ユーザー・インターフェースを刷新し効率良く制作できるSonar最新版

CAKEWALKSonar X1
2001年に正式発表されて以来、使いやすいプロ・ユースのDAWとして、バージョン8.5に至るまで愛され続けて来たCAKEWALK Sonar。今回のバージョン・アップは"9"かと思いきや、発表された正式名称は"Sonar X1"。画面のデザインが一新された。さて新たなる進化の1ページを飾る"Sonar X1"の実力やいかに?

ユーザーに応じて3種のラインナップ
刷新された画面デザインは3種共通


Sonar X1は、オーディオ/MIDIに関する基本性能は"8.5"を踏襲しているが、ユーザー・インターフェースがガラリと変わり、これまでの連番を捨てた気概が伝わる内容のバージョン・アップになっている。また機能をフルに使用できるProducerを中心に、プラグインが充実するStudio、初心者でも分かりやすく制作ができるEssentialが用意され、それぞれの画面デザインは統一される。"8.5"までの進化の過程で機能とともにツール・バーのボタンもドンドン増えていたのが、非常にシンプルになっている。まずはインパクトのあるデザインの変化から見て行こう。通常DAWソフトの宣伝の画像というと、メインの画面の周囲に、さまざまなエディターやソフト・シンセの画面が配置されたものが多いが、上の画面をご覧いただくと分かるように、X1では1つの画面の中にいろいろな画面が配置されている。これらはコントロール・バー/トラック・ウィンドウ/MultiDock/ブラウザー/トラック・インスペクターの5つのブロックに分かれていると考えれば良い。画面下に新設されたMultiDock(上画面最下部)には好きなだけエディター画面をドッキングでき、表示されたタブをクリックするだけで用途に合った画面に切り替えられ、トラック・ウィンドウとほかの画面を任意のサイズで一画面に同居させることも、その状態の画面を"スクリーン・セット"に記憶して、ボタンひとつで呼び出すこともできる。このMultiDockの搭載による使い勝手の向上は特筆もの。筆者は音の作り込みの際はコンソール画面を使うのが好きで、これまではトラック・ウィンドウとコンソールをツール・バーのボタンのクリックで切り替えながら忙しくやっていたのだが、X1からは一瞬である。一度味わうと以前には戻れないほど快適だ。

全音源を検索可能なブラウザーの搭載
コントロール・バーも刷新


これまでグルーブ・クリップの素材を探すには"ループ・エクスプローラー"、ソフト音源をマウントするためには"シンセ・ラック"、プラグインをマウントするにはトラックのエフェクト欄を右クリックでリストを表示......という具合に、それぞれ分かれていた画面と機能をひとつに統合したのが、デフォルトでは画面右に表示される"ブラウザー" である(上画面最右部)。これひとつで、オーディオ素材、プラグイン、ソフト音源が検索/プレビュー/マウントできてしまう。上部にメディア/プラグイン/シンセの選択ボタンがあり、メディア検索ではパソコン内のあらゆる音声ファイルにアクセスでき、Sonar内に読み込める。自分用のループの保存庫などは"コンテンツの場所" に登録しておけば一瞬でフォルダーの内容を表示できる。ソフト音源の挿入方法や、オーディオのプレビューなどもこのブラウザーで設定可能だ。オーディオ素材とプラグインはこのブラウザーからドラッグ&ドロップで任意のトラック/エフェクト欄に挿入できるので、初めてDAWを導入する人でも簡単に扱うことが可能になるだろう。プラグインでは"FXチェイン"という複数のエフェクトのセットを一気に挿入できる項目もあり、多数のプリセットが用意される上、自分で作った組み合わせを記憶することもできる。よくここまで統合して機能を詰め込んだものである。このブラウザーもクリックひとつで表示したり隠したりできる。従来からあるトラック・インスペクター(画面①)も機能が充実し、クリップ、トラック、後述する新搭載のチャンネル・ストリップProChannelの各情報が表示されるようになった。トラックの表示ではそのトラックが送られているバスまで表示されるようになり、ProChannelの操作もここで行えるので、多チャンネルでもコンソールを使わずに全体像を眺めながら音作りができてしまうだろう。

▼画面① トラック・インスペクターも機能が強化。トラック表示では出力先のバスも表示されるようになった。ProChannelの表示、操作もできる。


コントロール・バーも大きく変わった(画面②)。これまでのように多くの小さなボタンを"必要に応じてカスタマイズしてね"というノリではなく、"使用頻度の高いモジュールを優先的に分かりやすく配置した"感じでシンプルになった。ひとつひとつのモジュールの内容はよく吟味され、大きく分かりやすい。シンプルになったことで、個別の機能......例えば一発でステップ・シーケンサーを開くボタンなどは無くなったが、使用頻度の高い人はツール・バーの"表示"から開いてMultiDockにドッキングすれば良いわけである。

▼画面② 使用頻度の高いモジュールを優先的に配置する事で操作性をシンプルにできるコントロールバー。各モジュールの表示、非表示は自由自在だ。MultiDockとの組み合わせで使い勝手の良い1画面構成を構築できるだろう。


波形編集時のエディット・ツールも進化。新しい"スマート・ツール"は、オーディオでは波形の上半分にあるときは"選択"、下半分にあるときは"移動"、クリップの端ではスリップ編集の各ツールとして機能し、ピアノロール画面ではダブル・クリックでノートの打ち込み、右クリックで削除、ノートの上をポイントするとベロシティ・コントローラーとして機能する。実際ほとんどの作業は"スマート・ツール"でできてしまうだろう。"ミュート・ツールは、どこかいな?"と思ったら"イレース・ツール" の右下の黒三角をクリックすると選択できた。このようにコントロール・バーの各種ツールは見かけ上簡素になったが、必要な機能はちゃんと隠れているのでした。このようにX1を構成している5つのブロックには、多機能が上手に統合されているのである。

目玉機能のProChannel
エフェクトや音源も充実


付属プラグインに関して触れていこう。まずはStudioInstruments(画面③)。これはドラム/ベース/ストリングス/エレピの各専用音源のセットで、ドラム/ベースは手軽にリズム隊が打ち込めるのがウレシく、ストリングス/エレピは本格的な制作にも使えそうな完成度とライブラリーを備える。Square1(画面④)は比較的シンプルなアナログ・シンセ。このクラスは使いやすいので欲しかったところで、リードやシンベで重宝しそう。CAKEWALK SoundCenter(画面⑤)は豊富なプリセットを持つ汎用音源で音も良い。もちろんボーカル編集ツールV-Vocalなど高品位プラグインも引き継がれる。

▼画面③ ベース/ドラム/ストリングス/エレピそれぞれの専用音源が4つセットになったStudioInstrumentsはSonar Home Studioから移植。中でもストリングス音源(左)とエレピ音源(右)の2つは完成度が高くライブラリーも豊富で、特に気に入った!



▼画面④ アナログ・モデリング・シンセSquare1。こういういじりやすくて音の太い、シンプルなソフト・シンセが欲しかったという人も多いはず。



▼画面⑤ 現代的な音の汎用音源CAKEWALK SoundCenter。今回紹介した新シンセ群はSonar X1のすべてのラインナップに搭載されている。


エフェクトも64ビットに対応したものが多数付属する。中でも、Producer版のみとはなるが、コンプとEQ、サチュレーターを搭載したProChannel(画面⑥)の搭載が白眉で、X1 Producerでは、なんと全オーディオ・チャンネルに標準装備! コンプは超定番のあのコンプと超定番のあの卓のコンプをモデリングした"76" "4K"の2種類で、"76"は太くクセの無い音楽的なかかり具合。"4K"は現代的でパキっとしている。EQはフィルター搭載で、効きも良い。これまた現代的な音作りに欠かせないサチュレーターの搭載もうれしく、ヘッド・アンプのひずみが簡単に得られる。ほかにもアンプ・シミュレーターもGuitarRig 4 LEにバージョン・アップ(Studio/Essential版にはAmplitube X-Gearが付属)された。

▼画面⑥ 新開発のチャンネルストリップProChannelは、Sonar X1 Producerではオーディオ全チャンネルに標準装備! 時代もここまで来たか。コンプ/EQともにビンテージ・タイプとモダンなタイプが選択でき、サチュレーターはアナログ・コンソールなどのヘッド・アンプのひずみをシミュレートしてくれる。もう何でもできちゃうな......。



駆け足でSonar X1を紹介した。画面が大幅に変わり筆者も最初は戸惑ったが、触っているうちに早くも病みつきになりつつある。X1は、機能拡張だけではなく、ユーザー・フレンドリーをも視野に入れた新たな出発点と言えそうだ。

サウンド&レコーディング・マガジン 2011年2月号より)
CAKEWALK
Sonar X1
オープンプライス(市場予想価格:Produce/80,000円前後、Studio/40,000円前後、Essential/20,000円前後)
▪Windows /Windows 7/Vista/XP(Windows XP Media Center Edition、Professional×64 Editionは非対応)、INTEL Coreプロセッサーもしくは互換プロセッサー2.6GHz以上、2GB以上のメモリー(4GB以上を推奨)、Producer版は50GB以上、Studio盤は30GB以上、Essential盤は15GB以上のハード・ディスクの空き容量、1,280×800ドットもしくはHigh Color(16ビット)以上の画面解像度(1,920×1,080ドット以上を推奨)、Windows対応のオーディオ・インターフェースまたはサウンド・カード(ASIOドライバーを推奨)、DVD-ROMドライブ、記録型CDドライブ必要