DDPにも対応しより使い勝手が向上したマスタリング用ソフトウェア

STEINBERGWaveLab 7
マスタリング/波形編集/CDライティング・ソフトが4年ぶりにバージョン・アップ

STEINBERG WaveLab 7 オープン・プライス(市場予想価格/59,800円前後)STEINBERGのマスタリング/波形編集/CDライティング・ソフトWaveLabが実に4年ぶりとなるバージョン・アップを受けての登場です。今回のバージョン・アップで個人的にも注目していたDDPファイルの書き出しが標準搭載されたのはもちろん、ハイファイ・オーディオや放送局での使用、FTP機能も有しiTunes StoreでのPodcast配信も直接可能など、プロ・ユースから個人ユースまで幅広い層が使えるデジタル・オーディオ編集ソフトとして、さらなる進化を遂げたようです。

DDPの書き出しのほか読み込んで音を聴くことも可能


まず今回のバージョン・アップの主だった特徴を個条書きにしますと、●DDPファイルの書き出しを標準搭載●VST3仕様の同社高品質プラグインとSONNOX製ノイズ除去プラグインの標準搭載●ワークスペースの分割による作業の効率化●DIRAC2.2アルゴリズムによるタイム・ストレッチ/ピッチ・シフト●スペアナ、VUメーター、オシロスコープ、ウェーブフォーム表示、スペクトラムメーター、位相チェック・メーター、3D周波数解析機能などの高精度のメータリング機能●Mac OS Xに対応となっております。この中でも特に注目していた機能が、DDP(Disc Description Protocol)ファイルでの書き出し(画面①)。wavelab_1▲画面① 標準搭載されたDDP書き出しの設定画面。音質が記録媒体に依存しないため、Web経由でのデータの受け渡しなどメリットが大きい個人的にはこの機能だけでも“買い”です。ここでDDPファイルについて簡単に説明しますと、米DCA社が音楽業界向けに開発した企画で、CDを製造するために必要なPQ、ISRC、POSやエラー補正情報などを含んだファイル・フォーマットです。詳しくは2005年に日本レコード協会が制定した「CD用マスタDDPファイル互換性ガイドライン」というPDF(www.riaj.or.jp/issue/ris/pdf/ris_ddp2005.pdf)がありますので、そちらを読んでもらえれば実際にプレス業者に納品する際役に立つと思います。理論上はデータから直接CDを作成しますので、オーディオCDの形式をとるPMCDと比べると、音質がドライブやメディアに左右されず、高品質なマスター・データの制作が可能となったわけです。WaveLab 7ではDDPファイルの生成のほかに、DDPの読み込み/CDへの書き込みもできるので、マスタリング・スタジオとWeb経由でDDPファイルのやりとりをしたり、マスタリング・スタジオで作成したDDPファイルをプライベート・スタジオで確認することもできます。自分はDDPファイルはまだ扱ったことがなかったので、興味本位で“WAVファイルとDDPファイルの音は同じなのか?”という実験を行ってみました。結論から言うと、音質的には同じでした。WAVとDDPファイルで書き出したものを逆相にして重ねてみたところ、完全に音が消えました。WaveLab 7には多彩なメーターがそろっているのでそれらを使って確認したのですが(画面②)、どのメーターも無音を示していました。wavelab_2▲画面② WaveLab搭載のメーター類。上段左よりVUメーター、スペクトロメーター、下段左よりマスターセクション、ビットメーター、フェーズスコープ、ウェーブスコープ、スペクトロスコープ、オシロスコープ。これらは自由にレイアウトできるついでといっては何ですが、WaveLab 7上でプラグインを使用して音質/音圧を調整(つまりマスタリングですね)したファイルをDDPにレンダリングした後のチェックもやってみました。こちらは微妙にですが音が変わり、若干中高域が派手になる印象があります。と言っても嫌な感じは全く無く、むしろ音像が明るくなり自分的には好みの感じです。この実験は簡易的なものなので、細かく検証していくとまた違った結果が出るかもしれませんが、参考にしてみてください。

オーディオ・モンタージュで1曲ごとに音質調整


実作業でのチェックに移りたいと思います。まずは一番使用頻度が高くなるであろうオーディオ・モンタージュ・ワークスペース(画面③)。wavelab_3▲画面③ オーディオ・モンタージュ・ワークスペース。複数のオーディオ・ファイルをクリップ化し、プラグインによる個別の音質調整、フェード処理などが可能。ここでアルバムとしての完成形を作り上げていく。マルチトラックでの作業にも対応するこのオーディオ・モンタージュは複数のオーディオ・ファイルを“クリップ”として扱い、アルバムなどのパッケージにまとめ上げる編集画面です。クリップというのはボリューム/パン/フェード情報/エフェクトの設定やハード・ディスク上にあるオーディオ・ファイルの再生開始/終了時間などの情報を含むリージョンのようなもの。一般的なDAWと違い、トラックごとのオーディオ処理ではなく、1曲単位で異なる処理を個別に行えます。例えばDJミックスのような長いオーディオ・ファイルをWaveLab 7に読み込んだとします。このDJミックスの途中で“この曲だけ少しボリュームが小さい” “この曲は前の曲に比べて低域が少ない”といった場合も、任意のポイントでファイルを分割し、処理をしたい部分だけEQやレベルの調整を行えるのです。もちろん1トラックに2ミックスのファイルを複数並べて曲ファイルごとに音質調整していく一般的なマスタリングの場合も、クリップごとに処理していく方法は有効です。オーディオ・モンタージュではマルチトラックでの作業も可能なので、自宅でのミックスではドラム/ボーカル/そのほかの楽器でまとめたステム・ミックスを作っておき、最終的なバランスはマスタリング・スタジオにWaveLab 7を持ち込んで2ミックスを作るといった使い方も可能。マルチトラックの利点を生かしてラジオ用のスポット制作やCMの制作現場でも優れたツールとして力を発揮してくれるでしょう。また、こうした編集作業から各メディアへの書き出しが一連の流れで完結するのも大きな利点。通常のCD-Rはもちろん、マルチチャンネル・ディスク/DVD-Audioにも対応しています。

バイナルのデジタル化に威力を発揮強力なレストレーション機能


WaveLab 7では新たにVST3フォーマットのプラグインにも対応し、高音質/低CPU負荷の30種類にも及ぶプラグインが追加されました。同社のCubase、Nuendoにも搭載されているEQ/コンプはクセが少なく、マキシマイザーも無理やり持ち上げている感じがなく自然な音質で、マスタリングでの周波数帯域バランス調整や全体の音圧をそろえるのにバッチリといった印象です。今回VST3になったことですべてのプラグインがサラウンド対応。さらにSONNOXのノイズ除去プラグインが標準搭載されたことにより、古いアナログ・レコードのデジタル化の際も威力を発揮してくれることでしょう。さらにマスター・セクションでは外部のハードウェアをExternal Gearとして使用できるので、音質的にデジタル/アナログのおいしいところを組み合わせたマスタリングもできます。以前からのLegacyプラグインも搭載されており、前バージョンで作ったプロジェクト・データも問題なく読み込み可能。これらのプラグインを複数組み合わせプラグイン・チェインとして設定をセーブできるので、サード・パーティ製プラグインを含む自分なりのグループを作っておけば、さらに便利です。最後にWaveLab 7が誇る波形編集能力にも触れておきましょう。スペクトラム・エディターを使用したレストレーション機能は本当に強力です。時間軸を横方向、周波数を縦軸、そしてゲインを色で表示することで、オーディオ・ファイルの内容を視覚的に認識でき、その内容を細かくエディット可能。これは例えば突発的なノイズを発見し除去する場合などに威力を発揮します。一定の周波数でずっと鳴っているハム・ノイズなどはSONNOXのノイズ除去プラグインを使用するといいでしょう。ピッチ・シフトとタイム・ストレッチもDIRAC2.2アルゴリズムを採用し、細かく設定できます(画面④)。wavelab_4▲画面④ タイム・ストレッチも詳細な設定が可能。画面下のエンベロープ編集ウィンドウではテンポをだんだん早く/遅くといったように変化が付けられるちょうど“クラシックの楽器練習用に楽曲をピッチを変えずに再生スピードだけ遅くしてほしい”と知人から頼まれていたので、WaveLab 7を使ってやってみたところ、弦の倍音構成が複雑な曲も音質変化が少なくストレッチできました。1つ付け加えるなら、これらはファイル・ベースの処理なので、ループ・シーケンサーのような手軽にストレッチしていく使い方ではなく、音質を保ったままのタイム・ストレッチが要求される場面での使用がベターだと思います。全体の印象としては、マスタリング/波形編集ソフトという位置付けにおいて、現段階の完成形と言ってもいいのではないでしょうか。Podcastや映像関係の現場でも使えますし、多彩なファイル・フォーマットに対応しているので、あらゆる現場で活躍できると思います。かなり高機能なので使いこなすまでに慣れは必要かと思いますが、使いこなせるようになったら強力なハイエンド・オーディオ・エディターとして手放せないツールになるのではないでしょうか。プロの現場ではもちろん、その環境を自宅でも再現できるという意味でもオススメです。(『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年12月号より)
STEINBERG
WaveLab 7
オープン・プライス(市場予想価格/59,800円前後)
▪Windows/Windows 7、INTEL Pentium/AMD Athlon 2.0GHz以上のプロセッサー(DualCoreプロセッサーを推奨)、1,024MB以上のRAM、200MB以上のハード・ディスク空き容量、MMEまたはASIO対応のオーディオ・デバイス(ASIO対応デバイスを推奨)、USB-eLicenser接続用USB端子 ▪Mac/Mac OS X 10.6、INTEL Core Duo以上のプロセッサー(Power PCには非対応)、1,024MB以上のRAM、200MB以上のハード・ディスク空き容量、Core Audio対応のオーディオ・デバイス、USB-eLicenser接続用USB端子