豊富な対応フォーマットと動作環境の軽さが魅力的な波形編集ソフト

INTERNETSound It! 6.0 Premium
最近のDAWソフトは、とにかく機能が盛りだくさん。レコーディングからミックスまで音楽制作のすべてをカバーしてくれる。それはそれで素晴らしいことなのだが、その反面多くのソフトが巨大化しているのも事実。パソコンに対する要求スペックが高かったり、機能が多過ぎて操作が複雑になったりしがちだ。そこで登場するのが特定の用途にターゲットを絞った専用ソフト。操作体系がシンプルで動作もサクサクと軽い。デパートに対する専門店のような魅力といえるだろう。今回紹介するのもそんな専用ソフトの一つ、Sound It! 6.0 Premiumだ。

キビキビした動作で録音/編集が可能
収録エフェクト数は30種類


Sound It!は、ステレオ2チャンネル(またはモノラル)の録音や編集を目的にしたソフト。いわゆるDAWのようにマルチトラックによるミックスはできないが、最も需要があり、作業時間の多くなりがちな波形編集作業を効率よく行えるように工夫されている。機能を絞ったソフトなだけに、動作は非常に軽く、リソースの消費も少ない。動作環境は、ハード・ディスク空き容量が35MB(35GBではない!)以上、CPUはINTEL互換800MHz以上となっていて、ハイスペックなマシンでなくても動作する。対応OSも、Windows 7はもちろんだが、Windows XPまでサポートしている。また一つ前のバージョンになるがMac版も存在する。テストに使ったマシンは、INTEL Core2 Duo/2.4GHz。今となっては特に高速でもないマシンだが、どんな編集処理をしてもストレスなくサクサクと動いてくれた。Sound It!は、非常に歴史のあるソフトだが、先ごろ久しぶりのバージョン・アップを行った。一新されたユーザー・インターフェースは非常に分かりやすい。基本的にワンウィンドウ構成なので、ほぼすべての操作ツマミがオモテに出ているのがいいところ。操作性もデザインも良い意味でオーソドックスで奇をてらったところがない。筆者自身、ほとんど取扱説明書を見ずに"初見"で触れてしまったほどだ。トランスポートの録音ボタンを押してレコーディング、あるいはオーディオ・ファイルをドラッグ&ドロップして取り込む。波形の全体を見ながら、必要な部分だけを切り出す。インサート・スロットでエフェクトをかけたり、音質やゲインを整えてCDに焼く。こういった流れが、初心者でもごく自然にできてしまう。Sound It!の最大のポイントは、豊富なエフェクトだろう。DAWでおなじみのコンプやリミッター、リバーブ、ディレイ、コーラス、パラメトリックEQから2ミックスを処理するのに適したマルチバンド・コンプ、マキシマイザー、グラフィックEQ、ステレオ・エンハンサーなど30種類を装備。その気になる効き味だが、グラフィックEQなどはオーディオ・コンポやレコーダーに付属しているエフェクトに近い印象。リミッターやリバーブなども、多機能コンポやMDレコーダーに付属しているようなものに近いソリッドな効果と感じた。初心者やアマチュアが簡単なマスタリングなどを行うには、効き具合が予測しやすいのではないだろうか?また珍しいところでは、Center Cancelも付属している。これは、ボーカルなど、センター定位の音を消す(小さくする)エフェクト(画面①)。真っ先に思い付くのは、市販のCDなどからカラオケを作成することだが、そのほかにもアレンジを研究したり耳コピをする際にも役に立ちそうだ。なお、そういった用途では、音程を自由に変えられるピッチ・シフトや、テンポを変更できるタイム・コンプレッションにも便利だろう。

▼画面① Center Cancel画面。ボーカルなど設定位置にある音の中から設定した帯域の周波数成分をカットすることができる機能


これらのエフェクトは、トラックにプラグインしてかけることはもちろんだが、オーディオ・データの一部を選択して、その部分の波形だけを書き換えるようにかけることも可能だ。データ非破壊/破壊、どちらの使い方にも対応している。

アナログ音源のデジタル化に役立つ
3種類のSONNOX製EQを搭載


これらSound It!オリジナルのプラグイン・エフェクトのほか、SONNOX製のエフェクトも付属する。SONNOXは、SONYの業務用コンソールOXF-R3のために開発された技術を使ったプラグインのブランド。プロにもファンが多く、定番としての地位を確立している名プラグインだ。Sound It!に付属するのはEQとノイズ・リダクションで、単体製品に比べ一部パラメーターが簡略化されているが音は紛れもなくSONNOX。微妙な設定でもかっちりと狙い通りに効くし、大胆にかけても不必要な音崩れがない。業務機ならではの精度の高いエフェクト処理が頼もしい。EQは、3バンドのパラメトリック・タイプ(画面②)。高域を上げても耳障りにならないし、中域を上げるときちんと前に張り出してくれる。低域も必要以上にブーミーにならずに量感を足すことができる。もちろんカットの方向で使っても確実に効き、不必要な帯域を不自然にならずに抑えることが可能。どんな使い方でも音やせが少なく、音像が妙に引っ込まないのも素晴らしい。

▼画面② 新搭載されたSONNOX EQ。独立3バンドのパラメトリック・タイプ。確かな音質とシンプルで見やすい操作画面が魅力


ノイズ・リダクションは3種類。"ブーン"というハム・ノイズを取るDe-Buzzer(画面③)、"プチプチ、パチパチ"といったスクラッチ・ノイズやマイクの吹かれのような"ボコ"っというノイズを取るDe-Clicker(画面④)、"サー、ザー"といったノイズを取るDe-Noiser(画面⑤)の3種類が付属する。この手のソフトではどうしても原音も変わってしまうのだが、さすがはSONNOX、極力原音を損なわずにノイズを軽減してくれる。パラメーターも簡略化されているのだが、ほとんどオートで利いてくれるのもありがたい点。例えばDe-Buzzerなら自動的にハム・ノイズの周波数をトレースして、それを抑えてくれる。ほかの2種類も、ノイズ判定はオートでも相当正確にやってくれるので、後はどの程度リダクションするか決めればそれで使えてしまう。

▼画面③ "ブーン"という電源から起こるハム・ノイズを除去してくれるDe-Buzzer



▼画面④ "バチッ、プチプチ"といったアナログ・レコードのノイズやマイクの吹かれを除去するDe-Clicker



▼画面⑤ "サー、ザー、シャー、"といったテープのヒスノイズやホワイト・ノイズを除去するEQ、De-Noiser


これらEQとノイズ・リダクションだけでも、Sound It!を買う価値が感じられるだろう。なお、Sound It!はVSTにも対応しているので、サード・パーティ製品の追加も可能だ。ただし、その逆にSound It!付属のエフェクトをVSTとしてほかのDAWにプラグインすることはできない。

オート・レベルやバッチ処理など
作業効率をアップさせる機能が満載


エフェクト処理だけでなく、通常の波形編集も簡単。波形の切り張りや、ノーマライズ、フェードといった定番処理は、ドラッグだけでなくツール・ボタンやショートカットが用意されているので、慣れれば相当素早い操作が行えそうだ。また、単純にレベルを目いっぱい上げるノーマライズだけではなく、複数のオーディオ・ファイルのレベルを整えるオート・レベルも装備。これは、レベルを上げるとともにマキシマイザーもかけて、一般的な環境でのリスニングに適した音量にダイナミクスを整える機能。ボタン一発で簡単に処理できるのがメリットで、ハンディ・レコーダーによる簡易録音などと組み合わせて使うと非常に便利だ。デモやリハスタでの録音をバンド・メンバーに渡すときやインタビューの録音などを簡単に聴きやすいレベルにすることができる。こうして作成したファイルはさまざまな形式での保存ができる。Sound It!が読み書きできるファイル形式は、定番のWAVやAIFFはもちろん、Acidized-WAVや、圧縮音声でもMP3だけでなくSONY Walkmanなどで使われるATRACやiTunesのMP4aなど非常に幅広い。もちろんこれらの間のコンバートも可能で、さまざまなオーディオ・ファイルを読み込み、加工して保存しておくことができる。なお、こうした作業では、複数の処理をその手順通りに認識させて自動的に実行させるバッチ処理が便利。例えばWAVの素材をオート・レベルで整えて、MP3で保存といった一連の操作を簡単な操作でバッチに登録しワンタッチで次々に実行させることができる(画面⑥)。

▼画面⑥ バッチ処理画面。指定したフォルダー内の複数ファイルに対して同一条件の操作や調整を一括で行うことができる。画面では指定のWAVファイルをMP3に変換する処理を施したところ


ここまで見てきたように、Sound It!はシンプルながら、多様な使い方が考えられるソフトだ。個人的にはさまざまなフォーマットや条件で取り込んだネタを整理するツールとして便利に使えそうに感じた。ハンディ・レコーダーを使い街で収録したSEをトリミングし、レベルを整えたり、ネット経由で入手した圧縮ファイルをフォーマット変換して、いつでも使えるようにストックしておくなどだ。非力なマシンでも軽快に動き、起動も速いので、サブマシンに入れておいて空き時間などにササっと立ち上げて作業できる。もちろん、録音素材をミックス前にトリートメントする編集ツールとして、あるいは2ミックス素材を再編集したいときにも使えるだろう。こういう波形編集専用ソフトは一つあると何かと便利。本格的なDAWを持っている人でも、それを補う存在として便利に使えるのではないだろうか。なお、今回レビューしたPremium版のほかに機能限定のBasic版(10,290円)も用意されている。

サウンド&レコーディング・マガジン 2011年2月号より)
INTERNET
Sound It! 6.0 Premium
17,640円
▪Windows/Windows XP/Vista/Windows7、INTEL(推奨)および互換プロセッサー800MHz以上のCPU、1GB以上のRAM(Windows 7、Vistaの場合、XPは512MB以上)、35MB以上のハード・ディスク空き容量、1,024×768ドット/HighColor(16ビット)以上のディスプレイ解像度