プロジェクト・スタジオ用Pro Tools|HD対応多機能オーディオI/O

AVIDHD Omni
フレキシブルでクオリティが高いオーディオ・インターフェース

AVID HD Omni 315,000円このたびPro ToolsがAVIDブランドからのリリースとなるとともに、Pro Tools|HD対応のオーディオI/Oもラインナップが一新されました。その中で、プロジェクト・スタジオに最適なものがこのHD Omniです。もちろん、従来のProTools|HDシステムと同様、HD Coreカードに接続して使用します。

忠実かつ魅力的なサウンドのマイクプリを2基実装


まず最初に、ハードウェア的な特徴を整理していきましょう。●マイクプリ2基実装 ●アナログ入力×4 ●アナログ出力×8 ●モニター・コントロール(2系統切り替え) ●ヘッドフォン・アウト ●S/P DIF入出力 ●AES/EBU入出力(入力×2、出力×8) ●S/MUX対応のADAT入出力ということになっています。アナログ入力は、ライン用としてTRSフォーン端子で4系統を用意。+4dBu/−10dBVの基準レベルも、Pro Tools Softwareから切り替えられます(画面①)。192 I/Oではアナログ入出力がD-Sub 25ピン端子で、ブレイクアウト・ケーブルもXLRが標準とされてきましたから、文字通り"入り口から変えてきた"という印象を受けます。実際、自宅スタジオに基盤を据えている昨今のクリエイターからすれば、使っている楽器や機材の多くは出力端子がTRSフォーンなんですから、大変便利でしょう。avidOmni_1▲画面① ハードウェア・セットアップのアナログ入力設定部。基準レベルを+4dBu/−10dBVでの基準レベル切り替えに加えて、リミッターを搭載。テープ・サチュレーションをシミュレートした"ソフトクリップ"と、新規開発のナチュラルなリミッター"カーブ"とを切り替えることができるそしてこの入力のCH1&2には、マイクプリも搭載しています。入力端子はフロント(XLR/TRSフォーン・コンボ)とリア(XLR)の両方にありますが、フロント側が優先です(写真①)。アコースティック・ギターにマイク(SHURE SM57とNEUMANN U87AI)を立てて録音してみましたが、レンジは広く、低域から高域まで奇麗に拾ってくれます。かつ、ありがちな誇張感は皆無。質感はみずみずしく、とてもナチュラルです。こういったキャラクターを持つ製品の場合"原音に忠実"であると表現されますが、僕はここに"魅力的な音"と付け加えておきたいと思います。今回、回路の設計から見直されたとのことですが、さすがの仕上がりです。また、フロント側の端子は切り替えでHi-Zにも対応します。omni_1▲写真① フロント・パネルのアナログ入力端子(XLR/TRSフォーン・コンボ)付近。CH1&2の入力端子はリア側にもあり、同時に接続したときはフロント側が優先される。マイク/ライン/Hi-Zの切り替えが可能な上、PAD、ファンタム電源、ローカット、位相反転、ゲインのコントロールが可能。ステレオ・リンクにも対応している。リア・パネルのインサート端子に接続したアウトボードのオン/オフが可能なINSERTボタンも用意あらゆるマイクプリやマイクを取りそろえたスタジオで作業するのはもちろん素晴らしいことです。しかし実際のところ、最近はほとんどの制作現場は、アーティストやクリエイターの自宅や小規模プロジェクト・スタジオであったりします。そうした現場で何が求められるのか? 僕が知る限りではやはり"アイディアの発案から録音までのスピード感"が最も重要です。思いついたら即録音、編集、確認。駄目ならまた別のアイディア......と、これを繰り返してよりよいサウンドを構築していきます。従って、毎度毎度の録音が最終テイクまで使えるレベルのクオリティであることも大切です。新設計されたADコンバーターとピュアなマイクプリはこうした要望にフレキシブルに対応してくれると確信しました。そのほか、アナログ入力段には、192 I/Oに搭載されていた"ソフトクリップ"と、これと切り替えられる"カーブ"というソフト・ニー・リミッター機能を搭載。過大入力を避けることもできます。

2系統のモニター切り替えが可能ヘッドフォン端子も装備


続いて8chのアナログ出力。こちらはアナログ入力とは異なり、従来のD-Sub25ピン端子(8ch分)と、TRSフォーン端子×2(CH1&2または7&8)を搭載しています。XLRのブレイクアウト・ケーブルを使えばサミング・アンプやアウトボードなどのスタジオ機器へ出力することもできますし、例えばTRSフォーン端子とエフェクターをつなげるといったことも面白そうです。せっかくですから192 I/Oとの音質比較も行ってみました。同じ音源(CDプレーヤーで再生)を192 I/OとHD Omniで同時に録音。192I/Oで録ったもの(A/D)は192 I/Oで再生(D/A)、HD Omniで録ったもの(A/D)はHD Omniで再生しての聴き比べです。192 I/Oはさすが、これまで僕が耳にしてきた、各帯域でのダンピングが効いていて、非常にまとまり感のある音質でした。これに比べHD Omniは、すごく開放感にあふれるというか、高域から低域まで信号の破たんを感じさせない、原音と比べても非常に変化の少ない音であることが分かりました。直接的でとてもナチュラル、自然なAD/DAになったのだなと感じます。また今回からPro Tools Software上で、これらの出力端子からモニター・スピーカー用出力を設定できます。7.1chまで対応していますが、例えばステレオ2ペアといった設定も可能......つまりモニター・セレクター/コントローラーとしての機能も搭載しているのです(写真②)。これらのアウトプット系においては、ソフトウェア上での設定含め、ユーザーに対してかなりの"伸びしろ"が設けられているように感じました。omni_2▲写真② モニター・コントロール・セクション。ステレオはもちろん最大7.1chまでのモニタリング環境に対応(任意の出力端子をモニター出力用に設定する)。ボリューム・エンコーダーとミュート・ボタンを備える上、MAIN/ALTの2系統のモニターを切り替えることもできる。また、ヘッドフォン・アウトも搭載。モニター用CUEミックスをモニタリングすることも可能となっているこのほか、これまでのPro Tools|HD製品群からは考えられなかったヘッドフォン・アウトの実装もかなりうれしい変化と言えます。実はヘッドフォン・アンプの品質はとても重要で、スタジオ・ワークにおいても"この機種のヘッドフォン・アウト"という指定があるくらい、幾つかの定番(暗黙の了解)が存在するのですが、HD Omniはこれらの定番たちにも引けをとらない仕上がりになっています。安心してこのヘッドフォン・アウトをリファレンスにすることができるでしょう。 そしてついにというべきか、HD Omni本体にミキサーが内蔵されました。もともと定評のあったモニター時のレイテンシーの低さを、さらに極限まで抑えるように追求できます。実際にシンセサイザーの演奏を録音してみると、これまで以上のダイレクト感が得られました。タイミングに厳しいボーカリストや演奏家にも幅広く対応できるでしょう。またこれによって、Pro Tools Softwareを立ちあげなくても、HD Omni単体でも入出力が機能するようになりました。例えばCDプレーヤーの出力を常にモニター用回線へアサインしておくということも、HD Omniだけでできます。デジタル系統もぬかりはありません。S/P DIFをはじめADATオプティカル、AES/EBUも実装しています。特にADATはS/MUXに対応。通常は8ch、192kHz時には4ch入出力できます。

プロジェクト・スタジオのPro Tools LEからHDへの移行を促進


さて、ひと通りHD Omniを試してみて、一言で言えば"かなり使えるヤツ"という印象を強く受けました。一般的には業務用とされてきたPro Tools|HD製品群の中では異端児と呼べるでしょう。それでいて業界標準機となった192 I/OのDNAをしっかり受け継いでいるという......。僕が携わるようなあらゆる現場において、かなり大きなアドバンテージを得られる製品であることは間違いありません。総合的に見ると、HD Omniは、これから活躍するであろうクリエイターのために作られたのだと強く感じました。日々変化するプロジェクト・スタジオの要求にフレキシブルに対応し、クリエイターにとって快適な作業が続けられるようしっかりとサポートしてくれます。たかが機械ですが、そばによりそってしっかりと支えてくれる、大切なパートナーのような気さえします(笑)。今回の試用期間は短いものでしたが、長く付き合えば機能面/音質面での驚きと発見が多い製品だろうと思いました。HD Omniのこういった形でのリリースによって、Pro Tools LEのヘビー・ユーザーであるクリエイターに対して、Pro Tools|HDへの移行の間口が大きく広がったと思います。用途によっては素晴らしい働きをしてくれるPro Tools LEを悪く言うつもりはありませんが、数多くのトラックを同時に処理する際の音声処理能力や、DAWそのものの音質の肝となるAD/DAについて考えれば、LEのそれがHDに勝ることはありません。つまり予算や用途、必要性を考慮して、HDにできるのならばしたいものだと考えるのも当然でしょう。HD Omniのリリースによってハイエンドのクリエイターやプロジェクト・スタジオのPro Tools|HD化は加速度的に進むことと思います。またそういうオンタイムな需要に、驚くべきクオリティで応えられる製品を開発したAVIDに、賛辞を贈りたいと思います。文句の付けようがないくらいフレキシブルで完ぺき、非常にクオリティの高い製品です。omni_rear

▲リア・パネル。左からマイク入力(XLR)と、インサート・センド(TRSフォーン)&リターン(TRSフォーン)が2組。ライン・イン(TRSフォーン)×4、モニター用TRSアウト(TRSフォーン)、ライン・アウト1〜8(D-Sub 25ピン)、AES/EBUアウト(D-Sub25ピン/8ch分)、AES/EBU入力(XLR)、S/P DIFコアキシャル入出力、オプティカル入出力(S/P DIFまたはADAT。S/MUX対応)、リモート端子(D-Sub 9ピン)、HD Coreカードや他のI/Oと接続するためのDigi Link Mini端子×2、ワード・クロック入出力(BNC)、ループ・シンク入出力(BNC)、電源コネクター


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年11月号より)
AVID
HD Omni
315,000円
▪アナログ入力/4 ▪アナログ出力/8 ▪モニター・セクション/7.1ch/5.1ch、ステレオ、モノラル ▪スピーカー切り替え/2セット ▪マイク入力/ゲイン:65dB、周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.05dB)、EIN/−128dB、全高調波歪率:−107dB(0.00045%)、CMRR/−93dB ▪ライン入力/周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.03dB)、ダイナミック・レンジ:118dB(A-weighted)、全高調波歪率/−111dB(0.00028%) ▪ライン出力/周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.03dB)、ダイナミック・レンジ:120dB(A-weighted)、全高調波歪率:−108dB(0.00039%) ▪ヘッドフォン出力/周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.03dB)、ダイナミック・レンジ:118dB(A-weighted)、全高調波歪率:−107dB(0.00045%) ▪外形寸法/483(W)×44(H)×360(D)mm ▪重量/約5kg(本体/実測値)

▪Pro Tools|HDシステム、Pro Tools HD Software 8.1以降