USBオーディオI/Oを内蔵するコンパクト4バス・アナログ・ミキサー

MACKIE.2404-VLZ3
アナログなのにデジタル卓のような使い回しの効くミキサー

MACKIE. 2404-VLZ3 201,600円突然ですが思い返してください。数々の経験で思うことは"原点に帰る"のが一番の安全、安心、納得なのではないでしょうか? 機材もまたしかり。新しい製品が出ても、使用してみて元祖と言われるメーカーの使用感や安心感がやっぱり良いよね。ってなりませんか? しかし、時代は変わりラインナップも変動する中で"守りつつ革新してゆく" のも大切なこと。MACKIE.はまさに変動する現代の音楽シーンの最前線に居て、現場やアナログ信者の不動たる信頼感の中で、デジタル技術の新しい部分を"最も良い形"で取り込み、成功しているのではないでしょうか。今回は先日発表され従来の4バスVLZラインナップから、さらに進化を遂げた2404-VLZ3をレビューしていきたいと思います。

エフェクト2系統やワンノブ・コンプ実装オーディオI/Oは4イン/2アウト仕様


まず、今回発表となった4バスのVLZ3シリーズは、今回チェックする24chインプットの2404-VLZ3と、32chインプットの3204-VLZ3(262,500円)の2機種。共に6AUX、4バス、2ステレオ・フェーダーの仕様となっています。2404-VLZ3の大きさは748(W)×153(H)×486(D)mmとコンパクトで、重量も14.1kgと箱から軽々と出せる重さです。チェックのためにライブ・ハウスの小さな机にポンと置きましたが、これだけでも設置の容易さが伺えます。従来のVLZシリーズから、パネル上での大きな変更点は2つあります!(写真①)2404_1▲写真① マスター・セクションには32ビット・エフェクトRMFX+を2基装備。その下、GROUPS(サブグループ)には1ノブ・タイプのコンプレッサーを実装している。マスター・セクション上部にはUSB出力の選択スイッチも搭載しているまず32ビット処理のRMFX+というエフェクトが2系統搭載されていること。楽器用とボーカル用とで別々のエフェクトが使用できるようになっています。プリセットは"ライブで使える実用的なエフェクト"を厳選。ディレイのタップも可能で、簡単に指先で操作できる点もライブPAで重宝します。もう1点は4つのサブグループすべてと、インプット4ch(ch17〜20)にインライン・コンプレッサーを装備しています(写真②)。▲写真② ch17〜20には、ゲイン・ノブの下にコンプレッサー・ノブを装備。コンプレッサーはソフト・ニー・タイプで最大レシオは6:1。その下には6系統のAUX、3バンドEQ(ステレオ・チャンネルは4バンドEQ)、パン、フェーダーとバス・アサイン・スイッチが並ぶこれはノブ1つでコントロールするタイプのもの。コンプレッサーは、ライブとレコーディングの両方において必要不可欠ですが、このコンプはシンプルな調整で誰にでも簡単に扱うことができます。インプットはもちろん、サブグループにドラムなどをまとめてコンプレッションするといったことも可能です。さらに特筆する点としてもう1つ。リア・パネルにあるUSB端子にコンピューターを接続すれば4イン/2アウトの24ビット/48kHz対応オーディオ・インターフェースとして使用できます。コンピューターへのインプット、すなわち卓からのアウトはメインL/R、AUX5&6、サブグループ1&2、3&4から2組をチョイス可能。コンピューターからの信号を受けるのも、ステレオのチャンネル・フェーダー(ch23/24)か2trインで選択できます。コンピューターさえあれば、ライブを録音して自宅でミックス、ということもできます。さらに、AUX5&6がコンピューターとつながるという点もポイントで、後述するようにコンピューター内に立ちあげたプラグイン・エフェクトをライブPAで使用することもできます。しかし、本機の実力はこんなもんじゃないのです!! MACKIE.のすごいところは、良いものを出し惜しみなく提供すること。本機が採用したXDR2マイク・プリアンプは、各チャンネル60dBまでのゲイン増幅が可能で、ライン・レベルの信号も+22dB増幅させることができます。さらにサミング回路に送られるすべての信号を−6dBでミックスするネガティブ・サミング構造により、ノイズを低減。最初からヘッド・ルームに余裕があり、その後フェーダー・ゲインでも最大値+10dBに6dBを追加することで、ひずませることなくクリーンな信号をミックスすることができます。また、本機のEQはミッドレンジがスウィープ可能な3バンドEQ+100Hzのローカット・フィルター(−18dB/oct)。EQはこのクラスにおいて、最も音楽的な効き方でゲインのブースト&カットができているので、直感力でオペレートをする場合でも手間取ることはありません。さらに、筆者が密かに気に入っているポイントは、AUXにインサート端子(TRSフォーン)が装備されていること。このクラスのミキサーではあまり実装されていませんが、例えば31バンドのグラフィックEQなどを各モニター用に接続することでステージに行かなくてもブース側でモニターのリアルタイムな状況をヘッドフォンで把握することができるのです。小さなことかもしれませんが、そのほか現場の動きや運搬などを考慮して頑丈なシャーシにしてくれたりと、"形にしてくれる"ところがうれしいですね。

アウトボード無しでもオペレート可能USTREAMやライブ収録も視野に


では、実際にライブ・ハウスでのテストしましょう。今回は僕がPAを担当していて、10月にミニ・アルバム『と、私』を発売したピアノ弾き語りの堀川千尋さんに協力していただき、チェックをしました。ボーカル・マイクにSHURE SM58、キーボードはダイレクトにXLR端子で入力しました。まずはキーボードのレベル設定から。通常のミキサーならマイクプリで受けきれないので、いつもはDI経由かPADを入れて始めるのですが、全く問題無く、ゲインを少し上げるだけでちょうどいい感じです。一方、ボーカル・マイクはしっかりレベルを取っているので、+5dB位置で良い感じに。ヘッド・アンプに余裕がある音で聴かせてくれるので、音質にシビアなアコースティックも、それとは対極にあるロック・サウンドでも合いそうです。筆者は、音量をかなり出す(笑)のですが、マスター部やアウトで上げるのでしばしば"シー"というノイズに悩まされます。しかし、本機は前述の仕様により、S/Nも全く気になりません。音質も、ゲインを上げたら"そのまま" 奇麗に上がってくれ、まるで音源に近づいていくような錯覚になります。クリーンで上質なヘッド・アンプだから成せる業です! 本機のフェーダーは、コンパクトなサイズに合わせて60mmですが、表示も見やすい上に、細かな調整もしやすく、もちろん感触もオペレートに適度な重みがあります。次にダイナミクスのあるボーカルを、インライン・コンプレッサーで整えてみます。ノブを上げるとレベル差のあった歌声が均一に近付いていきます。本機のこの機能は"単純につぶしていく"だけでなのですが、すごく簡単に自然なかかり具合に設定できます。ボーカルは近接効果が出るので、EQで少しだけローを切りましたが、伸びやかな歌声が得られました。続いてリバーブをかけようとAUX5から送る楽器用にFX1を"ConcertHall"に設定、AUX6から送るボーカル用にFX2では"VocalPlate"をチョイスして使用してみます。これらの内蔵エフェクトには細かい設定はないのですが(ディレイのみタップでディレイ・タイム設定可能)、AUXセンドのノブを上げていくだけでサウンドにつやを加えられました。先にも説明した通り、このAUX5&6はUSB経由でパソコンへ信号を送ることもできるので、WAVES Multirack NativeやAPPLE Logic上でリバーブをかけてみるテストもしましたが、いずれも大成功。レコーディングで使用したリバーブをライブでそのまま使うこともできるのです!! また、今回のような弾き語りなら、ボーカルをサブグループ1&2、楽器を3&4にアサインしてマルチトラック録音したりもできますし、もちろんDAWソフトでトラック再生をしながらの録音も可能。メインL/Rに加えてオーディエンス・マイクの音を送り、後でライブ盤を制作したり、流行のUSTREAM配信をするといったことまでできます。いずれも今回のテストで動作確認をしましたが、一つだけ注意点を挙げるならば、コンピューターへ送られる信号が小さめであること。これはアナログ回路のヘッド・ルームを高く設定していることと直結しているようです。バンドものなら自然とレベルは上がってくるでしょうし、24ビット収録ならある程度レベルが低くても問題ないでしょう。さまざまなことがPA現場に求められると同時に、コストは削減されるこの時代に、まさに救世主のようなミキサー2404-VLZ3。高品質な上に、アウトボードやオーディオ・インターフェースまで搭載した、アナログなのにデジ卓のような使い回しの効くモデルなのです。圧倒的なファンの多いVLZシリーズは"高品質なヘッド・アンプ" "低価格だが頑丈" "高付加価値"の三拍子を守り抜くことでMACKIE.の地位を築き上げたのは言うまでもありませんが、その地位を守り続けるための努力は、並大抵ではなかったでしょう。安い物は使い捨てが当たり前の中、本機は"直してでもずっと使い続けたい" 一品なのではないのでしょうか。2404_rear

▲リア・パネル。左上コーナーの4つは、ヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)とモニター・アウトL/R/MONO(TRSフォーン)。その右8つはグループ・インサート×4(TRSフォーン)とグループ・アウト(TRSフォーン)。その下12個はAUXインサート×6(TRSフォーン)とAUXセンド(TRSフォーン)。その右はch21&22と23&24のインプット(TRSフォーン)、その下4つは2系統のステレオ・リターン(TRSフォーン)。右はch1〜20の入力端子で、上からインサート(TRSフォーン)、ライン入力(TRSフォーン)、マイク入力(XLR)。下段は左から電源インレット、ファンタム電源スイッチ、トークバック・マイク入力(XLRマイク入力)、L/R/MONOメイン・アウト(XLR/TRSフォーン)はインサート端子(TRSフォーン)にも併装する。MONOアウトにはレベルつまみを装備。そのほかテープ入出力(RCAピン)も備えている


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年12月号より)
MACKIE.
2404-VLZ3
201,600円
▪ノイズ特性(全フェーダー=ユニティ)/−81.5dBu ▪周波数特性/20Hz〜50kHz(0/−1dB) ▪EQポイント/80Hz/100Hz〜8kHz/12kHz(モノラル)、80Hz/400Hz/2.5kHz/12kHz(ステレオ) ▪入力インピーダンス/2.7kΩ(マイク)、2.5kΩ(チャンネル・インサート・リターン)、10kΩ以上(その他) ▪出力インピーダンス/10Ω未満(テープ・アウト)、120Ω(その他) ▪外形寸法/748(W)×153(H)×486(D)mm ▪重量/14.1kg

▪Windows/Windows 7 32ビット/64ビット、Vista 32/64ビットRTMまたはXP SP 2。Pentium 4、CeleronまたはAthron XP以上のプロセッサー、512MB以上のRAM、USB 1.1端子、ASIO対応ソフト ▪Mac/Mac OS X 10.4.11〜10.6.4、PowerPC G4以上のプロセッサー、512MB以上のRAM、USB 1.1端子