音質と機能が大幅に向上した最新MBoxのUSB接続モデル2機種

AVIDPro Tools MBox & MBox Mini
96kHz対応に応える音でプロ機に肉薄

AVID Pro Tools MBox & MBox Mini オープン・プライス(市場予想価格/ProTools MBox:58,000円前後、Pro Tools MBox Mini:35,000円前後)ここ4〜5年、本誌で集中的にオーディオ・インターフェースのレビューをさせていただいて、私はもう多分日本で一番オーディオ・インターフェースの音を聴いている“インターフェース番長”です(笑)。この数年間いろいろ技術革新がありましたが、去年あたりから来ている大きな波はズバリ“飛躍的な音質向上”。各社の音質向上がすごく、壊れないからと古いインターフェースを使っている人には、プラグインとか買うよりもインターフェースを買い替えたらめっちゃ良くなるよと声を大にして言いたい! そんな中、いよいよ来ました、今年最後の大波。超期待MBoxの新シリーズです。今回はそのPro Tools MBoxとPro Tools MBox Miniを一挙にレビューします。結果は驚愕(きょうがく)、将棋で言うと“そう攻めてきたか!”の意外性を持っていました。

肉厚アルミ一体成形の屈強なボディMBoxにはDSPも内蔵


箱から取り出してまず驚いたのは継ぎ目の無い肉厚アルミ一体成形のボディ。当然上下左右の衝撃には最強と言ってよいでしょう。全体的に黒のガンメタな配色で非常に精悍(せいかん)な印象を受けます。両機とも右側に大きなマスター・ボリューム・ノブを配置して、モニター音量の調整はスムーズかつ簡単。その隣にモニターのMuteスイッチまたはDimスイッチを配置していて、スピーカーのオン/オフを繰り返す自宅録音の作業がよく考慮されています。 スペック的には、Pro Tools MBox(以下MBox)が24ビット/96kHz対応。Pro Tools MBox Min(i 以下MBox Mini)は24ビット/48kHzまで。MBoxが4イン/4アウト(アナログ2イン/2アウト&デジタル2イン/2アウト)、MBoxMiniが2イン/2アウトです。両機ともファンタム電源対応のマイクプリを2基装備しています。MBox Miniはシンプルな仕様なので、新機能の多いMBoxを中心に見ていきましょう。MBoxでまず特筆すべきは、DSPの搭載。ドライバーのコントロール・パネルにミキサー画面を備えており、モニター・ミックスを作れ、その上DSPを使ったモニター・リバーブをかけられるようになりました。他社製品ならこのDSPでEQ処理などまでやるところでしょうが、AVIDはリバーブ一本に絞っています。でも、後述しますが、このリバーブがすごく良いんです。このミキサーのコントロール・パネルはタテとヨコの2つのデザインが選択可能(画面①)。avid_pic1▲画面① Pro Tools MBoxのコントロール・パネルに表示したミキサー。ステレオ2系統(アナログとS/P DIF)の出力に対して、Pro Tools MBoxの各入力と、Pro Tools LE Softwareからの出力とを任意のバランスでミックスすることができる。画面下段にはモニター専用のリバーブ・セクションもあり。なおこの画面はHorizonta(l タテ)表示だが、Vertica(l ヨコ)表示にすると狭い幅に収めることができる入力やリバーブのセンドも分かりやすく配置してあり、どちらも使いやすいです。また便利ツールとしてチューナーを装備していて、パネル上のタブをワン・クリックするだけでチューナー画面になります(画面②)。チューニングする際のギターのケーブル抜き差しから解放されましたね。avid_pic2▲画面② Pro Tools MBoxに内蔵されたチューナー機能。この画面のようにコントロール・パネルで確認できることに加え、フロント・パネルのSig/Clipの点灯&点滅でも表示される(Input1側のみが光ると低い、Input2のみだと高い)また、MBoxではメイン・アウトとヘッドフォン・アウトのコントロールが別系統なので、ヘッドフォンのボリュームを崩さずにメインの音量を上げ下げできるのがナイスでした。そのほか、便利な機能として搭載されたのがMultiボタン。これは“押してすぐに離す”と“押してホールドする”という2種類の操作にさまざまな機能を割り当てられるというものです。例えば初期設定では録音開始/停止。ホールドで新規録音トラック作成が割り当てられています(画面③)。インターフェースを手元に置いてさくさくとギター録音するときなどに便利だろうなと思われます。そのほかにセッションの保存やマーカー作成、タップ・テンポなど気の利いたメニューがそろっているのでうまく使っていきたいですね。avid_pic3▲画面③ Pro Tools MBox/MBox Miniに付属するDAWソフト、Pro Tools LE Softwareの"ハードウェア設定"。Pro ToolsMBox使用時にはフロント・パネルのMultiボタンに割り当てる機能を選択する"マルチボタン機能"欄が現れる。録音、再生の開始/停止、トラックの追加のほか、ループ再生のオン/オフ、前後のマーカーへの移動、取り消し(アンドゥ)、セッションの保存が設定可能。ホールドの長さも250ms〜1sで調整できる

厚みのある低域とスピード感を両立96kHz対応に応える音でプロ機に肉薄


いよいよ核心の音質面に。珍しくヘッドフォンで音のチェックを始めたのですが、“ええ〜っ”というほどマイクを通して聴こえてくる自分の声が良いのです。ヘッドフォン・アンプが、多分今までで一番かと思うほどの良い音質。いつもチェックで使っているミックス済み音源も、しっかりとした厚みのある低音感と、輪郭のぼやけが無い立体感のある感じで鳴っています。ヘッドフォン・アウトの音質がややおざなりに聴こえる製品が多いのですが、これは見事としか言いようがないと思いました。私のヘッドフォン、SONY MDR-CD900STとたまたま相性が良かったのかもしれませんが、満点をあげたいです。次にメイン・アウトの音質です。スピーカーから出てくる音は一言で言えば“太い”。DIGIDESIGN 192 I/Oと切り替えながら聴くと、わずかながらMBoxの方が鋭さに欠ける感じもありますが、どちらとも“Pro Toolsのサウンド・キャラクター”が出ていて、音質は肉迫しています。低音の膨らみはすばらしく、位相特性もかなり良いと感じました。聴き比べていると、“Pro Tools|HDSoftwareの新オプション、HEATを使った音質と似ていないか?”とだんだん感じてきました。目指しているのは、アナログ・コンソールの太ーい音なのではないかと。中低域の量感とスピード感に注目した音質改善は、実はドンシャリを作るよりも難しく、これこそがAVIDの目指しているものなのかなと感じたわけです。96kHzにチェンジして聴いてみると、高音のヌケ感と全体的なスピード感が加わってものすごく良い。低価格帯の製品では96kHzにしたところで思ったほどの向上が見られないものがあるのですが、それはアナログ回路で既に限界に達しているから。MBoxは96kHzのスペックに応えられるだけの技量をアナログ回路が持っているから、これだけの変化があるのでしょう。 一方、MBox Miniの音質も、48kHzではMBoxとの間で目立った違いはありませんでした。48kHz時の音質においてはほぼ同じと考えてもよいでしょう。後述する入力での印象も同様です。

中低域の太さとつやのあるマイクプリ密度あるMBoxのモニター用リバーブ


入力側もチェック。ボーカルとスティール弦のアコギをマイクで録音してみましたが、中低域の太さに注力した音作りに思えました。中低域が盛り上がると、音がぼんやりなまって聴こえたり高域が足りないと思ったりしますが、その部分を非常にバランスよく取っていて、この価格帯の製品ではあまり聴いたことの無い、いわば1クラス上の音質。Hi-Z入力も太くつやのある音がしました。いい感じですね。96kHzの録音に変えてみても、再生のときと同様に抜けと太さが出て、この価格帯の製品で初めて96kHz録音する価値を見いだせたような気がします。さらに、MBoxのみに付いているソフト・リミットをオンにすると、過大入力時のジャリジャリした高域の汚い成分が丸められて、うまい具合でアナログ・テープ的ひずみに抑えられます。少し入力ゲインを下げてひずみ始めそうなくらいにすると、いい感じのテープ的アナログ・サウンドに。うまく使えばひずみに対するセーフティだけでなく、音作りにも使えそうです。 最後にリバーブ。モニター用ですのでこの音を最終的なミックスで使うことはできませんが、スムーズで密度のある大変良い音に聴こえました。特に好きなのはプレートで、へたなプラグイン・リバーブよりも良いんじゃないかと思うほどです。こう攻めてきたか、と思った点をもう一つ。一般的なASIO/Core Audio対応オーディオ・インターフェースとしての互換性・安定性を打ち出してきたことです。例えばほかのDAWソフトでRTAS未対応プラグインを使ってトラックを作り、それをオーディオ・ファイルに書き出してMBox/MBox Mini付属のPro Tools LE Softwareでミックスするといったこともしやすくなりました。MBoxファミリーをPro Tools LE専用機と勘違いしていた人たちも、この音質を享受できる製品だということができるでしょう。後半はちょっと急ぎになりましたが、私の感動は伝わったでしょうか? チャンネル数などに不満が無ければ、今のところ文句なくイチオシの製品と言えます。今後他社もこのMBoxに負けないほどの物を作ってくるはずです。まだまだ目が離せませんね、オーディオ・インターフェース界は。avid_rear1

▲Pro Tools MBoxのリア・パネル。左からUSB 2.0端子、MIDIIN/OUT、S/P DIFコアキシャル入出力、モニター・アウト×2(TRSフォーン)、マイク/ライン入力×2(XLR/TRSフォーン)


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▲Pro Tools MBox Miniのリア・パネル。左からUSB 1.1端子、モニター・アウト(TRSフォーン)×2、Input2のライン/DI入力(フォーン)と切り替えスイッチ。Input 1にはDI入力端子(フォーン)、マイク/ライン(XLR/TRSフォーン)の両端子と切り替えスイッチ、ファンタム電源スイッチが用意されている


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年12月号より)
AVID
Pro Tools MBox & MBox Mini
オープン・プライス(市場予想価格/ProTools MBox:58,000円前後、Pro Tools MBox Mini:35,000円前後)
●Pro Tools MBox ▪アナログ入出力/2イン&2アウト▪デジタル入出力/2イン&2アウト ▪量子化ビット数&サンプリング周波数/24ビット/96kHz(最高) ▪外形寸法/222(W)×57(H)×194(D)mm ▪重量/1.76kg(本体/実測値) ●Pro Tools MBox Mini ▪アナログ入出力/2イン&2アウト ▪量子化ビット数&サンプリング周波数/24ビット/48kHz(最高) ▪外形寸法/170(W)×57(H)×160(D)mm ▪重量/1kg(本体/実測値)

▪Windows/Windows XP 32ビット SP3、Vista 32ビット SP2、7 32/64ビット、1GB以上のRAM(2GB以上を推奨)、5GB以上のディスク空き容量、空きUSBポート×1 ▪Mac/Mac OS X 10.5.8または10.6.1〜10.6.4、INTEL製プロセッサー搭載のMac、1GB以上のRAM(2GB以上を推奨)、6GB以上のディスク空き容量、空きUSBポート×1