波形容量やアルペジオ・パターン数など堅実に強化した最新版Motif

YAMAHAMotif XF7
同社が誇るワークステーション・シンセの最新バージョン

YAMAHA Motif XF7 オープン・プライス(市場予想価格/258,000円前後)YAMAHAが誇るワークステーション型シンセMotifに、新しくXFシリーズが登場しました。ラインナップされたのは今回レビューするXF7に加え、XF6(オープン・プライス/市場予想価格238,000円前後)、XF8(オープン・プライス/市場予想価格298,000円前後)の3機種。違いはその鍵盤数と鍵盤タイプで、XF6/XF7はそれぞれ61/76鍵のFSX鍵盤、XF8は88鍵のBH鍵盤となっています。3機種ともインターフェースは統一されるので、操作方法は同じ。早速XF7でその実力を見ていきましょう。

内蔵波形の容量が741MBに増量生楽器のサウンドも高クオリティ


Motif XFは単なるシンセではなく、サンプラー/シーケンサー/DAWリモート・コントローラーまでが1台に集約されています。シンセ部は先代Motif XSからの流れを継ぎ、最大発音数128/最大16マルチティンバーで、内蔵波形の容量はXSより倍以上の741MB(16ビット)にまで増えました。内蔵サンプラーもメモリーが128MB搭載と潤沢です。シーケンサーもトラック数は16あり、曲のスケッチに使うには十分です。DAWリモート・コントロールはSTEINBERG Cubaseはもちろんのこと、CAKEWALK Sonar、MOTU Digital Performerにも対応するうえ、VSTプラグイン経由で音色のエディットも可能です。yamaha_pic1まずは外観から見ていきましょう。中央部には5.7インチのLCDディスプレイ(画面①)。▲画面① 5.2インチのカラー・ディスプレイは本機を操る上で核となる機能。ソング・モード時。“03”と書かれたところがソング・ナンバーでその右がソング・ネーム。“Tr” がトラックを現し、写真①のフェーダーやツマミでレベルやパンを設定可能だこのおかげで画面の広いDAWに慣れた方でも違和感なく使えることでしょう。その下には12個のボタンが並び、主に画面の切り替えに使用。パラメーターによってはこのボタンをテン・キー代わりに使うことができます。LCDディスプレイの右側は音色切り替えに使用するジョグ・ダイアルとボタンが並びます。これはXSと同じなので慣れた方はすぐに使いこなせるでしょう。その反対側には主に音色を操作するノブやフェーダーが並びます。このノブやフェーダーは後述するDAWとの連携時にエディターのパラメーターの制御にも使えます(写真①)。yamaha_1▲写真① パネル左側のツマミ&フェーダー群。内蔵音源やエフェクトの編集や、シーケンス時のミックスやDAWのコントローラーとして使用するリア・パネルにはUSB端子を搭載し、ホスト・コンピューターと連携をするほか、作成した音色やサンプリングしたデータを本体に差したUSBメモリーに保存可能。また、イーサーネット端子も搭載し、パソコン側のファイル共有機能を利用すれば音色データなどをパソコン内部に保存できます。DAW環境ではスマートな方法でしょう。面白い発想だと思いました。また鍵盤は戻りが速くて非常に弾きやすく、指と一体感が生まれるような感じ。アフタータッチも付いています。同社のFSX鍵盤は初めて触りましたが、あまりの弾きやすさと打鍵音の静かさにマスター・キーボードにしたくなりました。多くのキーボーディストたちがステージ上でMotifを弾いているのもうなずけます。次は音源部。音源は、内蔵波形の容量がMotifXSより倍以上にまで増えたことで、ギターのタッチ・ノイズまで再現し、細部にまでこだわりが感じられます。プリセット“smoky sax”のサックス音は“おっ本物?”と感じるほどのリアリティです。音質は良く、高域が奇麗に伸びる透明感のある柔らかな音色で、生楽器に強い印象を受けました。特にピアノやエレピは気持ち良く聴けます。またベースもしっかり低域が出ており、全般的なキャラとしては高域から低域までバランス良く出ています。オケに混ぜても浮いたり埋もれたりせずオールラウンドに使えるでしょう。音色は全部で1,353音色と多くなりますが、Category Search機能により、楽器やスタイル別にカテゴリー分けされたリストの中で音色を探せるので、膨大な数のプリセットの中から迷うことなく目的の音を探すことができます。エフェクトは特にリバーブが秀逸で、有名デジタル・リバーブを模したREV-Xの広がりが気持ち良く、ピアノや弦にマッチします。VCMエフェクトは有名アウトボードをモデリングしたかのようで、極端なエディットをしてもPCM臭くなりません。Motifシリーズの中でも本機に初めて搭載されたものが、オプション販売となるフラッシュ・メモリー・エクスパンション・モジュール(どちらもオープン・プライス)。512MBのFL512M/1GBのFL1024M(写真②)から2枚(最大2GB)まで増設することができ、RAMと違い電源を落としても内容が消去されないのがポイント。yamaha_2▲写真② 別売りのフラッシュ・メモリー・エクスパンション・モジュールは512MBのFL512Mと1GBのFL1024Mの2種。Motif XFは2枚までを装着して最大2GBの拡張が可能だ(写真はどちらもFL1024M)またWebサイトでは既に追加コンテンツ“Inspiration Comes In A Flash”が配信されており、ダウンロードして本機にインストール可能。その中のプリセット“V.K. Wurlitzer 129"は粘っこい腰の中域のエレピにトレモロがうまく絡み、艶のある音になっています。また、"Power Grand"はその名の通り高域から低域までパワー感に溢れた明るいピアノで、バンド・サウンドの中でも埋もれることはないでしょう。将来はサード・パーティのコンテンツも販売予定とのことで、ライブラリー・ブランドとのコラボなど面白い展開が期待できそうです。拡張性がネックだったワークステーション・シンセの弱点をうまく克服した例と言えますね。

アルペジオ・パターンは7,881種類メモリーを搭載しサンプリング可能に


同社のシンセといえば特徴的なのがアルペジエイター(画面②)です。yamaha_pic2▲画面② アルペジエイター時のディスプレイ。アルペジエイターは楽器の奏法をシミュレートしたパターンや、パン/フィルターなどシンセのパラメーターを変化させるパターンなど7,881種類のパターンを擁し、フレーズ生成機の様相を呈す単なる上昇下降の組み合わせだけでなく、ジャンル/楽器/奏法に応じてさまざまなパターンがあり、Motif XF内蔵の豊富な音源と合わせると簡単にファンクっぽいバッキングやバラードっぽいトラックを作れます。アルペジエイターというよりはフレーズ生成装置といった方がしっくりくるでしょうか。1つフレーズを作ればそれを元にアルペジエイターでバッキングを作り、1曲に仕上げることもできます。その種類も前モデルからさらに強化され、7,800を超える種類が内蔵されています。続いてサンプラー機能。メモリーは128MB搭載され、サンプリングCDなどからフレーズ・サンプリングする用途には十分な容量です。また本体にマイクを挿してサンプリングすることも可能。オプションのフラッシュ・メモリー・エクスパンション・モジュールにもサンプル保存可能。サンプラーの機能としては、ループ再生、タイム・ストレッチなどはもちろんのこと、アタックを検出してサンプルを自動で切り刻めるスライスや自動でフレーズを組み替えるリミックスなど、YAMAHAのサンプラーらしい機能が搭載されています。ただ、サンプルのエディット画面で波形の描画が遅い点は今後に期待したいところです。続いてシーケンサーはYAMAHA QYシリーズからの流れを受け継いだ操作性で、同社のシーケンサーを使ったことのある方はすぐに使えるでしょう。イベントリスト機能もあるので、打ち込んだデータの修正も簡単です。使用できるトラック数はソング・モードで16トラック、シーン数は18ですが、パソコンを立ち上げることなく曲のスケッチを作るには必要十分でしょう。ただ、せっかくマイク入力ができるのだから仮歌などで使えるようにオーディオ・トラックがほしいところ。 そして気になるDAWとの連携について。必要なソフトをインストールし、USBでパソコンと接続すると16マルチティンバーの音源として使用できます。Cubase 5.5を用いて試したところ、セットアップは簡単に完了。CubaseにはMotifXF用のテンプレートまで用意されているうえ、Cubase Alも付属するので、すぐに実戦投入できます。音色のエディットはVSTプラグインのエディター経由で行います。エディター内でオーディオ入力の設定を行えばそのままバウンスまでできるので、ソフト・シンセと同じ感覚で使用可能。設定もプロジェクト・ファイルとともに保存されリコールもできます。エディター以外にもDAWリモート・コントロール機能があり、本体からシーケンサーのトランスポートはもちろん、本体左側のノブ/フェーダーがエディターのコントローラーとなるほか、LCDディスプレイ下部のボタンからDAW上のミキサーやプロジェクト画面を呼び出せるので、曲作りの際はマウスに持ち変える回数をぐっと減らして制作に専念できるでしょう。駆け足でを紹介してきましたが、派手な新機能よりも鍵盤や音質など演奏にかかわる重要な部分に力を入れた1台という印象。データの互換性もあり旧Motifユーザーの乗り換えはもちろん、良質な音と鍵盤を求めて新たにワークステーション・シンセを購入する方にもお薦めの1台といえます。yamaha_rear

▲リア・パネル。接続部は左からイーサーネット端子、USB端子×2、S/P DIFデジタル出力(コアキシャル)、MIDI THRU/IN/OUT、フット・スイッチ入力(フォーン)×2、フット・コントローラー入力(フォーン)×2、アサイナブル出力(フォーン)L/R、メイン出力(フォーン)L/R、ヘッドフォン出力(フォーン)、A/D入力(フォーン)L/R


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年12月号より)撮影/川村容一(画面1,2のみ)
YAMAHA
Motif XF7
オープン・プライス(市場予想価格/258,000円前後)
〈音源〉▪マルチティンバー数/内部音源16パート、オーディオ入力パート、ステレオ・パート ▪ボイス数/プリセット:1,024 ▪パフォーマンス数/124×4音色(最大4パート) ▪エフェクター・タイプ/リバーブ×9、コーラス×22、インサーション(A/B)×53、マスター・エフェクト×9、マスターEQ、パートEQ 〈シーケンサー〉 ▪シーケンサー容量/約130,000音 ▪レコーディング方式/リアルタイム・プレース、リアルタイム・オーバーダブ(パターン・チェンジ除く)、リアルタイム・パンチ(ソングのみ) ▪BPM/5〜300▪アルペジエイター/プリセット:7,881タイプ、1タイプあたり256ユーザー・フレーズ 〈サンプラー〉 ▪最大サンプル数/512▪AD/DA/24ビット ▪サンプリング・レート/44.1/22.05/11.025/5.5125kHz ▪サンプル・フォーマット/Motif XFオリジナル・フォーマット、WAV、AIFF〈鍵盤部〉 ▪最大同時発音数/128 ▪外形寸法/1,252(W)×122(H)×391(D)mm ▪重量/17.2kg