあるだろう。しかし、RestylerをDJセットのアウトにセッティングしたところ、驚いたことにほとんど感じられなかった。アナログ回路の構成の良さによるものであろう。まずインプット・レベル・ノブとメイクアップ・ゲイン・ノブを調節し、少々ひずませたぐらいに。次にタンブラー・スイッチを上にスイッチし、エフェクト状態にしたあとミックス・ノブを徐々にドライからウェットに回す。このときに3つのトリガー・ノブは12時の方向にしておき、AM、FMノブは9時方向。すると、早くも効果がサウンドに現れてきた。さらにビートやベースが鳴っている状態でトリガー・フリケンシー・ノブを9時~12時ぐらいに合わせてローパス、バンドパス、ハイパス・スライダーを上げ、スロープ・スイッチもONにする。そしてお待ちかね、マスター・カットオフ・フリケンシー・ノブとレゾナンス・ノブを回しだすと、SHERMAN特有の"エグい"フィルター・サウンドになってくる(このときレゾナンス・ノブを回し過ぎると自己発振が強過ぎることがあるので注意が必要)。これ以外にも操作しているうちにバス・ドラムからハイハットまで任意の周波数帯からの音量の変化によりトリガーが反応し、各フィルターやフィルター・レベルをモジュレーションすることもできた。一般的なエンベロープ・フォロワーは入力されたオーディオ信号全体の音量からCVを形成するのに対し、本機ではエンベロープ・フォロワーの前のプロセスにバンドパス・フィルターが搭載されているため成せる技である。また、ローパス、バンドパス、ハイパス・スライダーの調節とトリガー・センシティ・ノブ&トリガー・フリケンシー・ノブを組み合わせることにより、カッターやゲート・エフェクター、コンプのような効果も作り出せる。トリガー・インジケーションLEDを確認しながら、まるでオーディオをアナログ・シンセでいじっているような感覚にもなってくる。まさにフィルター・エフェクトの極限を追求した仕上がりとなっている。操作性も分かりやすくとても良いので直感的にどんどんいじって面白い音が生み出せる。とにかくたくさんの音で実験をしていきたいと思った。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2011年2月号より)