M/S処理とマルチバンドを組み合わせた多機能プラグイン・リミッター

BRAINWORXBX_XL Native
M/S処理にこだわったプラグインに定評のあるBRAINWORXから、M/Sマスタリング・リミッターBX_XL Nativeが発売されました。センター定位の成分(Mid)と左右に広がっている成分(Side)での処理が行える製品の多くがL/R処理もできるようになっている中、このリミッターは完全にM/S専用設計です。どんなことができるのか、探っていきましょう。

センター定位のMidは2バンド仕様
XL機能でテープの質感も加味できる


まずL/Rで入力された信号はMidとSideに分離されます。このときMidの信号は、Crossover Freq.スライダーで設定した周波数でMid LoとMid Hiに2分割され、ベースやキックなど低域成分の多いMidの処理をよりきめ細かくできるようになっています。またMono Makerボタンを押せば、設定した周波数以下がMidに送られ、低域をセンターに寄せる処理ができます。3つの信号に分離された音は、それぞれリミッター・セクションへ。一般的なパラメーターに加え、他のツマミより少し大きく、このプラグインの名前にもなっている"XL"というツマミがあります。このXLのツマミを上げていくとアナログ・テープ・レコーダーで得られるような3次/5次倍音を生み出し、素材の音にミックスされます。普通なら全帯域での調整になりますが、BX_XL NativeはMidが2バンドに分かれている上に、M/S別々に調整可能。低域で増やせばウォームな感じ、高域で増やして明るい感じと、全体をウォームにしたりブライトにしたり、細かい調整が行えます。このプラグインの売りの一つでしょう。

柔軟なサイド・チェイン機能を実装
ダイナミック・レンジ・メーターも搭載


各チャンネルに付いているFader Linkを押すと、Thresholdを下げた場合、リミッティングによりレベルが下がる分だけGain Boostが相対的に上がり、レベルを常に一定に補正しようという動きをします。もちろんソースのレベルによってリミッティング量は決まるので、手動によるゲイン調整が必要ですが、ワンタッチで大ざっぱな方向性を探りたいときなどには便利な機能です。そしてSidechainもあります。BX_XL Nativeではキー信号をSidechain Mixというセクションで設定します。スライダーの左と右でMid Side、Mid Lo、Mid Hi、Ext.を選択可能。例えばMid寄りのFader位置にして、SideチャンネルのSidechainを押せば、センター定位のキックやスネアなどのリズム系のタイミングで左右に広がった音をリミッティングしたり、逆にSide寄りにして左右の成分でリミッターを動作させセンター定位を強調したり、さらには外部からの信号で動作させることが可能です。Master Sectionでは各チャンネルで設定したXL、Gain、Thresholdを同時に調整できるマスター・フェーダーがあり、各チャンネルで細かい調整をした後、全体的に調整可能。このセクションにも、L、R、M、S、SidechainのSoloボタンがあります。その下にあるAuto Soloをオンにすると、パラメーターを触った際に該当のチャンネルが自動でSoloになるので、音色を確かめながらの調整に便利な機能です。マスターのメーターはPeakとRMS、そして"Dynamic Range"があります。面白いのが上部から下に向かって振れるDynamic Rangeで、説明書によると6dBくらいまで振り降りてるくらいで十分にラウドな感じが得られ、4dBまで上がるとひずんでいる可能性があるとのこと。さらに"耳を信じて、妥当なレベルで止めてください"と書いてあります。テストではスタジオのVUメーターも参考にしてみたのですが、Dynamic Rangeメーターも併用すれば、さらに精度の高い調整ができるのではと思いました。そして一番右にあるのがI/Oセクション。L/Rのインプット・レベルと、MとSのパンがあります。パンはマスタリング時には使わないと思いますが、ステレオ収録された素材を処理する際に積極的に使うと面白い効果が得られると思います。その次にSumming Amp Gain。これはM/SをL/Rに変換する部分のレベル調整で、Mを上げればモノっぽく、Sを上げれば広がり感を増やすことができます。その後アタック&リリースの早いPeak Limiterを通り、Master Outを通って出力されます。またプラグインの画面上のクリックで4種類の設定を覚えさせられ、触ったパラメーターのUndo/Redoもできます。レイテンシーは、AVID Pro Tools 9+APPLE MacBook Proではどの種類のトラックにインサートしても582サンプルでした。マスタリング系のリミッターとしては短いので、マスターはもちろんトラックでの使用でも、使いやすいと思います。最後に音の感じについて。同社は必要以上に色付けすることなく、エンジニアの指示通りに処理し、結果を出力する生真面目なプラグイン・メーカーという印象がありますが、BX_XL Nativeはそこから積極的に音を変えていくこともできます。正確なリミッティングはもちろん、エンジニアが指示をすればアグレッシブなリミッティングもこなす変幻自在なプラグインです。
BRAINWORX
BX_XL Native
オープン・プライス (市場予想価格/ 37,800円前後)
▪Windows/Windows XP/Vista、RTAS(Pro Tools 7以降)/VST対応、iLok▪Mac/Mac OS X 10.4以降、RTAS(Pro Tools 7以降)/VST/Audio Units対応、iLok